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書評:秋月岩魚「ブラックバスがメダカを食う」,宝島社新書

最終更新: August 12, 2005 (FRI) 16:52 (書評掲示板より採録)

書誌情報

書評

これは難しい問題だ。著者の主張は明快で,生態系保護にある。もっとも,タイトルには裏付けが乏しいように思う。メダカの主生息地は田んぼの水路だった筈だし,バスよりも減反や基盤整備事業や水路の護岸といったことの影響が大きいような気がする。メダカというのは,もともと大きな湖になんかいる魚ではなかったはずだ。

本書には,雄蛇ヶ池(おんじゃがいけ)とか一碧湖とか,昔懐かしい名前が頻出する。何を隠そう,中学生の頃のぼくは,ルアーフィッシングに狂っていたから,それこそ富士五湖にはよく行ったのだ。ブラックバスが北米原産であり,密放流によって広がりつつあるのは知っていたが,それでも釣りをすることに抵抗は感じなかったから,本書の主張によれば密放流の上に成り立っているバス業界を潜在的に支えてきたことになってしまい,反省させられた。

著者は,奥只見の岩魚を保護する活動から,生物多様性保護全般に活動を広げ,生物多様性研究会という会を立ち上げている。p.212で「話し合いの場を公にもちたい」と書かれているのは,たぶんこの会の活動の場を広げるという意味かと思う。例えば,この著者が「環境自由大学 青空メーリングリスト」ででも問題提起してくれれば,公に話し合いの場をもつことになるのではないだろうか。

内水面の生態系保護のための具体的方策として著者が推進するのは,「バス絶対駆除,バス釣り禁止」ということである。これには,最初違和感を覚えたが,買春する男性がいなければどんなに女子高生が乱れようと援助交際が起こり得ないのと同じようなことで,「潜在的な密放流のメリットをなくす」という意味で本質的には納得がいった。しかし,「いてはいけない筈」の根拠は法律にあるので,それ以外の点ではバスだけを特別視する根拠は(その並はずれた繁殖力の強さが特別だという気持ちはわかるにしても)確実ではなく,その意味で水口憲哉氏の「もともと日本の内水面は各種外来魚の放流によって釣り堀状態になっている」という発言も一理あるように思った。つまり,著者は,生態系保護のためといいながら,ブラックバスを特別視する根拠は主として法律に求めているので,議論の筋がやや捻れているのではないだろうか。紙幅の都合もあったと思うが,どこかで補足説明をしてくれることを望むのである。

【1999年9月22日記】


この本を作るという話は,どこかで聞いたような気がしていたのだが,今日jeconetの過去のメールを見ていてわかった。[jeconet:3757]で生態学者への意見募集のようなことがされていたのだった。たしかに「どうせ自然じゃないから」という言明は,生物多様性を軸にすると受容できないものだが,その場合,排撃されるべきはバスだけではなくて,許認可を受けているアユやニジマスだって含まれる筈だ。とりわけバスをターゲットにする論理基盤は,やはり合法性という点にあるような気がするのだが,ぼくの理解が浅いのだろうか?

【1999年9月27日記】


先日,その生物多様性研究会のwebサイトを見つけたので,青空MLで議論しませんかと誘ってきた。乗っていただければ嬉しいのだが。

【1999年9月28日記】


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