枕草子 (My Favorite Things)

【第132回】 新種の猿人(1999年4月23日)

書かないと,あっという間に1週間経ってしまう。歳月人を待たずとはよく言ったものである。光陰矢の如しともいうな。ちなみに光は太陽,陰は月を示し,合わせて月日ということであるらしい。この間,カビガやエゴロワやロバが優勝したりDragonsが2敗したりサッカーのユースが決勝に進出したり,ということがスポーツの話題であった。

自分の今週を振り返ってみると,月曜に教室ミーティングで発表があり,ちょっと古いネタだが,古人骨から過去の人口再構成,とくに出生率の推定をする際の問題点を,シミュレーション人口を使って定量的にやったという話を紹介した(Paine, Richard R. and Henry C. Harpending (1998) Effect of sample bias on paleodemographic fertility estimates. Am. J. Phys. Anthropol., 105: 231-240.)。著者の一人であるヘンリー・ハーペンディング教授とは,ぼくが1996年から1997年にかけてペンシルヴェニア州立大学の人類学教室にいたときに,人口シミュレーションの議論を時折したことがあるので,懐かしかった。いつかフライフィッシングに行こうと約束したまま帰国してしまったのが残念である。いつかは日本に呼びたいと思っているのだが。閑話休題。

AJPAに載ったこの論文自体はきわめて単純なモデルなのだが,「高齢者の年齢推計に下向きのバイアスがかかることと4歳以下の子どもを半分くらい見落とすことを無視すると,出生率をかなり過大に推定してしまう」という知見が,先史人口学に対する大きな貢献であるには違いない。民博の小山修三さんによる縄文時代の人口推計でもそうだが,先史人口学においてはコンピュータシミュレーションが有力な道具となる。しかしそれを使いこなせる人は多くはないから,こういう論文は大事だと思う。シミュレーションの使い方としては,ぼくが今度の人口学会で発表する内容も同じである。あれも投稿しなくては。

ところで,この2,3日,興味を引かれる知見が相次いで発表されている。昨日発表されたのでは,稲作が縄文時代の,遅くとも6500年前くらいの時点で既に始まっていたという話が面白そうだった。Natureの最新号にはチンパンジーが食べ物に感じる魅力が,絶対的でなくて相対的なものだということを神経生理学的手法で明らかにしたということが載っていた。しかし,Science最新号に諏訪元さんのグループが発表した新しい猿人化石(「ガルヒ猿人(Australopithecus garhi)」と名付けられた)の話はさらに魅力的だ。なにせ,250万年前のものと思われるこの猿人は,道具を使って獲った動物の肉を食べていたというのである。読まねばなるまいな。

ユーゴ大統領公邸爆撃とかきな臭い話がプンプンしているが,ヒトが領土を求めたり自分と似ていないヒトを拒絶したりするのは,実にサル的だなあと思う。こんなのは,大所高所からの嫌らしい意見で,実際に戦火のとばっちりを受けて苦しんでいる市民には何の足しにもならないのだけれど,それでも書かずにはいられない。ライアー・ライアーに出てきたミシェル少年がもっていた能力を誰もがもっていればいいのに,などと愚にもつかぬことを考えてみたり。


ちなみに,EWS4800へのGCCインストールはまだうまく行っていない。


前【131】(EWS4800増強計画(1999年4月16日) ) ▲次【133】(体細胞クローンのテロメア(1999年4月30日) ) ●枕草子トップへ