勘の良い方ならピンと来たかもしれない。今日の話には,昨日発表されたノーベル医学生理学賞の受賞研究が絡んでいる。一酸化窒素(NO)といえば,一般には自動車の排気ガス中に含まれる大気汚染物質というイメージが強いのだが,実は,血管内皮由来の動脈弛緩因子として作用していたというのだ。1980年に今回の受賞者の一人Robert F. Furchgottが筆頭著者の論文で内皮由来の弛緩因子(EDRF)の存在を報告し,1988年にFurchgott単著の論文でその実体が単なるNOなのだということを報告している。他の二人Louis J. IgnarroとFerid Muradは,EDRFがNOであることをFurchgottと独立に発見したこと(Dr. Ignarro)と,ニトログリセリン投与によって放出されるNOが平滑筋の細胞を弛緩させることを発見したこと(Dr. Murad)によって賞に名を連ねているとのことである。彼らの発見が端緒になったのかどうかは知らないが,Nitric Oxideなんていう専門誌もあるくらいだから,きっとそれなりに裾野も広く,学問分野を作った研究といってよかろう。
思ったことは二つ。ノーベル賞がある程度古い研究に与えられるのだなあということと,やはりsignaling関係かということである。ぼくの記憶では,昨年のScienceやNatureに載った生物系の論文は半分くらいsignal transduction関係というから,現代における重要視のされ方は推して知るべしである。関係性の重視という意味では嬉しいのだが,個体内の現象であるあたりが医学生理学賞らしいところか。
一酸化窒素は酸素と窒素一原子ずつからなる。酸素も窒素も空気に豊富に含まれているし,重要な生体構成成分なので,そういう意味では,このNOという化合物が信号物質であっても不思議はないのだが,それにしても専門誌があるとは恐れ入った。こういうパラダイムを作る発見ができたら嬉しいだろうな,とちょっと思った。
年に一度の学生実習が始まってへとへとであるため,今日はこれでおしまいにする。悪しからず。