中国のパンダ保護区の里山保全の失敗かと思ったのは話が逆で,ジャイアントパンダが生息する地区を自然保護区域に指定したら,観光客が増えたことなどで却って住民の経済活動が盛んになり,人口も増えて人為的な影響が大きくなって森林が破壊され(森林面積の減少はリモートセンシングデータで実証している),パンダの生息に適した土地面積が減少したために,パンダ生息数も減りつづけているものと推定されたという話だった。大変に面白かったのだが,パンダの主たる食物である竹をリモートセンシングデータからは判別できなかったために森林で代用したという点が最大の論理的弱点かと思った。まったく人手が加わらない極相林だったら竹など生えないと思うので,薪採取などの人為的影響は必ずしもパンダにとってマイナスばかりではないはずで,パンダの生息数が減っている原因は,むしろ大気汚染などのようなもっと広域的なものに求められる可能性もあるだろうと思った。それに,かなり広範な人為的活動を完全に認める自然保護区など一般的ではないと思うので,当初思ったよりもこの論文のインパクトは小さくて,中国に特異的な話のように思った(端的に言ってしまえば,ここの保護政策が失敗しているだけかもしれない)。それにしても,この論文は最近Scienceに掲載されたもの(下記)だが,やはりScienceなどでは目を引くタイトルが大事なのだなあと実感させるものだった。
Liu J, Linderman M, Ouyang Z, An L, Yang J, Zhang H (2001) Ecological degradation in protected areas: the case of Wolong nature reserve for giant pandas. Science, 292: 98-101.