土曜日は長野びんずるというお祭りに,子ども2人を連れて行って来た。昼間だったのでそれほど混んでいなくて,「うちわ」を山のようにもらえたし,アンパンマンの着ぐるみと記念撮影をしてもらってインスタント写真をもらったり,と子どもたちは大喜びだったのは良かった。しかし,子ども椅子がついた自転車の鍵が目下行方不明なため,びんずるをやっている長野駅周辺まで家から歩いて往復せねばならず,案の定息子5歳半も「もう歩けない」などと言い出して,息子を肩車しながら娘を乗せたベビーカーを押すという強行軍であり,大層疲れた。まあ,見方を変えれば,これもいい運動である。歩いて往復したおかげで,市役所近くを流れる南八幡川という小川の傍に立つカッパの像や,川の岸辺でのそのそ動いているサワガニやカワニナにも出会えたし,良しとしておこう。保育園の子どもたちが権堂の商店街に出している七夕飾りをみることも目的の一つだったのだが,たくさん出ている出店に引っ張られそうになる子どもたちを宥めながら商店街を歩くのはなかなか大変だった。店が出した派手な七夕飾りに比べると,保育園のは地味だったが,子どもたちの思いがこもっていると考えれば,輝いて見えるものである(オヤバカ?)。ちなみに「びんずる」自体は,阿波踊りみたいな夜の踊りの方がメインのようで,昨日の信濃毎日新聞朝刊にも,100以上の踊り連が参加して賑わったと書かれていた。まあ,子どもたちがもう少し大きくならないと夜の部につれていくのは無理だろうな,と思うが,あせることはない。ところで信毎といえば,今朝の「山ろく清談」欄で,柳田さんという方が,科学研究のタコツボ化を嘆いて,包括的な視点をもった展開と,一般市民への広報活動の必要を説いていたが,これは,何度もこの「枕草子」でぼくが書いてきたことと一致しており,我が意を得たり,と膝を叩いたのであった(普通,膝を叩くというのはレトリックに過ぎないが,この場合は現象としての事実である)。
最近はじまった,この「山ろく清談」欄は,かなりぼくのツボにはまっていて,昨日も丸谷才一さんが,国旗国歌論議にはデザインやメロディーの善し悪しという本質的な問いが相対的に少なく,かつ,教育の本質と関係ないので,それより先に解決すべきことがあるだろうと書いていたのだが,これもぼくの持論と一致していて心強かった。
そういうわけで,多少強引だが,先週目に付いた医学生物学系のニュースをまとめて紹介しよう,というのが,今日の企画である。一般の新聞に騒がれたという意味では「植物のイブ」の話だろうが(国際植物学会議@セントルイスでの発表),進化を前提とする以上,現存の生物が祖先に由来するのは当たり前であり,4億5千万年前という時代については,どうせ計算に使った仮定が変われば大きく変わるような話なので,個人的にはそれほどインパクトは感じなかった。逆にそれほど騒がれなかったけれども個人的にインパクトが大きかったのは,熱帯熱マラリア原虫第3染色体の解読である(Bowman et al. (1999) The complete nucleotide sequence of chromosome 3 of Plasmodium falciparum. Nature, 400: 532-538.)。つい先日第2染色体がわかったと思ったばかりなのに,その早さに驚いたのだ。WEBで配列データが公開されているので,直接ご覧になっては如何だろうか。有名なところでは,CSP(スポロゾイト周囲タンパク)の遺伝子が第3染色体上にあるので,ワクチン開発に影響しそうである。もっとも,熱帯熱マラリア原虫の遺伝子は可塑性に富み,組み換えが起こりやすく,蚊の中腸で増殖するときにも変異が起こるので,染色体14本を一通り解析するだけでは不十分であり,このことは研究者たち自身も認識しているので,まだまだ道は遠いといわざるを得ない。Natureのこの号には面白い話題が満載だったが,p.557からの生物多様性の新しい理論も面白そうである。大きさの似た種が同じリソースを共有することはない,というのである。裏返してみれば,7月22日号のpp.351-354やpp.354-357で言われている,同所的種分化が起こる条件に通じるものであり,今後の発展を期待したい。
新聞にとりあげられたといえば,ナルコレプシーの遺伝子というのもあった。これはハワード・ヒューズ医学研究所のMasashi Yanagisawaさんが発見したものだ。当初は摂食行動を調節すると思われた,脳内のタンパク質オレキシンと,そのレセプターであるが,オレキシンノックアウトマウスを作成して調べたところ,摂食行動には異常がなく,暗所での睡眠行動に,ナルコレプシー様の異常がみられたというのである(Cellの8月20日号掲載予定)。通常の睡眠では,徐々に入眠して深い眠りに入り,その後REM睡眠(急速な眼球運動を伴う睡眠)に移るのだが,このマウスたちは途中をすっとばしていきなりREM睡眠に入ったそうである。これは,初めて見つかった,睡眠を直接制御する脳内物質とのことである。なぜ摂食行動に影響するかについては,Yanagisawaさんは,腹が減ったときに眠くなっては困るでしょう? と答えているが,その辺りはノルエピネフリン,レプチン,血糖値の協調作用で説明できそうな気もするので,むしろオレキシンの動きは派生的なものではないかと思う。もっとも,Cellの2月20日号に載った当初の論文を読んでいないので,この予測は大外しかもしれない。
詳細不明ながら気になったのは,今朝の信毎に出ていた記事で,米国の研究者が,大企業から資金援助を受けてやったという研究である。なんでも,バーゲンのときに購買意欲を煽られるのは,脳内に特殊な血流の偏りが生じるからだとかいうのである。どうせMRIかポジトロンCTスキャンだろうが,考えようによっては「非接触の外的刺激によって意欲に変化を起こす」という甚だ危険な研究である。詳しいところを知りたいものである。そういう意味では,新聞などでこういう研究を紹介する場合に,ソースは是非明記して欲しいと思う。欲求不満がたまるのである。