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書評:川端裕人『リョウ&ナオ』(光村図書)

最終更新:October 5, 2013 (Sat)

書誌情報

書評

阪急六甲の本屋でフライングゲットし,阪急電車とバスの中で読み続け,読了。ワクワク感が凄い。粗筋としては,天才的に冴えていた親友ナオが病気で亡くなってしまった喪失感から,中学に入ってもやる気が出なかった主人公リョウが,ナオに似た性格と能力をもつ少女に出会い,他の国から選ばれた3人の仲間とのチームで世界の色々な場所を訪れ,与えられた「ミッション」をこなしながら成長していくストーリーといえようか。

川端の作品世界でいうと,主舞台になっている桜川サーガとはつながっていないように思うが,『雲の王』とは,たぶん語学の天才ペネロペちゃんをシェアしているような気がするなあ……と思っていたら,川端自身もブログでそれを仄めかすようなことを書いていて,さもありなんと思った。まあ,「本当のところはぼくも分かりません」ということだけれども。

世界各地での描写の臨場感は,実際に体験した川端だからこそ書けるのだと思った。子供たちが主人公のジュブナイルという形で書かれたものなので表現は平易だが,国際協力研究科の院試問題の出題元にできそうな,難しい問題をさらっと書いているところが何ヶ所もある。

小説としては画期的だが,これに似たテイストのものを以前読んだことがあるなあと考えていて思い出した。石川直樹『この地球を受け継ぐ者へ:地球縦断プロジェクト[P2P]全記録』講談社+α文庫,ISBN:4-06-256637-0(絶版みたいだが)だった。あと,NHKテレビで以前放映していた『未来への航海』も思い出した。これらはノンフィクションだが,『リョウ&ナオ』が心に響いた人には興味深いだろう。

もう一つ,自分は絶対に敵わなかったけれども夭折してしまった親友の夢を追う物語というと,くいなとゾロの関係を思い出した。川端は意識しているだろうか?

【以上,2013年10月5日,9月2日の鵯記より所収し加筆修正】


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