山口県立大学 | 看護学部 | 中澤 港

疫学研究の方法論 (Research methods in epidemiology)

【最終更新】2002年10月28日

講義内容

日本疫学会(編)「疫学:基礎から学ぶために」南江堂,でいえば,pp.41-80に該当する部分を講義する。

観察的疫学研究(observational study)と介入研究(intervention study)
●決定的に違うのは,研究者自身が集団に対して意図的に介入し,能動的に割付を行うか否かという点である。
観察的疫学研究のいろいろ
●記述疫学(descriptive epidemiology):疾病の頻度と分布の記載により,疫学的特性を明らかにし,発生原因に関する仮説構築の助けにする。疫学研究の第一段階。
●分析疫学(analytical epidemiology)
  1. 生態学的研究(ecological study)(地域相関研究ともいう):異なる地域に共通する傾向があるかの検討または一つの地域での経時的傾向を調べる。交絡因子の影響を受けやすい。汚染物質の分布,汚染物質の食物連鎖,リスク評価などに用いられる。多因子の交互作用も含めて考えるためには,重回帰モデル,多重ロジスティックモデル,対数線型モデル,比例ハザードモデルなど,多変量の統計モデルを用いるのが普通。
  2. 横断的研究(cross-sectional study):既存資料または1つの時点での調査データを分析する。既存資料の分析ではその質の吟味が必要。
  3. 症例対照研究(case-control study)(患者対照研究ともいう。多くは後ろ向き研究(retrospective study)だが前向きのこともある):病因仮説の探索や新しい病因仮説の検証,既知の病因論の再検証,既知の病因論の症例への適合性の検討の目的で行う。対照の選び方が鍵。病院対照と住民対照があり,後者には全住民から抽出する対照と近隣住民から抽出する対照がある。いずれにせよマッチングを行うのが理想。インフォームドコンセントは必要。稀な疾患の研究では効率が良いので良く行われる。
  4. コホート研究(cohort study)(多くは前向き研究(prospective study)だが,それに限らない):元来はローマの軍隊の単位。転じてある共通の性質をもつ集団。多くの場合,同時出生集団の意味で使われる。なんらかの共通特性をもった人たちともっていない人たちを追跡調査し,疾病の発症率を調べることで,特性の有無が疾病の発生リスクにどのような効果をもつかを直接計算できる。
介入研究
●進め方は図6・4。インフォームドコンセント,倫理委員会,無作為割り付け(+層化),盲検法,標本サイズなどが重要。
●臨床試験(clinical trial):ランダム化して行えば,注目する要因の効果を正確に評価できる。倫理面の条件を満たすことが非常に重要。事例:MRFITなど。
●他に,field trial,community trial
疫学の副次的タイプ
●古典疫学:フラミンガム研究による虚血性心疾患,日本における脳卒中の疫学など,既に明確な危険因子がわかったもの。現在では予防対策が主流。
●分子疫学:遺伝疫学の一部。ヒトゲノムプロジェクト完了が近づくにつれてゲノム疫学へ発展。新しい方法論が必要(開発されつつあるがまだ不十分。個人情報保護とのコンフリクトという問題もある)。(注)RFLPとはRestriction Fragment Length Polymorphismの略で,日本語では制限断片長多型と訳す。制限酵素でDNAを切った時の断片の長さにより,DNAの塩基配列パタンを区別するものである。現在ではDNAシークエンシングにより塩基配列を直接読むのが簡単になってきたが,RFLPも安価にできるのでまだ使われることもある。
●遺伝疫学:家系単位でのcommon diseaseの分析が主。遺伝要因と環境要因の交互作用と疾病発生の関係なども対象。
●血清疫学:血清中の抗マラリア抗体価の測定により,その集団でのマラリア流行度を調べたりするもの
●臨床疫学:いくつか異なる意見があるが,疫学の臨床応用。医療経済学とほぼ共通する分野。
●環境疫学:外部環境中のリスク因子と健康や疾病の関係の探索。リスク科学とかなり共通している。
●薬剤疫学:概ねclinical trialの研究をしているようである。
●理論疫学:感染症伝播モデルが主(もちろん感染症だけではなく,疾病のメカニズムを説明するために数学モデルを用いる分野である)。
まとめ(のようなもの)
▼生態学的研究の利点=二次資料でできる!!=安上がり。その後の研究の方向付けやきっかけとして有用。
▼横断的研究は多くの場合,個人単位での要因と疾病の関係を1時点の調査データに基づいて分析する。世帯単位の要因とか地域単位の要因が絡む場合は要注意。比較的安い。
▼患者対照研究では,多くの場合,2×2の分割表を作って分析する。要因と疾患に関連があるかないかをカイ二乗検定やフィッシャーの正確確率検定で分析する。または,オッズ比を計算する。オッズ比はリスク比(リスク因子への曝露が無い人のうちその疾患を発症する割合に対する,曝露がある人のうち,その疾患を発症する割合の比)のよい近似になるので有用。稀な疾患を比較的安く調査できるので有用。
▼コホート研究は大金がかかるし手間もかかるが,ついでにnested case-control研究をすれば効率がよい。リスク比を求めることが可能。リスク因子の論理的確定に必須。
▼介入研究はリスク因子除去効果の判定(予測として)に必須。
研究手法による捉えられ方の違いを実感してみよう(できるか?)
▼用意するもの:対象者の属性が書かれたカードを人数分。研究手法と研究時点が書かれたカード(対象者の属性と適度にマッチするように考えて複数作る)。
▼やり方:受講者に対象者の属性が書かれたカードを配る。研究手法と研究時点が書かれたカードを良く切って3枚くらい選び,それぞれの場合に調査対象に該当する人に挙手してもらい,数える。結果を集計し,研究手法ごとに捕捉できる割合とかかる費用を比較してみる。

Correspondence to: minato@ypu.jp.

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