枕草子 (My Favorite Things)

【第641回】 フラミンゴウサギ算(2001年9月5日)

5時に目がさめて,朝刊のヒューレットパッカードによるCompaq買収の記事にAlphaやTru64はどうなるんだろうなどと心配しながらも普通に準備ができたので,往路あさま500号。久々に始発である。今日も午後は人類生態学の試験監督があるので,午前中にどれだけ仕事ができるかが勝負だ。8時前に研究室に着き,メールをチェックし,昨日届いていたトナーカートリッジ(プリンタの)を交換したら,9時になった。オセアニア学会の仕事があるので,自分の仕事を始められるのは10時くらいになりそうだ。うーん,3時間か。

時間がないときに限って寄り道をしたくなるのが人の常というもので(いや,業か?),昼食に第二食堂に行ったついでに生協書籍部に寄り,週刊アスキーで紹介されていたレイ・ガートン「ライヴ・ガールズ」(文春文庫)とその傍にあった宮部みゆき「人質カノン」(文春文庫),さらに瀬名秀明絶賛との文字が帯に躍っていたジェームズ・ポーリック「腐海」(徳間書店)を買ってしまった。レジを出たところにパンフレット類の無料配布をしている台があって,いつもはポンツーンなどを貰うのだが,今日は大学生協で出している「読書のいずみ」が目に付いたので,それを貰って読みながら食事をした。瀬名さんの思い出エッセイはともかくとして,生命誌研究館副館長の中村桂子さんと,慶応SFCの西岡教授への学生によるインタビュー記事は面白かった。小学生のとき植木算や鶴亀算が面白く感じたという西岡教授のことばから,ふと思いついたのが,表題のフラミンゴウサギ算である(今日の表題は当初「始発に乗って」だったのだが,改題した)。

鶴亀算というのは,大抵の方はご存知だろうが,「鶴と亀が全部で10匹いて,足の数は合計30本あります。それぞれ何匹ずつでしょう?」という感じの問題である。簡単な計算の仕方は,よく知られているように,全部が鶴だった場合は2本×10羽で20本なのに,実際は30本だったのだから,10本分だけ亀がいるということになり,亀が鶴より多い足の数2本で割れば,10割る2で亀が5匹ということがわかり,10引く5で鶴も5羽とわかるということになる。

この計算がいま一つ面白くないと思うのは,鶴の足が2本,亀の足が4本ということからくる単純さが原因であろう。別の動物を使っても,ほとんど同じ方法で解に辿り着けるのだから,もっと変な足の数をもった動物を使った方が面白い計算になる筈だ。すぐに思いつくのは,ムカデを使ったらどうかということだ。が,ちょっと検索したらムカデは種類によって足の数が違っていて,説明が面倒になりそうなことがわかった。よく知られている動物の中では,ダンゴムシは14本と決まっているらしいので,クモやダニなど8本のヤツと組み合わせると面白い計算になりそうだ。例えば,「ダンゴムシとクモが合わせて6匹,足は全部で54本あります。それぞれ何匹ずついるでしょう?」という問題が成り立つ。鶴亀算の場合は鶴が鳥類なので,数え方が本当は1羽2羽ではないかという悩みもあったわけだが,どちらも小型節足動物である「ダンゴムシクモ算」であればその心配もないわけで精神衛生上非常に良い。ちなみに答えはダンゴムシが1匹,クモが5匹となるわけだが,この問題の欠点は,数が大きくなるのでアイディアがわかっても計算力がないと解けない可能性が出てしまうことである。それに,ダンゴムシは単独ではあまり自然界に存在せず,複数いるのが普通で,クモの方は逆にある程度個体間の距離が離れていることが多いのだから,自然現象に反しているのがまずい。それに,ダンゴムシとクモなんて,気持ちが悪いと感じる方が多いだろうしね。

さて,では数え方が同じで,気持ちも悪くなくて,計算も面白いという組み合わせはないものだろうか? できれば,自然に観察されるものとしてもおかしくなければ理想的だ。そうやって思いついたのが,「フラミンゴウサギ算」なのである。フラミンゴは南米原産のチリーフラミンゴやアフリカ原産のものがあるのだが,まあウサギくらいならどちらにもいるんじゃないかと思うわけだ。ウサギの足は4本で,いま一つ面白みに欠けるのだが,数え方が「羽」なのが大事だ。計算としてのキモは,フラミンゴが立っているときに,足の1本を畳んでいることが多いという点にある。つまり,2種類の動物で,3種類の足の数があるのだ。うまく問題を作らないと複数の答えができてしまう可能性があるが,それはそれでなかなか面白いだろう。例えば,次のような問題ができる。

「サバンナの池の傍にいたウサギを観察していたら,フラミンゴが舞い降りました。全部でフラミンゴとウサギは30羽いて,地面に着いている足は合計113本ありました。フラミンゴとウサギは何羽ずついたでしょう?」

この答えは一意に決まるので,お暇な方は考えてみて欲しい。まあ,ちょっと不自然なのだけれど,そこは架空の問題ということで許されたい。他にも,ナックルウォーク中の霊長類だったら地面に着いているのは3本とか,イカタコ算とか,この問題のヴァリエーションは無限に考えられそうである。組み合わせによっては全部の足の数だけわかれば全個体数がわからなくても答えが一意に決まったりするものもありそうだが……,などと考えているうちに食事が終わった。


食後,第二購買に寄って,信濃毎日新聞で紹介されていたCHISA & MINO 2を買おうと思ったら,2がなく,つい1999年に発売されたCHISA & MINOを買ってしまった。ヴァイオリニスト高嶋ちさ子とピアニスト加羽沢美濃の共演なのだが,想像以上に良かった。加羽沢美濃のオリジナル曲が素晴らしかったので,鈴木光司の「楽園」をイメージして作られたという「楽園」も買ってしまいそうである。付け加えていうならば,このCDのライナーノーツは笑えて良い。この2人のコンサートツアーのMCを聞いてみたいと思った。

今日の試験は問題が簡単で量も少なかったので,最後まで粘る学生は少なかった。回答を読んで面白い問題もあったので,遅刻限度の30分過ぎから退出していく学生の答案を読みながら時間をつぶしたのだが,印象としては去年の試験よりも出来が良いような気がする。追再試がなければいいと切に思う。いや,別に学生のためじゃなくて,追再試の監督をするのが鬱陶しいからだが。

試験監督の後は,締め切りが迫ってきた人口分析の方法論のテキストを書いて過ごし,いつものように終電1本前で帰途についた。


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