枕草子 (My Favorite Things)

【第319回】 デバッグと,ビートルズ好きなおっちゃん(2000年6月13日)

新幹線に乗っていると,一期一会という言葉をよく思い出す。

昨日修正した(主な変更はパラメータの実数化)プログラムをデスクトップマシンで走らせると,どういうわけか死んでしまうので(Windows2000にコンパイラを入れようとしたら,いつの間にかcygwinが有料になっていたので,ウィスコンシン大学のMingw32のftpサイトからgcc-2_95_2-crtdll.exeをダウンロードしてインストールし,インストールディレクトリにできたバッチファイルの環境変数の設定をマイコンピュータのプロパティの詳細の環境変数のところに定義し,普通のgccが動くようにしたもので,コンパイラが悪いとは思われない),帰りの新幹線の中でデバッグを継続していた。argv[]を参照する関数の中での引数を減らすのを忘れていたというくだらないバグに気づいて呆れつつも喜んでいたとき,隣に座っていたおっちゃんから,突然声をかけられた。「にいちゃん,それ音楽聞けるの?」

ぼくはvaioに音楽CDからMP3化した音楽を入れて,ヘッドフォンで聴きながら仕事をしているのだが(「音楽生活」ではウォークマンにしたと書いたが,vaioの大容量バッテリー化に伴ってMP3が復活した),コンピュータにヘッドフォンがつながっているというのは,知らない人には確かに不思議な光景かもしれない。件のおっちゃんは,既に酔っていたらしいところへもってきて,車内販売からもウイスキーの水割りを買っていい気分そうに飲んでいるので,多少ろれつが回らない感じだったのだが,酔っていても好奇心をなくさないとは,たいしたものである。ぼくなどは酔ってしまうとすべてがどうでも良くなってしまうので,酒はあまり飲まないようにしているのだが,こういう,酔って外に向かうタイプなら飲んでもいいのだろう。

などとくだらない考察をしながら,「そうですよ」と答えると,予想外のことが起こった。おっちゃんは,「どれ,ちょっと聞かせて」というのである。そのとき聞いていたのが寺井尚子であったなら躊躇わなかったと思うのだが,ちょっと若い人向きの音楽だったので,こんなものを聞かせたらおっちゃんは卒倒してしまうのではないかと思って,すぐに貸すのははばかられた。しかし,1秒くらい考えた結果,まあ卒倒してもおっちゃんの自己責任だからいいかと思って,貸してみた。

意外なことに,おっちゃんは,にんまり笑って「いいねえ」というのである。それならいいかと思ってデバッグを続けていたのだが,コンパイルをするためにMS-DOSプロンプトを出したとき,CPU負荷がかかって音楽が途切れたのだろう,おっちゃんは顔をしかめて,「これ,何でも聞けるの?」と再び問うてきた。「そうですねえ,音楽CDから変換してハードディスクに入れるので,もとの音楽CDがあれば何でも大丈夫ですよ」と答えると,「他に何が入ってる? ビートルズとか?」と聞くのである。

そう言われると,たぶん寺井尚子なんて言っても知らないだろうから,有名どころを答えねばならない。ところが,ぼくは「曾て聴いた音楽について」で書いたように,有名どころはあまり聴かないのだ。「いま入れてあるのは,ジャズ系の音楽とか高中正義とか」というと,「お,いいねえ」というので,高中を聞かせてみたら,「エレキギターだね」といいながら,しばらく悦に入っている態なのである。

これで長野まで落ち着いていけるかな,と思ったが,酔ったおっちゃんは甘くなかった。しばらくすると,再び「ビートルズある?」というのである。ジョン・レノン&ヨーコ・オノのダブル・ファンタジーならゴールドCDをもっているけれどMP3化はしていないので,「いや,残念ながらありません」と答えると,いかにも残念だという表情で「そうかあ,ビートルズないのか」と項垂れるのだった。多少気の毒に思ったのも束の間,おっちゃんは「なんでビートルズないの?」と聞くのである。「音楽CDを変換してハードディスクに入れたのしか聞けませんから,ぼくはビートルズのCDはもってないので入ってないんです」と答えたら,白けてしまったようだった。後で考えてみたら,もしかすると,何でビートルズが好きじゃないのかと聞きたかったのかもしれないと気づいたが,このときは,てっきりメカニズムのことだと思いこんでいた。実はLPでなら何枚かもっているので。話したら面白かったかもしれないから,ちょっと勿体ないような気もするのだが,ここで話が切れたおかげでデバッグが完了したから,まあ良しとしよう。

たまにはビートルズ談義も悪くないのだけどね。


往路は7:02発あさま550号。篠遠・荒俣「楽園考古学」を読了。太平洋考古学のパイオニアである篠遠氏に,博覧強記の代名詞ともいわれる荒俣氏がインタビューしている本なので,面白い話が満載なのだが,なかでもバウンティ号で叛乱を起こしたSDAの人たちの子孫が,当時無人だったところに上陸して1790年以来200年にわたってコミュニティを継続してきたというピトケアン島の話が面白い。遺伝人口学的に調査したらすごいデータになりそうだ。今日の午後は,とある研究会に呼ばれているので,できるだけ午前中に仕事を進めておくつもり。

今日はSIBC Newsが更新されていないので,たぶんハワイ大学の人がやっているような気がするソロモン諸島のEthnic Tensionについてのサイトを見てみたが,ここにも新しい情報はなかった。便りがないのはいい便りなどともいうが,通信が切られている可能性もあるから,不安が募ってしまう。掲示板を見たら,10日付けで米国PeaceCorpsの人たちが支援に行こうとしているという書き込みがあって,彼らの機動力に感心した。もっとも,今の段階では行ったからといってどうなるものでもないとも思うのだけれど。

研究会から戻ってきてソロモン情報をチェックしたら,SIBC Newsが更新されていた。ソロモン諸島内のさまざまな団体を代表する女性50人以上がミーティングを開いて,女性と子どもは平和を求めていると決議し,MEFとIFMの双方に陳情に行ったそうだ。MEF側のノリ氏は,この民族紛争の当初から女性を巻き込んでこなかったことは失敗だったと認めたということだが,IFM側の反応は書かれていないので不明である。GIZOの警察署占領への関与をパプアニューギニアのブーゲンビル革命軍が否定したとか,キタノメンダナホテルが営業を停止したとか,首相は存命で大丈夫だとか,オーストラリアとニュージーランドによる外国人脱出活動が続いているとか,いろいろ記事はあるが,決定的な進展はないようだ。なお,外務省海外危険情報のサイトで,昨日付けでガダルカナル島に危険度5の退避勧告が出ていることがわかった。いったいどうなるのだろう。

日本テレビの特命リサーチとかいう番組から突然の電話取材があったが,満足な答えはできなかったから使われないだろうと思う。一応メモしておこう。

今日は雨が激しいので帰りは長野電鉄に乗りたい。だから帰りは21:30上野発のあさま535号にした。


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