枕草子 (My Favorite Things)

【第151回】 アフリカ型鉄過剰症紹介をファミリーコンサートと動物園が挟んだ4日間(1999年7月21日)

結局月曜のミーティングは前回触れた通り,アフリカ型鉄過剰症の話にした。レビュー論文の方の,問題の発見とミネラル毒性説から2段階説へ,そして鉄製調理容器に起因する鉄過剰摂取原因説へと展開し,1992年からはGordeukの提唱している遺伝素因+鉄過剰摂取の複合要因説が有力な説明になっている,という話は,うまく伝えられたと思う。図(注:見るにはAcrobat Readerが必要)まで作ってしまった甲斐があったというものだ。しかし,2番目の論文については,segregation analysisを理解しきっていないのが問題であった。segregation analysisとは,量的形質がどのように遺伝によっているかを推定する方法の一つで,家系図データと各個人のその形質値をもとに,その形質に寄与する遺伝子を仮定し,その形質がある法則に従って遺伝すると仮定した場合に,得られた形質値がどの程度説明されるか,という考え方のもとに,手口としては遺伝子伝達様式の仮定を増やしたサブモデルの,より一般的なモデルに対する尤度比検定を行うものである。

……っていっても,馴染みのない人にはチンプンカンプンだろうな,と思う。つまり,理解に必要となる前提知識が多いのも,問題の一端ではある。しかし,それ以上にぼくの理解が完全でないのも問題だ。Kenneth M. Weiss (1993) "Genetic Variation and Human Disease," Cambridge Univ. Press.の6章をちゃんと読まなくては。Penn. State Univ.にいたときはわかったような気になっていたのだが,やっぱり良くわかってなかったのだった。当然のことだが,半可通では他人に説明することはできない。従ってミーティングの出来はよくなかった。ただ,聞いている人には申し訳ないが,話す側としてはこのくらいのレベル(つまり自分の到達点よりやや高いところ)の話をしようと試みる方が,得るものは大きい。ときどきは自家薬籠中の話をさらっと展開して,自分の分野の面白さを印象づけることも必要だが,そればかりでは講義になってしまう。助手のうちはミーティングで刺激を求めることも許されると思うので,まあいいよね?

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先週土曜は,3月まで「おかあさんといっしょ」の歌のおにいさんだった「速水けんたろう」さんのファミリーコンサートに出かけた。妻は食文化の研究会で東京に行ってしまったので,子ども2人を自転車に乗せて,押していった。家から会場の長野市民会館まで約40分くらいかと思うが,結構疲れた。優待券があったので入場料は1人1000円だったが,席は「て」列だった。この会場は「いろは」順なので,「て」列というと後ろから2列目なのである。ほとんど点のようにしか,「けんたろうおにいさん」の姿は見えなかった。「いろは順」からも類推されるように古い作りの会場で,2階席から出口へ降りてゆく階段が急で狭くて危ないとか,メインロビーが禁煙になっていない(かどうかしらないが,目立つ掲示はなかったし,吸っている人が何人もいた)とか,顔をしかめたくなるような点がいくつもあった。県はオリンピックの余波で財政難らしいが,長野市は地方中核都市指定を受けて意気軒昂なところでもあるし,建物改修を望みたいところである。とりあえず階段と分煙徹底だけでもいいからさ。

さて,コンサートの始まりである。我が家の子どもたちをこういうコンサート会場に連れてきたのは初めてなので,まず音の大きさに驚いた様子であったが,まあ一般的なポップスのコンサートに比べれば音は抑えてあったので,すぐに慣れたようだ。それよりも頭上からステージに伸びるスポットライトの光条が気になるらしく,「ねえパパあれは?」と何度も聞かれて,答えに窮した。「おにいさんがよく見えるように強い光をあててるんだよ」とでも答えておけばよかったのかも。歌はさすがにすばらしかった。しかし,語りはどうもすべっていたように思う。とくに,大人向けの歌も1,2曲は織り交ぜてやっていきたい,と言ってTrue Loveのギター弾き語りをするところ。フミヤみたいな色気はないけど,不思議に透明感のある歌い方で,歌そのものは良かったんだ。だけど,ここは大人を相手にしている,と決めているのだから,あんなに弁解調に語らなくてもいいのではないか。子どもにしたらただでさえ意味の分からない語りなのだから,もう少しさらっと流した方がよかった。息子5歳の方は,「おべんとうの歌」を引き出すところの自爆ギャグに受けていたが,会場全体の雰囲気としては,おにいさんの語りは高度過ぎるのかもしれないと感じた。

完全なソロコンサートでは間がもたないのか,それとも手遊び歌系のものでは「おねえさん」がいた方が映えるからかしらないが(まあ前者:後者の理由が7:3くらいのmixと思うが),「うえのいずみ」さんという「おねえさん」が途中登場し,元気なデュエットを披露してくれた。ステージが遠いのでやはり点のようにしか見えないのだが,どちらかというと「Try! Try! Try! のちかおねえさん」に似た雰囲気の方で,声の質も元気な感じが強かった。WEBで検索してみたが,まだこの方に関する情報はないようだ。悪くはないのだが,子どもには違和感があったらしい。2歳の娘が「あゆみおねえさんはー?」と何度も聞くのには参った。あゆみおねえさんの透明で艶のある声で「小さなおふね」とか「あしたははれる」とかやって欲しいのであろう。ちなみに,うちの娘は日曜日のNHKののど自慢を見るのが好きで,うまい歌を聴くと「けっこうじょうずー」と評価するのが癖である。娘が「けっこうじょうずー」と言うと,その人は大抵合格で,悪くても鐘2つである。帰り道,「おにいさんの歌,どうだった?」と聞いてみたら,「けっこうじょうずー」と答えたのには大爆笑してしまった。「けっこう」というのは副詞としては「なんとか」「まあまあ」の意(出典:広辞苑)だぞ。おにいさんに失礼ではないか。どこで覚えてきたのやら。もっとも,「ミナトパパの歌は?」と聞いてみたい気もするのだが。

もう1点コメントしておくと,「だんご3兄弟」は,契約上の問題でもあるのか知らないがおにいさん1人で歌っていたが,後ろのスクリーンに例のアニメ映像が流れていたのが薄暗くてよく見えないのは失敗と思った。あの程度の映像効果しか出せないなら,あゆみおねえさんとちかおねえさんでなくてもいいから,3人の踊りつきバージョンでやって欲しかったところだ。昨日の朝のテレビ放映(中編となっていたが,前編と後編はいつだったのだろう?)を見て,一層そう思った。

昨日,「うみの日」は,近所の動物園に出かけた。前にも行ったが,善光寺の裏手にある城山動物園という入場無料の動物園である。動物園の向かい側には市民プールがあって,昨日は大勢泳いでいた。子どもプールもあったので,次回は是非水着ももってこよう,と心に誓った。さて,動物園は例によって空いていて,カリフォルニアアシカやサル山のニホンザルをじっくり観察できた。ニホンザルの赤ちゃんの動きとか,アシカの泳ぎとか,いくらでも飽きずに眺めている子どもたちなのである。これはやはり生物系の研究者になるしかないか,子どもたちよ(>オヤバカ?)。動物園のあと,公園に移動して運動遊具で遊ばせていたら雨に降られて服が濡れ,靴も靴下もどろんこになったが,さすがに疲れ果てたらしく,帰宅後にシャワーを浴びせた後ぐっすり昼寝をしてくれたので助かった。

これだけ遊んでも,夜になって妻が帰宅すると「ママ,ママ」とあっちに行ってしまうのは,ほっとするやら寂しいやら,何かフクザツな心境である。


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