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生態学第26回
「最近の生態学研究」(2001年12月20日=補講)

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最終更新: 2001年12月25日 火曜日 12時42分

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講義概要

生態学に限らず理科系の学問の成果は,学会発表されるか,査読者のつく専門誌に掲載される。Personal Communicationというのもあるので,それ以前の段階でも無価値ではないが,一般には研究成果として認知されない。最近はwebへの記載にもオリジナルとしての価値を認めようという動きもあるが,自分のwebサイトに記載するだけでは,他の専門家のチェックが入らないか,入ったとしてもその保証がないという欠点がある。もちろん,査読者がつけば,発表媒体がwebであっても専門誌とみなされる。例えば,人口学の分野では,ドイツのMax Planck研究所から提供されているDemographic Researchという専門誌は完全なweb雑誌であるが,きちんと査読が行われているので速報性が高いと同時にある程度の信頼性も確保された雑誌として評価が高い。そこで,最近の生態学の研究を紹介する今回の講義では,学会の動きと専門誌の動きを説明する。

生態学関連の学会
▼4年に一度,INTECOL(International Congress of Ecology)という国際会議が行われ,世界中の生態学研究者が集う。
▼次回(第8回)は来年8月11日から18日までソウル。Ecology in a Changing Worldというテーマ設定。予定されているシンポジウムテーマも,ヒトによる影響や保全に絡んだものが多い。例えば,“Biodiversity inventory and active protection”, “From human to ecosystem health”, “Monitoring vegetation changes”, “Perspectives in global ecology and global changes”, “Progress in ecological education”, “Resource conservation: new and old strategies”, “Restoration: principles and applications”, “The ecology of urban areas: challenges and perspectives”, “The significance of long-term ecological studies”など。
▼国内では,日本生態学会をはじめとして,熱帯生態学会とか個体群生態学会などがある。
生態学関連の論文掲載誌
▼Science Citation Index (SCI)という文献データベースでは,個々の雑誌の論文がどの程度他の雑誌の論文によって引用されているかどうかを示す尺度として,Impact Factorという値を計算し,Journal Citation Reportsという報告にまとめている。Impact Factorが高いほどよく引用されていることを意味し,その研究分野での重要性をある意味で反映する。
▼Ecology分野での2000年度のImpact Factorが高い順の雑誌リストは下表。
1TRENDS IN ECOLOGY & EVOLUTION8.765
2ECOLOGICAL MONOGRAPHS6.213
3ANNUAL REVIEW OF ECOLOGY AND SYSTEMATICS6.195
4ADVANCES IN ECOLOGICAL RESEARCH6.167
5AMERICAN NATURALIST3.944
6GLOBAL CHANGE BIOLOGY3.775
7ECOLOGY3.65
8EVOLUTION3.632
9ECOLOGICAL APPLICATIONS3.488
10BULLETIN OF THE AMERICAN MUSEUM OF NATURAL HISTORY3.111
11JOURNAL OF ANIMAL ECOLOGY2.862
12CONSERVATION BIOLOGY2.814
13MOLECULAR ECOLOGY2.769
14ECOSYSTEMS2.753
15ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY2.74
16MICROBIAL ECOLOGY2.703
17JOURNAL OF ECOLOGY2.535
18OIKOS2.461
19WILDLIFE MONOGRAPHS2.429
20JOURNAL OF EVOLUTIONARY BIOLOGY2.357
▼もっと科学一般の知見として重要だと思われる場合は,NatureやScienceやPNAS(米国科学アカデミー紀要)に報告される。
2001年TREE (Trends in Ecology & Evolution)掲載論文の傾向
▼一つの種だけの調査研究はほとんど掲載されていない。
▼進化生態学的モデル研究,分子生態学的実験研究は多い。
▼環境問題絡みや保全生態学絡みの応用研究が多い。
▼この雑誌はEvolutionもターゲットなので,進化のホットな大テーマである種分化(speciation)の論文も多い。
例1
●Terborgh J et al. (2001) Ecological meltdown in predator-free forest fragments. Science, 294: 1923-1926.
例2
●Roberts CM et al. (2001) Effects of marine reserves on adjacent fisheries. Science, 294: 1920-1923.
例3
●Fujiwara M, Caswell H (2001) Demography of the endangered North Atlantic right whale. Nature, 414: 537-541.


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先生は学会に出席されたことはありますか?
▼普通の研究者なので,当然あります。自分のメインの分野の学会には,毎年発表するのが普通だと思います。
論文は一般に英語で書かれ,発表されるものなのですか? 英語圏でなくても?
▼科学における一流の研究成果は少なくとも「英語でも」発表されます。というか,英語で書かないと世界に認められないので,人類の学問の進歩にあまり貢献しないわけです。日本の研究者はかつてそれで随分損をしていました。
トップダウン効果とは? 植食動物が10倍から100倍に増えてしまうとバランスの取れない生態系(ピラミッド)になる? なったらその後は?
▼ベネズエラの例では,海面上昇で分断されて小さくなってしまった島では肉食動物が生存できずに植色動物が爆発的に増えてしまい,植物の種類も数も減ってきて,やがては植食動物も餌がなくなって生存できなくなり,激減するだろうと見られています。それをecological meltdownと呼んで,食物連鎖の上位の捕食者がトップダウンに生態系のバランスを維持していること(トップダウン効果)の存在証明としたわけです。
禁漁区を設定するとなぜ漁獲高があがる?
▼魚の数は,稚魚の生存率に大きく依存しています。産卵場付近を禁漁区にすれば,稚魚の生存率が大幅に上昇するので,隣接海域に広がっていく成魚が増えて,隣接区域の漁獲高が上がるのだと考えられます。
クジラの絶滅はありうる?
▼種によります。シロナガスクジラとかセミクジラは本当に個体数が減っていて絶滅の危機にあるといって間違いありません。
1年あたり2頭の母クジラの死亡を防ぐというのは難しいこと? 現在何か対策は?
▼セミクジラは北大西洋,北太平洋の広大な海域に生息しているので,見つけるだけでもヘリを飛ばして空中から観察しなくてはいけないので,ましてや保護するとなると大変です。
日本ではクジラ肉を食べる人がいるが,他の国では? それに対する他国からの批判は?
▼ノルウェーやアイスランドでも食べますし,南太平洋やカリブ海の島々の人々も食べる人が多いです。小松正之「クジラは食べていい!」(宝島社新書)によると,動物愛護的な批判の中心になっているのはオーストラリアとニュージーランドだそうです。シロナガスクジラとかセミクジラのように絶滅が危惧されるクジラを捕ることは科学的にも批判されて当然ですが,そんなことをしようとする国はありません。増えているミンククジラを捕ることに対しては,動物愛護団体からの批判はありますが,国レベルでの批判というのは少ないそうです。

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