枕草子 (My Favorite Things)

【第137回】 作図ソフトについて(1999年5月18日)

相変わらず,このページを更新するときは,最低でも4つのファイルを編集せねばならないので鬱陶しい。いきおい,更新頻度も落ちるというものである。何か解決策はないだろうかと考えていたのだが,いいことを思いついた。cgiを書けばいいのである。本文の追加以外はリンクを追加するという定型作業が大部分だし(日付や時刻など自動的に入れられるからJavaScriptも止められる),書評掲示板と違って自分だけが書き込めればよいのだから,fault-tolerantにする必要もない。新しいアーカイヴを作るときはパーミッションの問題があるから,どうせ手作業しなくてはならないので,そこの面倒なアルゴリズムは考えなくてもよい。入力フォームはローカルにおけばいいし,新規書き込み追加と同時にhtmlファイルができるようにすれば,外からの見た目は変化がない筈だ。なんだ,いいことずくめではないか。

問題は暇があるかどうかだが,コーディングは新幹線の中ですればよいのだ。将来において,もしこのページの更新頻度があがったら,それは,ここで構想したcgiができたことを示唆するものである。

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さて表題の作図ソフトだが,話の発端は昨夜教授から依頼された作図にある。フローチャートのようなものなのだが,日本語を枠の中にたくさん打たねばならないのと,枝分かれする線で枠をつながねばならないのはともかく,○に縦棒を引いて,その中心から右に線分を引いた図形を論理ゲートのように使わねばならないのが悩みの種であった。

人類生態学教室では,コンピュータで作図するなら,Canvas ver 5.03,ABC Graphic Suite,Microsoft Wordの作図ソフトのどれかを使うことができる。

10年前には,DOSからCanonのLIPS IIプリンタに図を打ち出すためのインタープリタを書いて使っていたし,その後暫くはGNUPLOTを使ったこともあった。Windows 3.1の頃はEASTという会社のhDrawとかいうソフトを使ったこともあったし,PageDrawというフリーソフトもEPSを扱えるので重宝した。Windows DrawやCorel Draw 3Jを使っていた時期もあった。しかし今は上記3つのどれかで大抵の用が済む。

しかし,実はどれも一長一短である。バージョンが古い,というのも一因かもしれない。Canvasは6.0が出ているしABC Graphic Suiteも2が出ている。CanvasはEPSの編集ができるし,レイヤーが使えるので,複雑な図の編集をするのに便利である。しかし,「枝分かれする線で枠をつなぐ」用途には向いていない。ABS Graphic SuiteのDesigner 6.0はWindows98では日本語が入力できない。CanvasやDesignerの曲線編集機能はすばらしいのだが(端点だけを動かしたり,変曲点を追加,削除したり,分割したり,自由自在である),枝分かれする線を書くには向いていない。Wordの作図ソフトは所詮おまけであって機能が低すぎる。図の大きさを先に決めることができず,中身を配置してから図の大きさをそこにフィットさせるというのは,このソフトが文書中にちょっとしたアクセントをつけるためのものであって作図を目的としたものではない証拠である。Wordのおまけでは組織図というのもあるのだが,部品が足りないし,左から右へのフローはまともに書けない。

結局使ったのはABC Graphic Suiteに入っているFlow Charter 6.0である。最新版は7なのだが,バージョンアップは有料なのでしていないのである。Flow Charterでは枠の中に日本語を書き込んだり,枠と枠を枝分かれする線でつないだりすることはきわめて簡単である。さらに,書いた後で枠を動かせば,つながれている線も同時に伸縮したり折れ曲がったりしてくれるという,すぐれものである。しかし,先にも書いた論理ゲートのようなユニットが難物であった。部品にないのだ。仕方がないので荒技を使った。手順は次の通りである。

  1. Flow Charterの「ツール」から「SPCチャートの挿入」を選んで,25, 25, 50と指定した円グラフを作成し,色を消し,枠を黒にする。
  2. 円グラフ全体を選択してコピーする。
  3. Designerに「形式を選択してペースト」でピクチャ(メタファイル)としてペーストする。
  4. 曲線に変換し,グループ解除する。
  5. すべてのゲートに共通する文字を記入する。
  6. 全体を選んでグループ化する。
  7. コピーしてからFlow Charterに移り,「形式を選択してペースト」でピクチャ(メタファイル)としてペーストする。
  8. 大きさを調整し,図形のプロパティでテキストエリアを左半分に限定してから部品に登録する。

後は普通に部品を配置して線でつなげばできあがりである。今日の午後3時が締切だったのだが,なんとか無事に仕上げることができた。これもABC Graphic Suiteのおかげである。アップグレードしようかなぁ。

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今朝は始発に乗れず,2番目の「あさま」で来たので,上野駅新幹線出口(公園口側)のところにある本屋で買い物をしてきた(始発でくるとまだ本屋は閉まっている)。文庫を3冊(大原まり子「見つめる女」,宮部みゆき「夢にも思わない」,ローリー・キング「シャーロックホームズの愛弟子:女たちの闇」)と,コンピュータ雑誌2冊である。文庫はそのうち書評掲示板の方に書くと思うので,コンピュータ雑誌の方だけ紹介しておく。bitC MAGAZINEである。学生の頃は毎月数誌を買っていたのだが,最近ではWEBでImpressのWATCH Headlineとか,SoftbankのZDnetとかASCII24を見る方が早いし詳しいことが多いので,総合誌はいつのまにか買わなくなった。コンピュータ雑誌を買うのは,何か買い物をしたり申請書を書いたりするときか,扱われているトピックが気に入った場合のどちらかである。申請書を書くのに役に立つのは日経ベストPCとComputer Shoppers Japanである。中途半端な試用レポートよりも,カタログ雑誌と割り切ってくれた方がぼくには便利だ。今回の買い物は扱われているトピックが気に入ったからである。bitの特集「ゲノム情報から生命の原理を探る」は,遺伝研の斎藤成也さんも記事を書いているし(太田聡史さんと共著で「生命システムの進化」),蒲原聖可さんの「ヒトはなぜ肥満になるのか」の「おわりに」で触れられていて気になっていた「DNAチップ」の非常にわかりやすい解説もある。予想外の収穫は「長波時計の作り方」。こういうのには痺れてしまう。C MAGAZINEの方は第一特集の日本語コードが目当てである。UTF-8についてきちんと書かれた資料を紙に書かれた形でもっておくことは意味があると思う。C MAGAZINEはPNGフォーマット(画像フォーマットの一つ)の特集もやってくれたことがあるし,なかなか見識の高い雑誌だと思う。PC UNIX系の雑誌は,相変わらずパッケージ解説やインストールや設定やポーティングレベルで止まっていて,どれも大同小異であり,買う気がしない。デバイスドライバの書き方とかカーネルプログラミングの技法とかに焦点を絞った雑誌がそろそろ出てもよい頃だと思うのだが。

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コンピュータ絡みということでついでに書いておこう。SETI@home (search for extraterrestrial intelligence at home)Windows版が出たので,メインのデスクトップマシンにインストールしてみた。これはスクリーンセーバーとしてだけ見ても楽しいが,自分が使っていない間に世界的なプロジェクトに貢献しているという気分が何とも言えぬ。K6-2 400MHzマシンでメモリも256 MB積んでいるので,使わなくてはもったいない。自分のマシンの解析結果で地球外知性が見つかるとよいなあ,と夢は広がるのである。実はAlpha/Linuxマシンで動かしたいのだが,なぜだかSETI@homeはバイナリしか配布していなくて,Alpha/Linux版が公開されていないのでどうしようもないのだ。まあ,勝手にパッチを当てて結果の信頼性が落ちては困るからバイナリしか配布しないというのも一つの見識かとは思うが,テストデータとともに配布して正しい解析結果を出したものだけを認めるという手続きで,未サポートだったプラットフォームを取り込んでいくという手段は取れないものだろうか。

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まだあった。コソボ紛争や東チモール,北朝鮮のように人権の抑圧が行われている状況が存在するときにどうすべきか,ということ。米国主導の今回のNATOのように武力で介入するのは,内政干渉という点を別にしても,新たな人権抑圧を生むので,あまり上策とはいえないだろう。人道的目的で非人道的行為に及ぶというのは自己矛盾である。かといって,週刊金曜日への投書の一つにあるような状況はあまりにひどい。知っていながら何もせずにいるのは人道的でないような気がする。しかし,異文化接触という観点に立てば,表面に見える事象だけをつかまえて判断するのは危険である。ましてや「人道的」などというあやふやな(相対的な)見地から武力介入するというのは乱暴に過ぎるように思う。生まれつき無意味な加虐行為を好む集団があるとは思えない。むしろ,残虐行為に痛みを感じないような人間を作り出してしまう社会体制,情報,価値観,生活といったもの(つまり,ひとことで言えば「環境」)が原因なのであろう。とすれば,介入の手段は情宣(情報宣伝活動,の略。駒場の学生会館周辺ではよく聞いた言葉だ)によるのが筋である。飛行機を飛ばすことができるなら,空からセルビア語などで書いた平易なビラを撒けばいいのだ。隣国からの大出力のラジオやテレビで人権教育をすればよいのだ。情報通信機器を物資援助として当該地域にばらまき,対象となる民族の言葉で人権に関する啓蒙をするWEBサイトを立ち上げればよいのだ(インターネットに必要なインフラはラジオに必要なそれよりも遙かに大きいから壁は高いけれど)。ミロシェビッチ体制や金日成=金成日体制は何かがおかしいと思うのは日本や欧米など異文化からの判断である。情宣は,異文化が,当該文化に対して内側からの文化変容を起こさせるための,ほとんど唯一の手段である。もちろん文化変容は起こらないかもしれない。しかし,パプアニューギニアやソロモン諸島で,インスタントラーメンやラジカセや車が欲しくて先祖代々の土地にオイルパームのプランテーション設置を承諾する人々を見ていると,案外簡単に機能するような気もするのである。

逆に,文化変容を起こさせることは民族のアイデンティティに介入することだから,武力衝突より介入の度合いが深いという見方もありうる。しかし,介入の根拠が人権とか人道的とかいった,文化的価値観に基づくものである以上,介入も同じ平面で行わないと意味がないのではないだろうか。武器開発よりは,情宣の研究の方が安上がりだろうし,建設的だと思うのだが。なお,人道問題に限らず,異文化間の相互理解というのは必然的に文化変容を伴うので,情報通信システムがある程度展開してしまった現代においては,文化変容は否応なく進行する自然現象だともいえる。情宣の提案,いかがなものだろうか>NATO首脳各位(こんなところに日本語で書いていても仕方ないのだが)。


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