昨日は書き忘れたが,科学ジャーナリズムと並んで,今日必須と思われるのは,専門家自身が,質の良い入門書または啓蒙書(この言い方はあまり好きではないが)を書くことである(教科書ではなく)。ドライアイを発見した坪田一男さんがブルーバックスから出した「理系のための研究生活ガイド」で書かれているように,自分の研究を一般向けに説明した本を書くことこそが,研究者にとって名刺をもつこととなる。ぼくはまだ書いていないからダメなんだが,代わりにこのサイトでいろいろ書いているわけだ(そういう割には研究と教育のページの更新がなかなか進まなくてまずいのだけれど)。
入門書の価値は,大雑把に言えば3つあると思う。世間一般に対してその研究の価値を還元すること,他分野の研究者をinspireすること,そして後進を育てることの3つである。このうちのどこに力点を置くかによってその本の性質は変わってくるが,最悪なのは著者自身がそれを自覚していないために力点がふらつくことである。事に当たるに際して自分のスタンスを意識することは本質的に重要である。これは入門書に限らず,小説なんかでもそうだと思う。
ぼくが入門書を読んで面白いと思うのは,いうまでもなく2番目に力点が置かれている本である。引用文献リストも付いていて,不明点が確認できるようになっている。自分が一番面白いと思っているところを遠慮なく書いているから,うまくすると誰にとっても面白い本になる。わかりやすさに配慮するあまり,細部をはしょって書いたものは,往々にしてつまらない。不適切な引用かもしれないが「神は細部に宿る」のである。速水融さんの「江戸の農民生活史」(NHKブックス)における歴史人口学の面白さというのは,具体的に書き込まれているからこそ伝わってくるのである。
後進を育てる本というのも,その研究分野にとって重要である。やはり,意欲と能力のある研究者がどんどんくる分野は隆盛するし,来なければ廃れてしまう。東大出版会から矢原徹一さんが出した「花の性−その進化を探る」なんて本はヤラレタと思うもんなぁ。頑張らねば。
関係ないけど,今朝は4:00に起きたので10分くらい空を見ていたら,流星が2つくらい見えた。思ったより空が透き通っていて,星がたくさん見えたので驚いた。オリオン座とか,目の悪いぼくでも裸眼ではっきり三ツ星まで見える。冬の訪れを感じるのは,こんな時である。しかし,ぼくは待つのが苦手だ。10分も見てたら退屈で耐えられなくなった。脳が変化を求めるのだろうか。