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書評:向山恵理子『夢をつかむ法則:アニャンゴのケニア伝統音楽修業記』(角川学芸出版)

最終更新:2013年12月16日

書誌情報

書評

諦めずに正しく努力したことによって夢を叶えた実例。

ミュージシャンなのに文章が読みやすくて驚いた。もっとも,日本語,スワヒリ語,ルオー語,英語を喋る言語能力からすれば当然かもしれない。

要約すると,プロのミュージシャンを目指してNYで音楽修業をしようと渡米したら911テロの余波でNYに辿り着けなかったなど,失意のときにケニアの伝統音楽に出会って惚れ込んでしまい,これまでルオー族の男性の中でも限られた人にしか伝承されなかったニャティティという楽器の弾き語りを,外国人で女性であるという二重の壁を乗り越え,その楽器を演奏する文化が継承されている村の大師匠の家に何箇月も住み込んで,ついには伝統奏者として認定され,日本ケニア文化親善大使として活躍するまでになった,という20代の奮闘記であった。

本筋も読み応えがあるが,たくさん散りばめられた小さなエピソードも含めて内容にも共感する点が多かった。ただ,諦めない努力だけではなくて,周囲の環境(ある程度は努力で切り開けるが)と幸運にも恵まれたということは意識しておいた方がいいと思う。まあ,逆に言えば,諦めずに努力していると幸運に恵まれることも多いのだが,どんなに努力しても運が悪いと目標に辿り着けないこともあると思う。

ぼくのフィールドワークの経験でも,もちろん様々な代替手段は考えておいて全力を尽くすのだが,最後は救われてきたのは運が良かったのだと思っている。

あと,ミュージシャンの修業に限らず,調査研究だって,国際協力活動だって,現地の人たちにとっては,スワヒリ語でいう「シャウリ ヤング」(私の勝手)なのだという視点は,国際保健学や国際学においても非常に重要で,現地での経験を踏まえた内省からそこに気づいたアニャンゴさんは凄いと思う。

【2013年12月16日】


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