枕草子 (My Favorite Things)

【第78回】 乱数発生器(1998年10月19日)

今日もすばらしい青空が広がっている。昨日と違って風も強くなく,散歩でも楽しみたいところなのである…が,科研費申請書の提出を明日に控えた身としてはそんな暇などあるはずもない。先刻3回目の歯の治療を終え,身も心も申請書作成に没入する所存である。半ば自分への言い聞かせである。

その申請書だが,今朝までは備品としてRAID(正確に説明すると煩雑だが,ホットスワップ可能だったりデータが二重化されていたりする,信頼性の高い高速なハードディスクシステムと思っておけば大方間違いはないと思う)を申請するつもりだったのだが,日経朝刊を見て考えが変わった。こいつはRAIDの予算を削ってでも申請せねばならない。

それが乱数発生器である。シミュレーション人口学でも簡単に説明したが,シミュレーションをするときには擬似乱数列というものを使う。ものごとが確率的に(ランダムに)発生することをプログラム上で擬似的に表現するためである。従来は,線形合同法とかM系列とかいった算術アルゴリズムによって作るしかなかったのだが,今日の朝刊に載っていた乱数発生器は熱拡散だか何かを利用した物理的なものだそうだから,「擬似」をつけなくてもよいことになる。簡単な話がサイコロを振ってくれるボードなのである。考えてみれば需要はあると思うので,なぜ今までなかったのか不思議なくらいだが,コロンブスの卵ということなのだろう。なお,1/fゆらぎを補正するアルゴリズムも搭載し,より規則性を排除した乱数列を生成しているとのことだが,新聞記事ではそれ以上はわからなかったので,その辺の詳しい情報を入手しようと東芝のサイトなどWEBを漁ってみたのだが,皆無であった。世間一般には関心低いのかなぁ。ともあれ,受注生産で来春から出荷,パソコン用28万円程度というのはきっとPCIバス用のボードだろうから,まさに申請書にお誂え向きである。

物理的な乱数発生器ということは,その数列が再現できないわけだから,ちょっと考えると人口シミュレーションには向いていないような気もするが,記録しながら使うか,一度記録したものを読み出して使えばいいので問題ないし,コンピュータ集約型統計学で分布を発生させるとかの用途には再現する必要すらないので,まさにシミュレーションをする研究者にとっては画期的な福音となると思う。超並列コンピュータ用にも5000万円程度で出すと報じられているのだが,生成速度が2 Mbit/sec.から33 Mbit/sec.へと高速になるだけで28万が5000万になるとも思えないし,何が違うのだろうか。今のところぼくには関係ないけど,気になるところである。


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