この文書の元は1995年頃,パソコン通信のボードに書き込んだものである。それを若干改変して,1997年4月頃,喫茶MLで話題になったときに投稿した。今回,青空MLで話題になったので([4561],[4569],[4570],[4571]),若干の新しい情報を追加し,webで公開することにした。
動物実験と南太平洋の鉄アルミナ質土壌の地域では中枢神経の変性疾患が高いことを組み合わせて,アルミニウムが中枢神経の変性を促しているかもしれないと論じている。
アルツハイマーで死亡した患者の脳の二つの病変部位の一つで神経原繊維変化(neurofibrillary tangle)を起こしているところがあり,そこからアルミニウムがみつかって,そこから得られたタンパクに3価のアルミニウムイオンを加えたところ,高次構造がαらせんやランダムコイルからβ構造に変わり,十分な量のアルミニウムを加えると,ついにはタンパクが不溶化して沈殿してしまうことがわかった。
3価のアルミニウムイオンは、脳内のアミロイドタンパクのアスパラギンが3箇所で右旋性のものに置換されたもの(アルツハイマーアミロイドタンパク)と協調作用して、そのタンパクのβ構造の特徴を強化し安定させる役割がある。
食物や調理に使われる水や容器からの溶出などは,制酸剤や鎮痛剤のアルミニウム含有量に比べればずっと小さい。健康な人体はアルミニウムを吸収しないような効果的なバリアをもっているので吸収率は1%未満であり,大部分は尿(と糞便)中に排泄されてしまう。アルミニウムを脳に直接打ち込めば神経毒性を発揮することが動物実験でわかっている。カナダで高レベルのアルミニウムダストに職業曝露したヒトについては,認知能力や神経学的な損傷が見られた。しかし,食物からの摂取で健康なヒトがアルツハイマーになったという臨床事例はない。アルミ容器を使ったときに食物中のアルミニウム濃度が有意にあがったという報告はあるが,その絶対値は小さい。
普通に食物や水から摂取されるアルミニウムは,1日当たりせいぜい12-14 mgであり,脳においてありうるアルミニウム濃度は1リットル当たり10-15から10-5モル程度である。このレベルのアルミニウム濃度では脳における糖代謝に影響は出ない。
上記多くの地域相関研究とは異なり,飲み水中のアルミニウム濃度と記憶力は関連がなかったという論文。ただし,80歳代の人を対象にしているので,アルミニウムによって引き起こされたアルツハイマーの人は既に死亡している可能性があるし,検査が限定的と思われる。
飲料水中のアルミニウム濃度に注目した研究は多いけれども,それよりもずっと濃度が高い食物中のアルミニウム濃度に注目した研究がなかったので,23人ずつという小規模な患者対照研究をやってみた結果,パンケーキやワッフルやビスケットなどのアルミニウムが多い食べ物を食べてきた割合が,患者と対照の間で有意に違っていた,という論文。
Challenging Views of Alzheimer's Diseaseと題して2001年7月28-29日にシンシナティで行われたミーティングの報告。酸化的ストレスを介した神経毒性があるためにアルミニウムがアルツハイマー病を悪化させる報告が数多くあったとしている。
カナダでの5年間のフォローアップによる疫学研究でアルツハイマー病のリスクファクターを調べた結果,喫煙や高血圧や制酸剤(アルミニウムを多く含んでいる)の使用はリスクと無関係だった。もっとも,この研究の力点は,非ステロイド系抗炎症剤の使用,ワインやコーヒーの摂取,定期的な運動がアルツハイマー病のリスクを低下させるという点にあるようである。
酸や食塩が強い食品のときに溶出が比較的大きいが,すべての食品がアルミニウム容器で調理され保存された場合でも,それ起源のアルミニウム摂取量は一日あたり6ミリグラム程度にしかならないので,1週間に体重1キログラムあたり7ミリグラム(成人男性で1日約60ミリグラム)というFAO/WHOの基準値(正確に言えば暫定許容水準)に比べて非常に低い(約10分の1)。