枕草子 (My Favorite Things)

【第723回】 名言〜文藝春秋12月臨時増刊号から(2001年11月30日)

往路あさま506号。久々に寝坊したばかりではなく,昨夜の雨が降り続いていたために自転車をゆっくりしか漕げなかったために,504号を1分くらいの差で逃したのだ。

「文藝春秋12月臨時増刊号:長寿と健康 いのち大切に」には名言が多い。基調として語られる,長寿と健康の秘訣に類するモノは,まあどこかで聞いたような,当たり前のことが多いのだが(とくに高久史麿さんとか家森幸男さんとか藤田紘一郎さんの話は,彼らがいろいろな場所で既に語ったことの焼き直しなので目新しくない),それよりも長い間いろいろな分野で実際に活躍してきた人の経験からつむぎ出されるのであろう,ちょっとした一言に含蓄があった。

日野原重明さんは,90歳にして一晩で25枚の論文を1本書いてしまうという。しかも,それを月に2回はするという。生涯論文発表数が,既に3200本という,とても信じられない数に上っているのも頷ける。

眉村卓さんの小説は以前随分読んだものだが,最近はどうしているのかなあと思っていたら,病に倒れた奥さんのために毎日1本の作品を書いているという。それが既に1500本を超えているということを初めて知ったが,作品集として購入できそうなので注文してみようと思う。

不耕起無農薬無肥料農法で有名な福岡正信さんは,既に88歳なのだった。最近活発に実践されている砂漠緑化の粘土団子まきという方法についても説明が書かれていたが,理に適っていると思った(種の寄付を受け付けているそうなので,協力したいと思う)。さて,この方の言葉は,一言一言に含蓄が深いのだが,今回は1つ発見があった。不耕起はともかく,無肥料で栄養分が不足しない(クローバーを撒くので根粒バクテリアの働きがあるし,種しか持ち出さないでワラでマルチし,籾殻も戻すのだから,窒素は補えるとしても,他の元素が不足しそうなのに)というのが科学的には謎だった(参考:青空MLでの巌さんの指摘[277])のだが,昆虫や小動物が「外から入ってくる」かもしれないではないか,ということだ。雑草の種だって「外から入ってくる」はずだが,それ以上に小動物が能動的な物質輸送の役割を果たしていてもおかしくはない。生態学的にきちんと測って調査すれば面白いだろうとも思ったが,灰を撒いただけでも網が破れていなくなってしまうクモがいることなどを考えると,測定はどうしたって浸襲を伴うから実測は無理かもしれない。リモセン技術などで非浸襲的に現存量が評価できるようになればいいが,それまでは何か別の方法を考えなくてはなるまい。例えば,昆虫や小動物がこれくらい死んでこれくらい分解される,クローバーにこれだけの根粒バクテリアがついていて窒素がこれくらい固定される,クローバーそのものと合わせてこれくらいの栄養素供給になる,そこから収穫されて取りだされる米や麦の種はどれくらいである,とデータを入れて,「昆虫や小動物がどれくらい入ってくれば持続的生産が可能ということの辻褄があうか?」とシミュレーション(バックカルキュレーション)すればいいかもしれない。お,これは名案だ。

ともあれ,福岡さんの言葉は深い(どこからか聞いてきたのであろう「肉食をすれば血が酸性になって,性質も攻撃的になります」みたいな浅くてトな発言もあるが,ご自身の経験に根ざした発言は一流である)。一つ引用させていただこう。

(前略)譲り受けたミカンの木は父がすでに剪定していたもので,それを放任したもんだから,枝は混乱する,虫は付くで,みんな枯れてしまいました。その失敗から私は,「放任」することと「自然」に任せることとは全く違う,本当の自然農法とは何か,と考えるようになったんです。

自然は,人間がちょっとハサミを入れたり技術を加えると,全体が狂ってしまう。木ですと,新芽をほんのちょっと摘んだりすると,もう駄目です。初めの自然の秩序が狂ったまま放任すれば,枝同士が衝突したりもつれあったりするようになり,また手を加えなければならなくなるんです。(後略)

で,福岡さんは「人智を捨て,自然に仕えて生きる」という結論に至るわけだが,ぼくみたいな人智を捨てられない人間は,放任したり責任放棄してはいけないわけで,徹底的に人智を尽くして,その結果についても責任をとるしかないのだろう。

かつてその著書で随分生化学を勉強させていただいた今堀和友さんが,適応を語られるのも,なにやら暗示的である。広島大学の堀忠雄さんの「午後二時には誰もが眠くなり,このとき無理せず二十分程度の昼寝をすると実に気持ちがよい。」で説き起こされる,20分間の昼寝と自己覚醒の薦めも面白かった。一々触れていると際限なくなってしまうのでこの辺でやめるが,ともかく,面白い雑誌であった。岩波「科学」の4月・5月号の「あなたが考える科学とは?」よりも,ずっと冴えた企画だと思う(科学論が面白くないというだけなのかもしれないが)。一読をお薦めする。

卒論生のプログラムのデバッグなどしながら,昨日の生態学と社会統計学の講義概要のhtml化を終えた。たぶん,あの説明ではロジスティック回帰分析はわからないだろうけれど仕方あるまい。帰りは終電。金曜日にはよくあることだが,満席で高崎まで座れなかった。冷静に考えれば1回1500円は高いのだけれど,上野=高崎間のFREXグリーン回数券の購入を検討してもいいかもしれない。


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