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書評:鎌田實『○に近い△を生きる:「正論」や「正解」にだまされるな』ポプラ新書

最終更新:2013年12月16日

書誌情報

書評

ポプラ社がこの9月に創刊したポプラ新書の第一期ラインナップの1つ。書き下ろしではあるのだが,これまでの鎌田さんの本を何冊も読んできた人にとっては,「○に近い△」も「別解力」も過去のエピソードも目新しくはない。逆に言えば,一冊を通してタイトル通りの主張が繰り返されるので,鎌田さんが言いたいことは誰にでもわかるだろう。

人類生態学者にとっては当然のことだが,世間一般では○を求めることが是とされているので,こういう本で主張する価値はある。あまりこれまで鎌田さんの本を読んでいない人にはお薦め。もちろん,石井光太さんとの対談とか,都道府県別平均寿命や健康寿命で長野が日本一,沖縄の順位が下がり,青森が最下位なこと(この本に書かれている程度のことは,鵯記でも何度か書いたし,沖縄についてアルコール摂取過多を取り上げないのは甘いと思うし,ゼロ次予防という観点から書いて欲しかったが……この辺りは書き始めると際限なくなってしまうので,いつか別にまとめるつもり),BOPビジネスなどの新しい出来事も取り上げられているし,戸井十月さんとか小松道俊さんといった同志的な人たちへの弔辞にも鎌田さんらしさが溢れていて,ファンならそこは必読だろう。

ただ,校正が甘いかなと思われ,誤変換(終章の「人口呼吸器」とか)や不正確な表現(p.136「タンザナイト、金などの貴重な金属」は「貴重な鉱物」ならいいが,タンザナイトは金属ではない。また,何度も「日本で初めてデイケアを始めた」と書いているが,「最初期」には違いないが,大阪市立弘済院や東京都老人医療センターの方が先だと思う)が目についたのが若干残念だった。まあ,○に近い△だから,そういうもんだと思って読めばいいのだが。

【2013年12月16日】


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