枕草子 (My Favorite Things)

【第192回】 助手会研究交流会(1999年12月1日)

昨夜は,研究交流会というのがあった。今年から始まった企画で,保健学専攻と国際保健学専攻の助手によって構成される「助手会」メンバーの相互理解を目指して,2人か3人ずつ自分の研究を発表するというものである。第3回の昨夜は,救急医療及びモンゴルのヨード欠乏の話と,新薬開発を目指したマラリア原虫ミトコンドリアの電子伝達系の解析の話であった。どちらにも刺激を受けたのだが(前者は結果のクリアさを導いた着眼点の良さに驚いたし,後者は新薬開発に至る過程構築の論理性と地道さに感嘆した),時間がちょっと足りなかったかもしれない。18:30から20:00という予定だったのだが,21:10頃までかかったし,それでも研究としての本筋が説明されるにとどまり,生々しい話にはほとんど触れられなかった。マラリア原虫を研究するための培養の方法なんて具体的に説明したら,やったことのない人は驚嘆すると思うのだが。

次回(おそらく3月)の発表者として指名されてしまったので,何を発表しようかと今から悩んでいる。一応,何をしゃべってもいいことになっているのだが,自分の研究活動を他の助手にアピールする場なので,なるべく衝撃を受けて欲しいわけである。しかし,衝撃といっても,数式なんかをずらずら見せても理解困難だろうと思われるので,そういう虚仮威し的なことはしたくない。数学をやっている相手に数式の羅列を見せるのは,もっとも効率よく紛れのないプレゼンテーションと思うが,数学に普段触れていない相手にそれをやるのは,理解しようとする意欲をそぐ副作用が大きすぎる。そうではなくて,概念としての健康科学や国際保健学に対してゆさぶりをかけるものを呈示したいのである。大袈裟にいえば,健康とは何なのか,なぜ健康増進/維持に意味があるのか,というところから考え直さねばならなくなるような,それでいて面白い発表をしたい。

発表時間はほぼ1時間なので,最初にざっと自己紹介的にこれまでの研究概要に触れるにしても,メインの話は1つに絞らねばならない。シミュレーション人口学は上述の理由で除外するとして,パプアニューギニアか,ソロモンか,東京湾か,またパプアニューギニアなら「鉄栄養とマラリア」か「低出生」か,ソロモンなら「近代化と開発に伴う諸問題」か「マラリアとヒトの行動」か,という選択が必要である。さてどうしようか?

面白そうな話題,というだけなら,ある意味では簡単だ。どこかで目にしたり耳にしたりしたことはあるけれども詳しくは知らないような話とか,冒険談に類する話は誰もが聞きたがるものだから。熱帯のスライドショーというのは一番安直な話題提供となろう。しかし,それでは,発表者としてのぼくが得るものが少ない。折角の違う角度からの意見が貰える機会をそれだけに使ってしまっては,勿体ないことである。

やはりある程度は思想を喋らねばなるまい。それを健康科学とか国際保健とかいった視点と絡ませるとすれば,ソロモン諸島の近代化と開発に絡む諸問題がいいかもしれない。でも,難しそうだなあ。森山和道さんの日記に最近多いと書かれていた,専門分野を超えた交流会とは違って,助手会研究交流会は,健康科学・国際保健という分野の中でのbrain stormingではあるのだが,何か新しいものを生み出そうとしている,という点では複雑系科学なんかと似ているような気もする。もっとも,健康そのものが,現象としてばかりか思想としても複雑系だから,そんなの当たり前といえばそうなんだけど。


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