まだ景気が回復するなんて思っている人がいることに驚いた。セゾン会長の堤清二氏が,橋本首相が市場の信頼を得られなかった(財政構造改革法の首相案が出ても株安・円安傾向が変わらなかった)ということで退陣を求めたという話だが,法案提出程度で画期的な景気回復が起こるなんて幻想を抱いているのだろうか? また,国際的な会議の場にでるたびに批判されるから経済オンチの首相はやめるべきだといったそうだが,「欧米から批判されない」だけでいいのだろうか?
もちろん,特別減税実施のための赤字国債増額を認め,建設国債も増やすという首相案では恒久減税などできなくなり,2003年までに赤字国債を無くすことなど不可能になるのは目に見えている。その意味では堤氏の批判はまったく正しいと思う。しかし,だからといってアメリカの政府関係者やエコノミスト(の一部)がいうように恒久減税さえ実現すれば景気が回復するというのはあまりに短絡的な発想である。アメリカでうまくいったといっても,アメリカと日本では貯蓄性向が違うので,税金が減ったらその分を消費に回すかといったら違うと思う。これだけ金利が低くて預金の利率も低いというのに,日本の勤労者世帯の平均消費性向(可処分所得に占める消費支出の割合)といったらたかだか75%(今年2月)に過ぎず(総務庁統計局のWEBサイトのデータによる),前年同時期よりも4%も下がっている。一方,アメリカでは平均消費性向は92.7%であり,平均貯蓄性向は4.3%に過ぎない。一口に国民性の違いといってしまうと身も蓋も無いが,日本人の方が使いたがらない傾向にはあるようだ。
ぼくは経済の専門家でも何でもないので,日本人が使いたがらない理由はわからない。しかし,卑近な例で考えてみると,いくつかの可能性があると思う。一つは,家計が夫婦間で独立採算になっていない世帯が多い(アメリカに比べて)ことである。夫婦のうちでしっかりしている方が家計を握ることが多いわけで,減税によって家計収入が増えても,比較的消費傾向が強い配偶者の小遣いを増やしてやろうとはならないのではないか。畢竟,ただ貯蓄(貯蓄型保険なども含む)が増えていくことになる。バブル崩壊の教訓を誰もが知っているので,余った金を投資運用しようなんて考える素人はもういないと思うし。
第二の可能性は,今買って損をしないと思えるような商品がないことである。たとえばコンピュータ。いつ買っても損をしたような気になるのは,もはや常識である。メモリにしてもCPUにしても,半年経てば半額以下でより高性能なものが買える。プリンタ然りである。質的に画期的な改善があって既存の大問題が解決した(たとえば,絶対にハングアップしないコンピュータとか)などということがあれば別だが,今の商品開発は問題解決よりも,付加価値をつけて高機能にする方向に進んでいるので駄目であろう。デジタルカメラのような新しいカテゴリの商品が出ると,新物好きにはそこそこ売れるが,それすら技術革新のスピードが速すぎるので,一般消費者は買い控えてしまうわけである。去年35万画素で高画質とかいっていたものが,今年はメガピクセルでないと画質的にはお話にならないということになるわけである。しかしそれすら銀塩写真をスキャナで取り込むのに比べて低解像度かつ発色も劣るので(かつスキャナの方が安いときている),まだまだ使えないなという気がして買わない人が多いということになる。オーディオでもMDなどはそうだ。技術革新(小規模な技術改良)と低価格化が早過ぎるのだ。そこそこ売れるのは,デファクトスタンダード商品と十分低価格な商品だけである。
そもそも,機能的にはいまの技術で十分である。無いところに需要を作り出すために新技術開発をするわけであるが,それが不安定なら多くは売れないのが道理である。この地球環境問題がクローズアップされている時代に,使い捨て商品の速いペースのターンオーバでしか維持され得ない経済成長とか景気回復などというものが幻想だということにそろそろ気づくべきだ。経済成長なんてしなくてもいいではないか。というより,地球全体の資源が限られている以上(新資源発見速度によってカバーされるという説はぼくはとらない),無限に経済成長するわけがないではないか。喜ばしいことに途上国を踏みつけにすることも許されない世の中になってきたし,景気が回復するなんてことはもうないのだ。別にそれでいいではないか。
ちょっと舌足らずだが,いまのぼくの能力と時間ではこれ以上厳密に論じることはできないので,今日はこの辺にしておく。悪しからず。