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生態学第23回
「開発と環境影響評価」(2001年11月29日)

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最終更新: 2001年12月7日 金曜日 14時23分

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講義概要

参考文献
▼島津康男「市民からの環境アセスメント」NHKブックス
▼松浦さと子編「そして,干潟は残った」リベルタ出版
▼小倉紀雄編「東京湾ー100年の環境変遷ー」恒星社厚生閣
環境影響評価法(平成九年法律第八十一号)〜1999年6月12日施行
第一条 この法律は、土地の形状の変更、工作物の新設等の事業を行う事業者がその事業の実施に当たりあらかじめ環境影響評価を行うことが環境の保全上極めて重要であることにかんがみ、環境影響評価について国等の責務を明らかにするとともに、規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価が適切かつ円滑に行われるための手続その他所要の事項を定め、その手続等によって行われた環境影響評価の結果をその事業に係る環境の保全のための措置その他のその事業の内容に関する決定に反映させるための措置をとること等により、その事業に係る環境の保全について適正な配慮がなされることを確保し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に資することを目的とする。
第二条 この法律において「環境影響評価」とは、事業(特定の目的のために行われる一連の土地の形状の変更(これと併せて行うしゅんせつを含む。)並びに工作物の新設及び増改築をいう。以下同じ。)の実施が環境に及ぼす影響(当該事業の実施後の土地又は工作物において行われることが予定される事業活動その他の人の活動が当該事業の目的に含まれる場合には、これらの活動に伴って生ずる影響を含む。以下単に「環境影響」という。)について環境の構成要素に係る項目ごとに調査、予測及び評価を行うとともに、これらを行う過程においてその事業に係る環境の保全のための措置を検討し、この措置が講じられた場合における環境影響を総合的に評価することをいう。
環境影響評価の手順
▼計画を作る段階で代替案を含めて事前に検討する(計画アセスメント)
▼事業予定地や規模,事業の目的などを検討した上で事業計画を発表する
▼事業者が改めて法に基づく環境影響評価(事業者アセスメント)をする必要があるかどうかをスクリーニングする
▼必要となった場合,事業計画に従った環境評価のやり方,調査の項目や範囲を定めた方法書を公表して広く意見を求める
▼方法書に従って調査と予測を行い,影響の有無と対策を述べた準備書を公表し,意見を求める
▼意見を踏まえて評価書が出される
▼意見には環境相及び関係省庁の意見も含まれる
▼評価書が修正をうけ,事業の是非が決まる
※日本では事業者,コンサル,行政,住民がそれぞれの役割をもって参加するので複雑なかけひきが生じる。米国ではどの段階でも代替案の提示と一般市民への情報公開を含む。インターネット接続環境の普及によって,日本でもwebからの情報公開が進むようになってきている(環境影響評価情報支援ネットワークには莫大な文書やデータが蓄積されている)。
指摘されている問題点
▼「アワセメント」〜これはかなり改善された
▼事業者アセスメントであることによる限界
▼最低限満たすべき基準がない
▼方法書の内容を修正する手続きが曖昧
▼総合評価を行う方法が書かれていない
▼生態系が非定常であるという認識が薄い
▼事業が生態系に与える影響を具体的にどう評価するかが詳しく書かれていない
総合評価を行うには?
▼異なる軸を統合することは難しい。生物多様性という軸だけでも,稀少種の生物が保全されれば,ありふれた生物は絶滅してもいいのか,という問題の答えは自明ではない。ましてや,物理化学的環境因子や,人にとってのアメニティ,経済効果,生活の利便性,などといった軸について,それを総合して評価することは非常に困難である。
▼環境経済学の仮想評価法(CVM)を応用するなどして,すべての軸を同じ単位に統一して合計すれば,ある意味では総合評価になるが,妥当性は不明
▼システムダイナミクスモデル,マルチエージェントモデルなどで,すべての軸に関連をもたせ,アウトプットを多面的に評価すれば,総合的な把握に貢献はすると思われる。ただし,仮定が増えることと,解が得られるわけではないことから考えれば,決して十分とはいえない。


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「アワセメント」って何? (質問多数)
▼事業を実施することが前提になっているために,事業者によって行われるアセスメントも,環境基準などの目標値をクリアして辻褄「あわせ」をすることが最初から答えとして用意されている,という批判があり,そういうアセスメントに対して「アワセメント」とか「アワスメント」という揶揄があったのです。
指摘されている問題点が多いのは何故? 対策されないの? (質問多数)
▼問題点が多いのは,2つの理由があります。1つは,利害関係との絡みで等閑にされていることで,これは情報公開と第三者の監視によって改善されていくでしょうが,2つめの理由,誰にもまだ答えがわからない問題であるという方は,なかなか改善されないと思われます。
人の手による自然の再生工事はどんなものがあるのでしょう?
▼ミティゲーションと呼ばれます。いったんコンクリートで護岸されてしまった土手について,近自然工法で法面を作り直すといった工事が有名です。三番瀬フォーラムの計画はアマモの生える藻場を再生しようというものですが,簡単ではありません。
実際,環境評価の総合評価はどのようにしているのでしょうか? その時々で違うのでしょうか?
▼はっきりとはわかりませんが,総合評価はなされないか,あるいは主観的意見として付記される場合が多いと思います。
光害とは何が原因で,どんな公害が起こる? 光化学スモッグの一種?
▼光化学スモッグは,光化学オキシダントという物質の大気中の濃度が高まることをいいます。光化学オキシダントは,大気中の炭化水素や窒素酸化物が太陽などの紫外線を吸収し,光化学反応で生成された酸化性物質の総称で,健康被害や農作物への被害をもたらします。光害とは無関係です。
▼光害(「ひかりがい」と読むのが普通なようです)は,ネオンや街灯の光によって夜間,星がよく見えなくなるなどの影響が出ることです。夜間の人工光は道路・航路などの安全確保や都市機能を維持する上で不可欠ですが,必要以上に明るいとエネルギーを浪費し,天体観測を困難にし,動植物の生態に変化をもたらす可能性があります(夜行性の動物の行動圏が変化するなど)。
東京湾の話で,三番瀬があるということは,一番,二番もあるんですか?
▼一番はなく,よい漁場である浅瀬について,船橋の漁師町に近いほうから順に,高瀬,二番瀬,三番瀬と呼ばれたらしいということです(出典:「地理」2001年11月号pp.42)
諫早湾を閉じて得られた良い効果ってある? 今どうなっているの?
▼干拓の目的は,農地を作ることと,水害対策でした。農水省の発表によれば水害対策は効果をあげているということですし(昭和57年7月23日の最大時間雨量99ミリ,総雨量492ミリの豪雨では後背地の小野平野で4,5日に渡って湛水があって農産物被害が1億7百万円に上ったのに,潮受け堤防締め切り後の平成11年7月23日の最大時間雨量101ミリの豪雨では湛水は一時的にとどまって農産物被害額は300万円で済んだと説明されています。しかし平成11年の場合,総雨量が342ミリと少なかった−とはいえ,80年に1度の大豪雨でしたが−ので,単純には比較できません),調整池の水位を下げたことによって周辺干拓地が乾いて農地としても住環境としても良くなったと干拓を推進してきた岡本氏は自己評価しています。しかし,農地供給という点に関しては,諸般の事情から需要がなくなってきているので,今でも意味があるという人はあまりいません(世界自然保護基金ジャパン,日本自然保護協会,日本野鳥の会から合同で出された2001年9月7日付けの提言には,「調整池の水質改善が難しく農業用水としての利用に適さないこと,入植者費用負担が過大であること,しかも,営農計画の収穫見込みは『いずれそのレベルに達するものと思われる』水準で,当面は計画通りの収穫を見込めないこと」から,まだ干陸化していない東工区だけでなく,既に干陸化している西工区にも海水を再導入して干潟を再生することが謳われています)。
▼潮受け堤防の内側は,泥海状態です。ですから,そのまま開門すると,一気に泥水が洪水のように有明海に流れ出して,底質も巻き上げられ,有明海の汚染がひどくなると予測されました。調整池の水位と潮位があまり差がないときだけ開門するといったさまざまなシナリオが検討されましたが,合意に至っていません(2002年4月以降に計画されています)。また,堤防の外側には大規模な貧酸素水塊があって,堤防に近いほど溶存酸素濃度が低くなっているという調査結果が2001年8月に日本自然保護協会から公表されています。
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いまだに愛知万博の跡地を団地にする計画って存在するのですか?
▼2000年4月4日付けで,「新住宅市街地開発事業は行わない」という合意が愛知県知事から発表されています。国際万博協会から住宅建設との分離が強く要求されたため,2000年12月の審査を通るようにと妥協されたそうです。万博開催予定地のうち,海上の森(かいしょのもり)地区は,地下水が分水嶺を越えて行き来しているため,小さな丘の中腹にも湧き水があり,湿地があり,そこにはこの地区に特徴的な希少種が生息している(オオタカの営巣場所でもある),豊かな里山です。そのため,そこを保全しようという運動が全国的に起こり,それが認められる形で,森をできるだけ開発しないように計画が変更されたのです。
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