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書評:矢部孝・山路達也『マグネシウム文明論:石油に代わる新エネルギー資源』(PHP新書)

最終更新:2011年5月5日

書誌情報

書評

東日本大震災から波及した原発事故によって,原発が技術的に十分には制御できないことが明白になり,代替エネルギーへの期待が高まっている。1年ちょっと前に出版された時に買ったきり放置していた本書を読み進めたのは,ちょうど東京電力による計画停電が毎日のように行われていた頃のことだ。

読了し,ここに集中投資すれば,エネルギー問題には明るい見通しがありそうな気がしてきた。太陽光レーザ+マグネシウム還元による空気マグネシウム電池プラントを作るとして,第3者(例えば安井至さんとか)によるLCAが欲しいところだが,それでプラス評価が出れば,本気で国策として推進していいのではないだろうか。

なお,なお,著者の矢部孝氏は,以前,群大工学部の教授だったこともあるそうで,何となく親近感が湧いた。この方は,太陽光励起レーザとマグネシウム空気電池のみならず,ペガサス浄水化システムという海水や汚水を特殊な方法で蒸留して真水にする機械と,CIPという計算アルゴリズムを発明していて,とくに前者はマグネシウム循環社会の実現へのロードマップの第一段階に位置づけられており,既にアジア諸国への導入が進んでいるそうだ。100億円あればペガサス浄水化システムで10万トン/日の真水を海水から作るプラントができるとのことなので,孫正義氏に話を持ちかけたらいいかもしれない。また,本書出版時点で,既に宮古島から導入の話が来ていたそうなので,ヒロインの故郷の話にして,松岡圭祐に『万能鑑定士Q』のシリーズで取り上げてもらえば,一気に有名になるかもしれない(VIII巻で出てきた詐欺話と違って,これは本当の淡水化装置らしいので,後味がいいストーリーになりそうだし)。一方のCIPは,FortranとCのコードが公開されているし,そう長いものではないが,CRANには入っていないようだった。Rでは遅いかもしれないが,移植してもいいかもしれない。

以下,本書絡みの余談を少々。金子勝氏のブログ記事「日本復興計画その1」には概ね共感する。金子氏は最後に「その基軸となるのは,本格的な再生可能エネルギーへの切り替えです」と書かれているが,本書は読まれているだろうか。もしまだだったら,是非お読みいただきたい。『環境省、国内の自然エネルギー発電のポテンシャル分布図を発表』という/.Jのスレッドでは,本書に出てきた太陽光励起レーザ+マグネシウム還元システムへの言及がほとんどないので,まだ世に知られていないということだろう。本書に書かれていた段階に来ているなら,太陽光発電+蓄電池の弱点「レアアースを必要とする」という点は既に解消されたといっていいのではないか。少なくとも,空気マグネシウム二次電池が実用化(または同書に書かれていたように,マグネシウムはパッケージ化して入れ替え・回収・再生するのでもいい)されるだけでも,事態は大きく変わると思う。また,岡田斗司夫氏による公開読書会でも,期待は大きいのだが,あまりに話がうまくできすぎていて信じられないと言われており,だからこそLCAは必須と思うし,エネルギーの専門家による本書の書評が欲しいところだ。

【以上,2011年5月5日,メモから収録し加筆修正】


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