夢の島というとかつては「ゴミの島」というイメージだったが,今や家族連れで遊びに行く場所となっている。営団有楽町線新木場駅を出てすぐに右折して明治通り沿いに進み,「ユーカリ橋」なる陸橋を渡ると夢の島公園に出る。陸上競技場や野球場(ただし明治通りを挟んで反対側),多目的コロシアムやマリーナまである,面積43ヘクタールの広大な公園である。昨日の目的の熱帯植物館は,公園の北東角のマリーナに面した部分にあり,隣接する江東清掃工場からの高温水をエネルギー源とした巨大な温室がその本体である。ちなみに,ゴミの焼却熱で作られる高温水は摂氏125度かつ5.5気圧もあるので,熱帯植物館の熱交換機で摂氏70度の温水を作って館内の暖房にあて,吸収式冷凍機を使って高温水のエネルギーから冷風を作って冷房もしているということだ。ゴミ処理の廃熱の活用法としてはかなりうまい方法である。
熱帯植物館の開館時間は9時30分から17時(入館は16時まで)で,月曜休館,入場料は一般250円,中学生100円,小学生以下と65歳以上は無料である。さすがに廃熱を使っているせいか,経費があまりかからないものと見える。都営のこうした施設の中でも安い方である(これと比べると東京大学理学部附属植物園の300円は高いと思う)。大温室の回りも蓮の葉やウォーターキャベツが浮かぶ池が散在する緑地になっていて,ベンチなども置いてあるので,そこで食事もできる。池の中にはカダヤシのような魚が大量に泳いでいて,子どもがはしゃいで手を突っ込んだのには閉口した。何度注意してもやるのは4歳児だから仕方ないか。マツモムシも久々に見たし,蜻蛉がいるのもこの池のおかげだろうけれど,蚊が多いのもこの池のせいかと思うと少々憎らしかった。これだけ小魚がいるのにそれをかいくぐって生きるボウフラというのも,相当なものだが。
現在,開館10周年記念特別展示というのをやっている。11日までは東南アジアウィークと題してボルネオの映画上映をしているのだが,子どもが騒ぎそうだったので断念したのがやや残念である。揚げバナナの試食会とか熱帯果実の蝋細工とかも面白そうだったが参加できなかった。下の子が並ぶのに耐えられそうになかったからである。日本の施設ってどこでも混んでるよなぁ。ちなみに特別展示は12月6日まで続くそうだ。イベントを抜粋しておこう。
- 今度の土日は「ガムラン音楽の演奏や舞踊を上演」
- 10月13日からの「中央アメリカウィーク」では毎日コスタリカコーヒーの試飲
- 10月20日からの「アフリカウィーク」では土日にアフリカンドラムの演奏
- 10月27日からの南アメリカウィークでは土日にミニ「リオのカーニバル」
- 11月10日からのインドウィークの土日にはチャイの試飲とかシタール演奏
- 11月17日からの南の島ウィークの土日にはムームー試食会
- 11月25日からのマダガスカルウィークの土日にはヴァリハの演奏
- 最後のアンデスウィークの土日にはインカのチョコレート試食とフォルクローレ演奏
これらの特別展示や映画以外はこじんまりとしているので,まあゆっくり回っても1時間あれば十分である。子どもを連れてゆくのにちょうどよい規模と思う。何より安いのがよい。東京都はこういう廃熱をうまく使った施設を充実させて欲しい。ただ,明治通りのせいもあって周囲の空気が悪いのが欠点。これだけ広大な緑地があってこんなに空気が悪いのだから,大変な交通量である。
熱帯植物館を出てから新木場駅に向かう途中,夢の島公園内の円形の広場で子どもと走った。すり鉢状の草原の上を蜻蛉が飛び交い,フリスビーをやってる若者の頭をかすめてゆく。走っていると,広場の回りで弁当を広げる家族連れなんかが目に入って何となくほのぼのとする。子どもの足が速くなってきているのに気づく。ただ,すり鉢の傾斜の部分では水はけが悪いのか草の根に保水力がありすぎるのかズブっと足が沈むので,「静寂の通路」(もしかすると違う題かもしれないが,小松左京の中編)の「ガンク」が脳裏をよぎり,かすかな戦慄を覚えた。まあ,頻繁に草を刈ったり集めたりしない限り,腐葉土状になることは容易に想像できるので,きっとそういうことなのだと思うが。ぼくの中ではまだ「ゴミの島」のイメージが残っていることを意識した瞬間であった。
さて,明日の教室ミーティングで文献紹介の準備をせねば。