枕草子 (My Favorite Things)

【第248回】 氷柱アタックなど(2000年2月21日)

アクセスログを見ると,Yahoo!掲示板>健康と医学>病気、療法と看護>歯とその治療フッ素はいらない!大論争ページというところから,栄養学のページへのアクセスが激増していた。フッ素の必須性についての参照だったので,ここに不破敬一郎【編著】(1981)「生体と重金属」講談社から,3.5.11 フッ素を引用しておこう。

1930年代の後半にフッ素が虫歯の予防に効果があることが発見され,60年代になるとフッ素は成人の骨格を正常に保つために重要な役割を果たしていることが示された。

フッ素の摂取が有益と有害になるところの幅は極めて狭く,虫歯の予防のためにフッ素を水道水に添加すること(fluoridation)の是非が議論された。米国では住民投票の結果,fluoridationを行っている都市も多く,その濃度は地域によって若干の幅があるが約1 ppmである。飲料水中のフッ素濃度が2 ppmを超えると,多数の人に斑状歯が観察されるようになる。

1972年,Schwarzらはアイソレーター(中澤注:すべての部分がプラスティックでできた容器であり,2重のフィルターが外部からのゴミの侵入を防ぐようになっているシステム。通常の実験環境では精製飼料を与えても正常のままだった動物が,アイソレーター内では1〜3週間で欠乏症状を呈するようになったことで1970年代に必須性が確認された元素として,フッ素の他に,スズ,ヴァナジウム,ケイ素,ニッケル,砒素がある)の中で精製アミノ酸飼料を与えたラットに対して,フッ素が生育を促進し,最適濃度は2.5 ppmであることを示した。また,フッ素含量の低い飼料を与えたネズミでは,ヘマトクリット値が減少し,1代,2代目の雌から生まれる子どもの数が減少するが,これはフッ素の添加により防止される。

ちなみに,水質検査に引用した日本の水道水の水質基準では,フッ素濃度は0.8 mg/L(ほぼ0.8 ppmと同等)以下とされている。東京都水道局発行の水質年報平成9年度版によれば,原水のフッ素濃度は河川水で0.1〜0.3 mg/L,地下水(井戸水)で0.04未満〜0.2 mg/Lであり,浄水処理をしてもほとんど変わらないので,人為的に添加しない限り水質基準を上回ることはほとんど考えられない。ラットをアイソレーターで飼育して初めて欠乏症状が出たことから考えて,普通に食事をしていれば欠乏症状が出ることはないと判断できるので(中心静脈栄養のときなどは別だが),フッ素の必須性が問題になる場面はほとんどないだろう。なお,ほとんどフッ素添加されていない水道水を飲んでいるコナースヴィルの子どもと,虫歯予防に最適とされるレベルのフッ素を添加されている水道水を飲んでいるインディアナポリスの子どもで,陰膳方式できちんと食物摂取調査をした上で,練り歯磨きや水道水からのフッ素曝露量も調べて合計した結果,両者に差はなかったという報告もある。どちらも米国インディアナ州であるから食習慣などはそれほど差がないわけで,水道水の分のフッ素摂取に差がでるだろうと予想されたのだが,練り歯磨きからのフッ素曝露が大きく,水道水の影響などマスクされてしまったのである。ただし,練り歯磨きからの曝露レベルが高くなりすぎて,安全レベル(班状歯にならない)を超えていた子どももいたので,添加には注意が必要ということだ(出典:Rojas-Sanchez, F. et al. (1999) Fluoride intake from foods, beverages and dentifrice by young children in communities with negligibly and optimally fluoridated water: a pilot study. Community Dent. Oral Epidemiol., 27: 288-297.)。なるほど,フッ素添加の是非について論争が起こるのももっともだ。


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