枕草子 (My Favorite Things)

【第106回】 今年の推薦科学書(1998年12月14日)

ネットサイエンスインタビューメールでお世話になった森山さんのサイトで,「独断と偏見で選ぶベストサイエンスブック'98」という企画をやっているというので投票してきた。推薦したい科学書のある人は是非投票することをお薦めする。良い科学書が出版されるためには,具体的に支持する人がこれくらいいるということを出版社にわかってもらう必要があり,この企画はその役に立つと思うからである。

持ち点が5点なので,最大限5冊しか投票できないのがつらいところである。分野が違えば推薦の程度も自ずと違ってくるし,悩んだのだが,ぼくが投票したのは次の5冊である。

推薦理由を書いておこう。肥満遺伝子は,自分と同じ年の研究者が新しいテーマを書ききっているからだし,新「人口論」は,自分が書きたいような内容の面白い本だし,こんなに長い本を迅速に訳出した奈良女の数理生物の方々に敬意を表してという意味もある。味と香りの話は,新しい文献まであたってあるし,広範で深い記載に感心したという意味が大きい。よくわかる環境ホルモン学については,今年,環境ホルモンがらみで何冊出たか数えるのも馬鹿らしくなるほどだけれど,その中ではこれがナンバーワンと思うからである。最後に絶対音感は,研究者以外の人が書いたサイエンスブックとして出色の出来だと思うからであるが,もちろん着眼点とか立論のしかたとか綿密な取材に基づいたしっかりした記載とか面白いことは言うに及ばない。

ちなみに,新「人口論」は人口学のページ,よくわかる環境ホルモン学は生態学と環境科学のページに,ここよりは詳しく紹介文を書いたので,参考にしていただきたい。また,他の3冊については書評掲示板に紹介したので,ご意見,反論等いただければ幸いである。とくに蒲原さんからお答えいただけると嬉しいのだが。

ところで,新「人口論」の著者ジョエル・E・コーエン(Joel E. Cohen)がProNAS (Proceedings of National Academy of Sciences, USA)の11月24日号に載せた論文は面白そうだ。彼は本当に考えることのスケールが大きい。全世界の人口分布を居住高度との関係で概観したのである。世界人口の33.5%は海抜100メートルの範囲に住んでいるというから,温暖化で海水面が100メートル上昇したら20億人近くが転居しなければならなくなる。大騒動である。もちろん一気に上昇するわけではないから,実際にパニックが起こるわけではなかろうが。実は東京大学の図書館にはまだこの号は届いていないので本文は読めないでいるのが非常に不満である。届くのが待ち遠しいのである。オンライン購読が契約できないのなら,せめてDHLかEMSで送って貰うように契約して欲しいものだが,そうもいかないのだろうか。abstractだけはProNASのサイトで読めるのだが,本文入手までの待ち時間が不満な今日この頃なのである。


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