ICTフォーラム 2014.4.4. 瀧川記念学術交流会館 (1)開会挨拶 MSのライセンスなど情報化を進めてきた E-learningの利用について関心が高まり,大学改革が強く要請されている 学生自身の中にICT能力を高く持つ者が増えている Win95ブームが1995なので,それから20年近く経つ 学生たちは既にICT世代 ICTの教育応用については様々な方面の様々なプログラム 例えばMOOCsで大学の外に向けて大学のコンテンツを発信 実験や実習などで大学の中でのInteractiveな学びの支援→今日のテーマは講義支援(LMS) センター長は専門家ではなくユーザだが大学全体のICTを推進していく立場 LMSを使った新しい学びと教えについて2人の経験豊富な先生に講演頂く (2)招待講演1:木原寛先生(富山大学を定年退官したばかり)「富山大学でのMoodleの利用について」 東大・理学博士,物理有機化学,化学教育などが専門 富山大学は全学でMoodleを使っている。木原先生自身もMoodleを使った教育,開発に取り組んでいる (目次) 1.教育へのコンピュータの利用 2.富山大学でのMoodleの利用について 3.Moodleのテスト問題一括作成ツール 4.越中とやまMOODLEワークショップ(毎年11月に開催。第3回までやった) MOOC (Massive Open Online Course) 2006 Khan Academy 2008 MOOC 2012 いろいろスタート やっている人たちはe-Learningのやり残し感がある 2001「eラーニング元年」 e-Japan重点計画 教育(機関)の情報化 文科省の資料にもよくICTという言葉が出てくる eラーニングシステム 1995 WebCT 1997 Blackboard 1999 Moodle 2003 日本WebCTユーザ会:2日間泊まりがけでやったのでWebCT以外の情報交換もできた eラーニング=黒船襲来説:一流大学の有名な先生の講義がオンラインで受けられるなら,他の多くの大学はその分校になる? 実際はそうならなかった。 投資に対してリターンが期待ほどでない eラーニング以前の2つのブーム <1>CAI: スプートニク・ショック→教育の現代化とくに自然科学の教育の改善。高校化学教科書が難しくなったため このころの計算機は大型。数十億~数百億 これを惜しげなく教育に使った メインフレーム+TSS端末が行われた 算数ドリルをコンピュータで,とか(司馬正次「教育とコンピュータ」培風館,1972) テキストベースなのに数十億円 成果が上がったという報告はない 成果が分からなかった(教育自体が標準化されていない) <2>マイコンCAI: これはパソコンのこと。1977のApple II,1982のPC-8801 グラフィクスができるのが大きい 分子模型が回せるとか シミュレーション教材を大勢の人が開発した 電気分解のシミュレーションを木原先生も開発した。漢字はJISコードを 1つずつ引っ張るとか苦労 (※1990年頃は,ぼくもPC9801VM2上でLSI-C86試食版でコンパイルした バイナリとともにソースもlzh圧縮したプリンタ制御ユーティリティなどを Public Domain Softwareとして作って草の根ネットで公開していた。 そういえば,一世を風靡したこの圧縮アルゴリズムlzhこそが次演者の 奥村先生をパソコン/ネット界で一躍有名にしたのだったと記憶している) どんどん機械もソフトも進歩するのですぐに陳腐化する問題 学生は面白がるが成果は不明 eラーニングが使えるようになったところで富山大学着任(2003年頃) 富山大学で最初は BlackBoardが入っていたが使われていなかった マニュアルにはメニューの説明しかないので,使ってみないと何ができるかがわからず, 使ってみるとたいしたことなかった Webを使って学習させるときに,こんな機能があったらいいなあというものが最初から組み込まれているものがLMS 自前のプログラムでLMSをやっている大学もかなりあった eラーニングは単位の実質化に寄与できるか →できる (といわないと,このフォーラムの主旨がぽしゃってしまうが) 従来の課題の実施 1週目:課題提示+実施 2週目:提出+採点 3週目:返却 採点や返却はしない大学やしない教員も。 LMSを使うとこれが 1日目:課題提示+実施+提出+採点+返却 全部終わらせることが可能 でも,これは日頃から課題を出して採点することをしていないと,仕事が増えるだけ 普段から課題を出している人には労力削減(効率化)になる eラーニングによるコスト削減は可能か→可能だが簡単ではない 手間:教員は夜も忙しくなる。 経済的コスト:富山大のBlackBoard導入はコスト削減を目的としていたが,そうはいかなかった? 毎年同じようなテスト/学科共通テストを分担 などでは手間は省ける 経済的コストは規模や利用度によるが,必ずしも主な問題ではない 純eラーニングはうまく行くか? (完全なオンライン講義) 富山大学ではやっていない(公式には) ポイントは, コースの質の確保 学習意欲 MOOCの成功は学習意欲が高いが貧しい人が学ぶから 既に学費を払って富山大学に来ている人に向いているかといえば,そうではない 落ちこぼれ→落第も学生の自己責任というならいいが 契約に基づいて教育して送り出すという約束だと難しい 富山大学は2005年10月に富山大学+富山医科薬科大学+高岡短期大学が合併統合した 元々の風土が違うので未だに大変 富山大学総合情報基盤センターが管理・運用する学習管理システムの移行 BlackBoardはbasicエディションだった。統合したとき機能不足。エンタープライズエディションは高い Moodleも検討したが,当時日本ではユーザグループが活発で,破格のディスカウントがあったWebCTを導入した Moodleは保険の意味で試験導入した(WebCTとUIが似ている) 2004-2005に木原先生がBlackBoardユーザを増やしていたので,そちらも止められなくなった WebCTのバージョンアップで操作性が変わったときWebCTを止めようと思ったが,そこで WebCTの会社がBlackBoard社に吸収されたので交渉して両方使わせて貰うことに Moodleも別途使い続けた 富山大学の端末室は3つのキャンパスにかなりたくさんある 学部のは24時間開放 24インチディスプレイ たくさんのソフトをインストール済み(Mathematicaとか高いものも) エディタもブラウザもたくさん入っている メモ帳アイコンをクリックすると秀丸が立ち上がるとか LMSサーバの構成は ブレードサーバXeon X5670 x2がフロントエンド(DMZ),データベースサーバは内部ETERNUS DX90 x2 最近はかなり負荷が高くても大丈夫 定期バックアップ コースバックアップは毎日 サーバのディスク領域は週1回 しかしこれまでバックアップから復旧しなくてはいけないようなトラブルは一度もない MOODLE 1.Xに追加した非標準機能 フィードバック(バージョン2では標準) 課題の一括ダウンロード(これもバージョン2では標準) Moodle for Mobile(富山が田舎なので教室内で一斉に使おうとするとつながらなくなって廃止) CATモジュールとTDAPブロック(テストを受けるとき回答率・時間などを見てその人にあったレベルの問題を出す機能があったが誰も使わなかった) 暗記カードプラグイン(フラッシュカード) (症例)診断モジュール STACK Jmol Resource 下2つはまだ使っている 利用環境の改善(意図したわけではないが段階的に使いやすくなった) 学生全員を登録→教員用ガイド→VPN接続→LDAP認証→学習者用ガイド→学外公開 顧客満足度は,環境がそのままだと低下する。改善していって初めて横這い 現在のMOODLEでは変更点は LDAP認証 Firstname, Lastname を 学籍番号,氏名に MathJax(数式表示用) リポジトリの追加 なるべく標準から変えないようにしている 追加したのは STACK Jmol Resource Enrol users with CSV 高度なフォーラム(匿名許可など) 課題の一括ダウンロードの際のファイル名をつけられるように ユーザ登録 学生・教職員 全員 病院職員など使わない可能性もあるが全員 研究生やオープンクラス受講者は希望者 コース作成申請 教員が必要な時にできる。許可までは10分だったり1日だったり ユーザサポート Moodle入門講習会(最初業者に頼んだがわからないと不評だったので自前でやるようにした) ヘルプデスク(電話やメールでの質問:メーリングリストになっていて,他のユーザからの回答があるのが利点) Web上のガイド情報 Blackboard→250コースほどあるが来年停止予定なのでMoodle2への移行推奨 Moodle1.9→停止 Moodle2→増加 が併用されている。今後Moodle2へ一本化予定 教員の人数は1000人弱。250コースということは4人当たり1つのコースがあるということ 教員向けガイドの作成(オンライン) バージョン違いでがらっとUIが違うので覚えきれない ヘルプデスクで対応しても問題の再現に手間がかかるとか。 →ヘルプデスク対応時のメモをまとめたものから発展したガイド コースへの登録 自己登録:教務システムとの連携はしていない(履修登録はお試し期間があるので,それより先に始まるコースには自己登録しかない) 履修者データの利用 「登録」を無効(不可視)にした場合の影響: 登録機能が利用できなくなる→Moodleの制限 当該登録方法により登録した利用者がコースを利用できなくなる Moodleの利用目的 授業 医学部CPC 会議資料 電子会議 職員研修 教育実習の履修カルテ 時間帯ごとのアクセス数:8:00-17:00くらいがメイン 夜間に使っている人もいるが少ない 自習コースをMoodleで提供している場合,自宅から夜中に使われるアクセスも多い 利用の仕方 連絡 教材:文書,ビデオ 課題 テスト アンケート フォーラム リンク 成績表 しかしコンテンツの種類や量,メニューの分類方法は教員によって異なる 変わった使い方の例としては 授業内容のまとめをレポートとして提出させる 未提出者にメールを送って警告する レポートの採点はしない(→これは良くない。コピペされる) 出欠の参考にする 授業の最後でまとめを書かせる時間が不要 未提出者のリストが自動的に得られる 教科書の問題をそのまま利用する:Moodleでの小テスト問題の作成が簡単。採点は自動 PDFでテスト問題を提示し,解答は紙で提出 複雑な数式 記述式問題は教員が採点する 印刷不要 全部フォーラムだけですませる教員も。連絡・教材・課題・アンケート 紙のテストの成績をMoodleに転記:面倒 医学部CPC(NHKのドクターGのようなもの?) 教材提示,説明:PDF,Powerpointファイル 画像の提示:PDF,リンク 投票 課題 Clinico Pathological Conference(臨床病理検討会) Jmol Resource 分子模型の表示:使っている人は薬学部1名のみだった STACK 問題の解答を数式として評価する (a-x)^2と(x-a)^2が同じとわかる 複雑な数式を含む問題を作ることも可能 啓林館の許可をもらって,高校数学の教科書のサポート教材を作っている→各大学で共有したら便利! 以上詳しくは http://www.itc.u-toyama.ac.jp/moodle2/tools/ 参照 (3)招待講演2:奥村先生「三重大学Moodleの8年間」 日本初のMoodleの本「Moodle入門」(2006) 2005年学長補佐(情報担当)→eラーニングをやれという要請 2006年三重大学Moodle開始 現在1.9と2が共存している Moodleのログに載った項目数=ページビューは,2013年で700万くらい 2への移行要請はしているがまだわずかしか移行していない コース数:2000 学生ユーザ数:7200 教職員ユーザ数:1300 データベースダンプ:2.5GB ファイル数でいうと合計40万ファイル以上 使っているクラスと使っていないクラスで授業評価を比べると,すべての項目で使っているクラスの方が評価が高かった (バイアスありそうだが) 三重大学はキャンパス1つ。遠隔講義の必要性は少ない 学生は真面目で授業に出てくる 文科省からはeラーニングをどれくらいやっているか問い合わせが来る 全学に無線LAN(※これは神戸大もできている) Office包括契約(※これも神戸大もやっている。個人的にはむしろLibreOfficeで統一の方が嬉しいが) 生物資源学部はノートPC必携 全部のシステムをLDAP認証で統合(※これも神戸大もできていると思う) 電子シラバス,教員活動DB,Moodle,DSpace,Active mail→Gmail, Universal Passport,GAKUEN,Movable Type moodleはコースマネージメントシステム コース単位 eラーニング教材を入れる場所。授業用のグループウェアであるといっている 成績管理にも使える。eラーニングは強調していない *moodleで解決する問題 アクセス制限のある授業用Webページを作りたいがHTMLとかアップロードとかわからない レポートでメールボックスが溢れる 差出人不明のレポートで困っている レポート「出した」「出てない」騒動 以下の要望に応えられる 研究室の連絡用掲示板を作りたい:Google Groupsよりお薦め(セキュリティも) 共同研究用にファイル置き場を作りたい 委員会の議事録置き場 一斉にメールを送りたい メーリングリストで大きなファイルを添付すると嫌われる Don't reinvent the wheel ということで自作ではなくmoodleを用いた 2005年頃,学生を使った試験利用の頃はいろいろな問題 ログインすらできない(姓名が名・姓の順であるとか,都道府県や国を入力させるとか) カスタマイズ ソースを書き直した。都道府県→学部・学科,国→三重大学 いろいろな要望 日本語ファイル名,メール文字化け,携帯メールアドレス非対応,名前で呼んでくるとか,ログインしなくてもユーザ画像がURLで見えてしまう,ガラケーで使えない,など 手抜き管理術 *管理人たりとも他人のコースを覗かない *先生はコース作成権限をもつ。オレオレコースも自由に作れる *学務データを使わない。学生は勝手に自分のコースに登録する(先生は必要に応じて登録キーを設定) *年に一度の移行処理! (moodleを最新バージョンにする。過年度のmoodleはそのままの状態でコピーして保存。ディスク容量を食うが安心) Moodle推進戦術 *e-Learningといわない *講習会+ユーザの輪 *学生「先生,Moodle使ってください」(課題をプリントせず家からでも提出できるので学生にメリット大) *使ってみたいと言われた先生には研究室に押しかけてお手伝いする *Moodleデモサイト(動画による使い方の説明も含む)の作成 まずは「フォーラム」を作ろう 談話室とかで,自己紹介しなさいとかコメントしなさいとかいうと学生が答えて勝手に盛り上がる (炎上したらどうする? 炎上しないためのルール設定とか?) 慣れてきたら「投票」をやると盛り上がる。投票者にも結果が分かる 「小テスト」が「出欠」よりお薦め 自動採点もさせられる 「課題」 お互い通し見せたくないような場合。ファイルを提出することもできる フォームでテキストを書くこともできる Moodle2ではファイルはいくつでも添付できる 「ファイル」 パワーポイント資料などをここに置けばいい ゼミ 各個人別のフォーラムを作る。個人指導に有効 共有のゼミ室というのも 卒論・レジュメのサンプルは「ファイル」としておくと参照できる 他の先生の使い方 ディスカッションに「チャット」 まとめに「Wiki」 フォーラムでもPBL型授業に使える 情報伝達作品を提出させ,フォーラムでピアレビュー 授業の解説Movieを作り,それで予習してから授業に来るようにさせている システム面 HEDC(高等教育創造開発センター)にMoodleを置いている 2005年頃は典型的な授業はほとんどの学生が眠っていた その頃,医学部の先生が中心となってPBLチュートリアル授業推進(教示型の授業をやめた) ドクターGをみてもわかるように,こういう参加型授業だと学生も必死に勉強する →これを全学に広めよう! PBL授業での学習の進め方の全学展開とMoodle活用がちょうどマッチした *グループごとに問題を提示して,学生同士で相談しながら調べてレポートを書いてアップロード *教員はfacilitateするだけ HEDCの議事録や情報発信のファイル置き場もMoodleの中にある e-Learningとしては INFOSS情報倫理という教材を提供している これを一通りやれば情報倫理が身につくという教材。よく使われている 卒業生用のMoodleも作った。LDAPアカウントが消滅しても,在学中に一度でもログインしていれば 使えるように。ハードウェアはCentOS,Apache,php,MySQL ありふれたもの 研究室サーバでいろいろ実験している TeXのフォーラムもMoodleで作っている PBL Moodle 2とか SSS Moodle! 毎年のシンポジウム。参加者の交流とか。発表ごとにフォーラムを作ってディスカッションとか 情報処理学会「教育とコンピュータ」のtransactionの論文提出場所もMoodleで進行中 学生の課題提出と同じ仕組みで論文投稿 携帯でも使えるMoodleも奥村さんのサーバで実験的にやっている moodle.orgというサイトのJapanese moodleというコースで質問すると誰かから返事が来る 有名なMoodle活用例 英国Open University 熊本市民 放送大学UPO-NET 最後は奥村さんとMoodle開発者の2ショット写真 <<質疑応答>> 多くの機能はFacebookなどSNSでカバーされる ユーザへの壁はその方が低いのでは? →SNSとして使うならFacebookの方がいいだろう →しかし個人情報とか成績にはFacebookは使えない 自己紹介とそれへのコメントなどで議論が盛り上がるのはいいが 炎上しないか? 防止のルールは何か工夫している? →記名式で顔が分かっているので炎上したことはない →大学のシステムということもあるし,自制するのだろう →書き込みがない方が心配(木原先生も同様のお答え) Learning analyticsは? →三重大学ではまだやっていない。 →たぶん面白いと思う(いくつか既存の研究もある) →共同研究希望 学生がどんどん書き込んで盛り上がるのが興味深かった →学生はface-to-faceよりオンラインの方が発言する →今は裏でLINEでもりあがっているようだが,LINEがなかった頃はよく使ってくれた PBLには授業スタイル・教室の構造もやりやすさに効く? →階段教室はダメ。三重大学はPBL教室をいくつか作った →三重大学はあまり大教室はない。普通教室でも高校の教室のようなところが多い WebCTを名古屋大学で早くから導入していたが,一部の教員しか使わなかった 活用している授業はほんの一握り。インターフェースがわかりにくく使いにくい 一般の教員にとってそうでもなかった 他のシステムに比べてMoodleの敷居の低さはどうやって? →奥村先生が(頼りなさげな雰囲気で?)あの人でもできるという感じで進めたから。