山口県立大学 | 看護学部 | 中澤 港 | 疫学
疫学第2回:疫学指標とその標準化
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疫学指標
☆日本疫学会編「疫学」の第2章,3章を主に説明する。
- 頻度に関する疫学指標とは
- ●分母を定義する必要性と重要性〜疫学の定義からいっても当然
- ●分子を定義する上で注意しなければならないこと
- 診断基準
- 信頼性(reliability)・妥当性(validity)・正確さ(accuracy)・精度(precision)
※詳細は,標準化についての言及も含めて第10章を参照。
- 頻度に関する疫学指標のいろいろ
- ●有病率(prevalence)
- 有病割合と呼ぶ方が紛れがない。一時点での総数に対する患者の割合。無次元(人/人なので単位がない)。
- 一時点でのということを明示するには,point prevalenceという。
- 意味:急性感染症でprevalenceが高いなら患者が次々に発生していることを意味するが,慢性疾患の場合はそうとは限らない。
- 応用:行政施策として必要な医療資源や社会福祉資源の算定に役立つ
- 例:高血圧や高コレステロール血症はprevalenceが高い。
- ●罹患率(incidence rate)
- 発生率。個々の観察人年の総和で発生数を割った値。次元は1/年。
- ”A Dictionary of Epidemiology, 4th Ed.”に明記されているように,incidenceは発生数である。
- 感受性の人の中で新たに罹患する人が分子。再発を含む場合はそう明記する必要がある。
- 意味:瞬時における病気へのかかりやすさ。つまり疾病罹患の危険度(リスク)を示す。
- 疾病発生状況と有病期間が安定していれば,平均有病期間=有病割合/罹患率
- ●累積罹患率(cumulative incidence rate)
- 期首人口のうち観察期間中に病気になった人数の割合。無次元。
- 追跡調査でしか得られない。ただし脱落者は分母から除外する。
- 無作為割付けの介入研究でよく使われる指標。
- ●死亡率(mortality rate)
- 総数のうち,ある一定期間に死亡した人数の割合。
- 分母分子ともカテゴリ分けした死亡率はカテゴリ別死亡率(category-specific mortality rate)となる。分子だけカテゴリ分けする例としては,死因別死亡率(disease-specific mortality rate)がある。
- 一般に期間は1年間とするので,分母は1年間の半ばの人口を使い,それを年央人口と呼ぶ(日本の人口統計では10月1日人口を用いる)。
- 意味:疾病がもたらす結果の1つを示す指標。
- 年齢によって大きく異なるので,年齢で標準化することが多い。
- ●標準化
- MS ExcelやStarSuite/OpenOffice.org Calcなどの表計算ソフトを使って計算すると楽。
- 死亡率の場合なら,直接法年齢調整死亡率と間接法年齢調整死亡率がある。
- 直接法は,対象集団の年齢構成が基準集団と同じだった場合に対象集団の年齢別死亡率に従って死亡が起こったら全体としての死亡率はどうなるかと考える思想。情報としては対象集団の年齢別死亡率が必要。
- 間接法は,対象集団が基準集団の年齢別死亡率に従って死んだ場合に期待される死亡数で実際の対象集団の死亡数を割って標準化死亡比(SMR)を出し,それに基準集団の死亡率を掛けて得る。対象集団についての情報としては,年齢別人口と総死亡数がわかっていれば十分。
- 死亡率の標準化の計算例の表計算ワークシートは,OpenOffice.org Calc形式(7.1 KB)またはMicrosoft Excel 97/2000形式(10.2 KB)で参照可能。
- ●致命率(case-fatality rate)
- ある疾病に罹患した人のうち,その疾病で死亡した人の割合(%で表す)
- 意味:疾病の重篤度を示す
- ただし慢性疾患では有病期間が長いので,観察期間の設定が重要。
- いくつかの仮定をおけば,致命率=死亡率/罹患率
- ●死因別死亡割合(proportional mortality rate; PMR)
- ある特定の死因による死亡が全死亡に占める割合。
- 増減はその疾患の増減だけでなく,他の疾患の増減とも連動する。
- ●PMI (proportional mortality indicator)=50歳以上死亡割合
- 全死亡数に対する50歳以上死亡数の占める割合(%表示)
- 計算に必要なのは年齢2区分の死亡数のみなので信頼性が高い
- 生命予後を表現する主な指標
- ●生存確率,平均年間死亡率,期待生存年数など。
- ●生存関数S(t):少なくとも時点tまで生存する確率。
- ●生存関数の分析を生存分析(または生存時間解析; survival analysis)という。通常,統計ソフトで実行。
- ※メディアン生存時間(=半数死亡年齢),期待生存年数は生存関数から計算する。
- ※期待生存年数の計算法としてDEALE法ではS(t)=exp(-mt)を仮定し1/mを期待生存年数とする。
- ※生存関数の分布型を仮定する方法を総称して加速モデルという。DEALE法は指数関数を仮定した加速モデルである(ただし1つのデータ点を通る関数を求めるのできわめて単純なものである)。
- ※分布を仮定しない生存時間解析として有名なものにカプラン・マイヤ法がある。
- ※2つの生存関数に差があるかどうかの比較法:ログランク検定(CMH法とPeto and Petoの方法がある)。
- カプラン・マイヤ法
- ●打ち切りデータを扱える。全対象者についてイベント発生までフォローできる場合は稀なので,メディアン生存時間の推定には,打ち切りデータを扱うことが必須。
- ●各死亡時点tにおいて,それまで生存している人がその瞬間に死亡するハザードを1から引いた値を時点ゼロでの生存率1に順に掛けていくと,各時点での生存確率が出る。
- ●信頼区間はグリーンウッドの公式で得るが,通常は統計ソフトで実行する。
- ※統計ソフトRでテキストpp.25の例2を分析するプログラムは下記の通り。図も書けるし,メディアン生存時間や95%信頼区間つきの生存関数も得られる。
library(survival)
time <- c(2,2,3,5,5,7,9,12,12,18)
censoring <- c(1,1,0,1,0,0,1,1,1,0)
dat <- Surv(time,censoring)
res <- survfit(dat)
print(res)
summary(res)
plot(res)
- 生命表
- ●生命表は,離散型の生存時間解析。年齢別死亡率から平均余命を計算する。
- ●表の形にして計算するので生命表と呼ぶ。
- ●1歳階級で大集団を計算する場合は問題ないが,5歳階級の死亡率を使う場合は補正が必要。
- ●計算練習:ヒトだと長生きするため計算が大変なので,ハムスターの死亡について計算練習する。qx=mx/(1+mx/2)により(最高年齢の階級だけは全員がいずれは死ぬように1にする),年央人口で年齢別年間死亡数を割ったmxをちょうどx歳からx+1歳までの死亡率qxに変換(近似式なので誤差はある)。普通,高齢のLxはlxに曲線を当てはめて推定するのが普通だが,この練習では補正しない。
年齢 |
mx |
qx |
mx |
mx |
mx |
mx |
eox |
0 | 0.5 | 0.4 | 100000 | | | | |
1 | 0.26 | 0.23 | | | | | |
2 | 0.26 | 0.23 | | | | | |
3 | 0.5 | 0.4 | | | | | |
4 | 1 | 1 | | | | | |
*表計算ワークシートは,OpenOffice.org Calc形式(6.9 KB)またはMicrosoft Excel 97/2000形式(9.2 KB)で参照可能。
- 相対危険(Relative Risk)
- ●曝露群のリスクの対照群のリスクに対する比
- ●リスクとして累積罹患率をとると,累積罹患率比(cumulative incidence rate ratio)またはリスク比(risk ratio)
- リスクとして罹患率をとると,罹患率比(incidence rate ratio)
- リスクとして死亡率をとると,死亡率比(mortality rate ratio)
- 罹患率比と死亡率比を合わせて率比(rate ratio)という
- オッズ比(Odds Ratio)
- ●オッズ(ある事象が起きる確率の起きない確率に対する比)の比
- ●2種類のオッズ比(コホート研究における累積罹患率のオッズ比と患者対照研究における曝露率のオッズ比)は数値としては一致する(説明は以下の通り)。
| 病気あり | 病気なし |
曝露あり | a人 | b人 |
曝露なし | c人 | d人 |
- 上表のような観察結果があるとき,コホート研究における疾病オッズ比(disease odds ratio)は(a/b)/(c/d)=(ad)/(bc)となり,患者対照研究における曝露オッズ比(exposure odds ratio)は(a/c)/(b/d)=(ad)/(bc)となって一致する。
- なお,断面研究における有病割合オッズ比(prevalence odds ratio)も一致する。
- ●稀な疾病の場合は,オッズ比は率比の近似値として価値がある
- その他の指標
- ●寄与危険(Attributable Risk)=危険因子の曝露による発症増加を累積罹患率(リスク)または罹患率の差で表す(累積罹患率差=リスク差;罹患率差=incidence rate difference)。超過危険に等しい。
- ●寄与割合(Attributable Proportion)=曝露群の罹患率のうちその曝露が原因となっている割合。つまり罹患率差を曝露群の罹患率で割った値になる。罹患率比から1を引いて罹患率比で割った値とも等しい。
- ●人口寄与割合(Attributable Population)=母集団の罹患率のうちその曝露が原因となっているものを取り除くとどれくらいの割合,罹患率を下げられるか?という値。
Correspondence to: minato@ypu.jp.
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