枕草子 (My Favorite Things)補遺・その2

ヒートアイランド現象と「風の道」計画

Copyright (C) Minato NAKAZAWA, 2000. Last Update on November 27, 2000 (MON) 15:24 .(2011年3月23日,サイト内リンクのみ更新)


(1)背景

都市における環境問題の一つとして指摘されているヒートアイランド現象は,名前くらいは聞いたことがある人が多いと思うが,何が問題なのか,また対策はどうしたらよいのか,という点についてはあまり知られていないと思う。

ヒートアイランドとは,都市では人間の活動によりエネルギー消費が増大し,アスファルトや建築物等の人工物による土地被覆が大きく,逆に緑地や開放水面が少ないために,郊外に比べて昼間の蓄熱が大きく,夜間の地面からの放熱が小さくなり,上空の方が先に気温が下がって地表近くに比較的高温の空気の塊が取り残されるという逆転層が生じ,逃げ場を失った高温の空気塊が島のように残るという意味で名付けられた現象である。東京などの大都市における夏の熱帯夜の一因となっている。気温が高いだけでなく,自動車の排気ガスや都市住民自身が排出する二酸化炭素などで汚染された空気が澱んで取り残されるため,大気環境としては非常に劣悪である。

「風の道」とは,ドイツのシュトゥットガルト市の都市計画で採用されたヒートアイランド現象対策である。郊外から都市に吹き込む風の道を造れば,郊外の低温の空気によって澱みが解消され,上空の低温の空気も降りてこられるようになって空気が循環するという構想の下,道路を拡幅するなど,風の通り道を計算に入れたきめ細かな都市計画が立てられ,一定の成果を得ていることで,注目を集めている。

ちなみに,ヒートアイランド対策としては,都市の熱収支の崩壊を食い止めればいいので,(1)都市の人工排熱を削減する,(2)地表面被覆の改変による熱収支変化を少なくする,(3)都市の構成,あり方を変えていく,という方針が考えられるが,「風の道」はこのうち3番目の施策に含まれる。具体的には,人工排熱の低減のためには,[1]設備の省エネルギー,[2]建物の改良,[3]自然エネルギーの利用,[4]未利用エネルギーの利用(都市排熱の利用など),[5]地域対策(地域冷暖房システムの構築や交通量の低減などを含む)などがあり,地表面被覆の改善としては,[1]舗装材の改善,[2]反射率の改善,[3]緑化,[4]開放水面の増加などがある。都市形態等の改善としては,「風の道」の他にも,水の道,エコエネルギー都市の実現,循環型都市の形成といった方策がある。

(2)コペルニクスによる長野市の「風の道」調査

「環境自由大学 青空メーリングリスト」で一緒に管理人を務めている須賀さんから,長野市環境基本計画を市民の側からも作っていこうという市民団体「コペルニクス」が,この風の道の調査を長野市でやるという連絡をいただいたのが,ぼくがコペルニクスの調査に参加させてもらったきっかけである。WEB日記にも書いたが,初回の調査はデータを出すことよりも市民運動としてのアピールという意味と環境教育的な意味が強いように思われたが,折角自分でもデータを記録したので,まとめてみようと思ったわけだ。なお,この結果はあくまで参加者としてのぼく自身のメモであり,公式の結果は,後日浜田さんがコペルニクスのサイトで報告されることに留意されたい。

調査日は2000年11月23日,降ってくるような星空の下であった。各測定ポイント(大抵は交差点や駐車場のようなオープンスペース)で,県自然保護研究所の浜田さんによる手作りの吹流しで8方位の風向と横・斜め・下の3段階の風力を測った他,デジタルの温湿度計を2台使って温度と湿度を記録しながら2時間ほど歩き回った。概ね浜田さんが事前に立てていた仮説の通り,長野市の西側を流れる裾花川の方から,市内を東の方に風が吹き抜けていたようだったが,場所によっては必ずしもそうではなく,風が複雑な通路をもっていることがわかった。強い風が観測されたときはほぼ西風だったことから考えると,障害物がなければ裾花川から市内に向かって西風が吹くのだろうと思われた。気温と湿度に関しては,夜が更けて気温が低くなるとともに相対湿度が上昇傾向にあるようだったが,これは飽和水蒸気圧と気温との関係を考えればあたりまえの現象である。詳細は下表に示す。

風の道調査地点
地点
(図)
時刻風向風速温度湿度
120:35西5.5℃76.8%
220:405.4℃77.6%
320:46南西4.8℃78.7%
420:53西5.5℃76.2%
521:005.3℃78.9%
621:05北西5.6℃75.3%
721:09西5.5℃75.2%
821:15西5.3℃78.4%
921:18西4.8℃78.0%
1021:25北東5.3℃79.8%
1121:30南東4.5℃81.7%
1221:37南西4.6℃79.5%
1321:43西強〜中4.1℃81.8%
1421:49北西3.8℃83.9%
1521:53西3.8℃83.3%
1621:59南西3.8℃83.3%
1722:04北西4.1℃82.4%
1822:10西4.2℃81.6%

(※)参考になるサイト

都市の循環構造
山梨大学工学部循環システム工学科北村眞一教授の講義ノート。都市の風と熱環境という小見出しの下でヒートアイランド現象について触れられており,ドイツのシュトゥットガルトでの取り組みとして,都市内に風の道を通すために,「広幅員道路や小公園を100m幅に、風道では建物は5階以下で間隔を3m以上に、都心丘陵開発の抑制、森林と風の抜け道などを地区計画に盛り込んだ」と紹介されている。
風の道
三菱総研のサイトで,環境の保全・創造の海外の事例として公開されている文書。背景,経緯,内容,効果,備考,他市事例の各々について,ドイツのシュトゥットガルトの「風の道」の簡にして要を得た説明が提供されている。考え方というところによると,風の道のための特定事業があるわけではなく,風の流れまで考慮したきめ細かな都市計画の必要性というところがポイントらしい。
市長連載コラム−地球人雑記− 白書の転換
鎌倉市長が連載コラムの中で,環境白書が地方自治体の施策に大幅にページをさいたことを高く評価している文章で,環境白書がとりあげた例としてシュトゥットガルトの風の道計画を取り上げたもの。
風通しのよいまちづくり
九州大学大学院総合理工学研究院 エネルギー環境共生工学部門都市建築環境工学研究室(片山忠久教授)のサイトで紹介されている研究テーマ紹介の一つ「“風通しのよいまちづくり”のための風洞模型実験と乱流数値シミュレーション」のページ。ここでもシュトゥットガルトの風の道計画が,「風工学の研究成果を市当局が積極的に取り入れ、固有の風系を都市の冷房,汚染物の排除等の目的に積極的に利用できるような都市構造を目指して」と紹介されている。この研究室では,それを日本の町づくりに応用する際に不可欠と思われる,通風による涼房効果のメカニズムを定式化するために,いろいろな建物配置をしたモデルを使った風洞実験をしているそうだ。
00.08.21「平成11年度ヒートアイランド現象抑制のための対策手法報告書」について
2000年8月に環境庁大気保全局大気生活環境室が報道発表した,平成11年度のヒートアイランド現象対策についての報告書の要旨のようなもの。やはりシュトゥットガルトの風の道計画に触れているようだ。本文は環境庁で閲覧できるらしいが,こういうものこそPDFとして公開してもらいたいものだ。