環境・食品・産業衛生学 | Top

CVMとCAの実験ページ

Last updated on 10th July 2017

(注:講義時点で未完成です。後で回答可能にして,定期的に回答結果を集計して提示する仕掛けを作るので,後日暇があったら試してみてください)


大規模な開発事業などにおいては,利害関係が衝突する関係者が複数存在することや,安全と安心など異なる評価軸が複数あることが普通である。そのため,合意形成を図ることが難しい場合も多い。

しかし,リスク評価手法の中には,利害関係者が衝突する関係者の要望を比較可能な数値に落とし込む技法もあるし,異なる評価軸を共通の軸に変換する手法もある。海外では裁判でも用いられるなど20世紀から使われているにもかかわらず,日本ではあまり活用されていないのが大変残念である。

そこで,環境・食品・産業衛生学の講義の中でリスク論に触れる際に,仮想的な事例を作って,実際に学生諸君にこの手法を体験して貰おうと考えた。

利害関係者が衝突する関係者が複数存在する際,複数のシナリオごとに多面的なアウトカム予測を提示して関係者にどれがいいか選んでもらう(あるいは評定してもらう)のがコンジョイント分析(Conjoint Analysis)である。限界として,シナリオで提示されるアウトカムとして,副次的アウトカムを出さなかったり数値予測が点推定だけだったりすることがシナリオ選択に影響することが問題だが,ただ議論するよりは意見を数値化することで何を重視しているのかが関係者全員に見えやすくなり,妥協点を探りやすくなる。

異なる評価軸を金銭という共通の軸に変換する手法の代表例が仮想評価法(Contingent Valuation Method)である。環境や健康の価値を仮想的な金銭に換算して考える。即ち,リスク削減のためにいくらなら払ってもいいか(支払い意思額:WTP),いくら貰えばリスクが増えてもいいか(受入れ補償額:WTA)をアンケートで調べることで,安心と安全のような異なる評価軸を金銭に換算することができ,相対的なリスクが比較可能になる。

仮想事例

A県で戦後何十年も運用され,ブランドとして確立している生鮮食品の卸売市場Bについて,施設老朽化の対策が必要となった。A県は工場跡を造成して更地になっているCを移転候補として買収した。

移転計画ではCには盛り土をして土壌汚染も基準値以下にするとした。しかし実際にはCには盛り土をせず,土壌汚染が基準値を超える場合もあった。専門家は地下水を利用するわけではないから安全と評価した。

Bでも調査をすると,土壌からは基準値を超える汚染物質が出る場合があることも判明した。

Cに卸売市場を移転後,Bの跡地を国に売却して国道を通す計画がある。国道が通ると,数年後に予定されている国際的なスポーツイベントの選手村と試合会場の交通が便利になる。

Bに入っている仲買商の多くはCの予定面積の狭さやBというブランド名を失うことに加え,盛り土するという約束を破ったことで県への信頼をなくし,移転計画への反対運動が起こった。

仮想評価法の場合

Cに盛り土をして土壌汚染を基準値以下にすることで,今後10年間に地下水や大気に環境基準を超える汚染が出る確率が50%下がり,それに関連しているかもしれない健康障害が住民に出る確率あるいは市場経由で汚染食品が出回る確率が100万分の2から100万分の1に下がると予測されるなら(大抵の場合,100万分の1レベルの健康障害は許容可能なリスクと判定されているため,盛り土をしようがしまいが「安全」といえるレベルになる。逆に,どんな手段を取ろうが100%の安全はありえないというのがリスク論の基本である),盛り土に関しては「盛り土をしてもらうためならいくら払いますか?(WTP)」「いくら貰えば盛り土をしなくても良いですか(WTA)」といった計算によって「安心」を金銭に換算することが可能である。

もっと大雑把には「いくら貰えば移転を容認しますか?」「移転しないためにはいくら出しますか?」とか,逆に「いくら貰えば移転しなくても良いですか?」「移転するためにはいくら出しますか?」という設問も可能である。ただし,この方法は1つの戦略が定まっているか,既に問題が起こってしまったときに,それを受け入れるために欲しい金額と解消するために払える金額という対比に使うのが普通であるため,複数のシナリオが可能な場合には使いにくい。

コンジョイント分析の場合

この状況でコンジョイント分析を行うためには,例えば,以下4つのシナリオが想定される。

(1.移転案)Bに入っている事実上全ての仲買商をCに移転。仲買商の店舗面積は約7割になる。Bの跡地は国に売却し国道が通る。

(2.改修案)移転せずBで卸売市場を営業しながら改修(ただし空き地がないのでペースは遅い)。Cは民間の大型複合商業施設等に売却。

(3.両立案1)いったんBの仲買商はCに移転して貰い,Bを全面的に改修してから戻って貰う。その後Cは売却。

(4.両立案2)Bの仲買商のうち移転を希望する者はCに移転して貰い,そのスペースを活用することで卸売市場を営業しながらBを改修。

アウトカムの予測が下表のように得られたとする。

アウトカム1.移転案2.改修案3.両立案14.両立案2
A県が支払う費用50億円100億円100億円150億円
生鮮食品の安全性どの場合も100万分の1〜2レベルで大差ない
仲買商の負担店舗面積70%,移転費用,入居費分担金,ブランド損失改修に長期掛かる2度の移転,一時的にブランド損失一部は2度の移転費用
今後10年の営業収支予測マイナス50億円50億円マイナス50億円100億円
持続可能性

回答フォーム

1. あなたの立場は以下のどれですか?(共通質問)
B市場仲買商 B市場周辺住民 開発・建設業者 その他のA県住民 A県以外の住民
2. あなたはいくら貰えば現在の計画で移転を容認しますか?(CVM)
万円
3. あなたは上の4つのシナリオのうち,どれか1つ選ぶならどれが良いですか?
1.移転案 2.改修案 3.両立案1 4.両立案2
4. 上の4つのシナリオのそれぞれについて,0点から10点(10点が最高)で評価してください。
1.移転案:
2.改修案:
3.両立案1:
4.両立案2: