枕草子 (My Favorite Things)
【第266回】 朝2番のひかりで(2000年3月28日)
- 学際シンポジウム「遺伝子組換え作物をめぐる諸問題と政治・経済・社会」は,予想したよりも聴衆は少なかったが,それなりに議論が盛り上がって面白かった。呼んでいただいたことに感謝したいと思う>横山和尚さん。
- 簡単に感想を書いておく。秦野さんの主旨説明にあった,「みんな」のスローガンという考え方は面白いのだけれど,伝統的な知という視点が入っていないのではないかと感じた。鈴木秀夫さんの「森林の思考,砂漠の思考」で分析されているような,風土が自然観に及ぼす影響が,伝統的な知には表れているはずで,スローガンの地域性はその影響を受けると思う。立川さんのブリーフィングは現状説明や論点の整理については簡にして要を得たものだったと思うが,解釈のところで科学者と市民の問題意識のずれがあるのでは? といったときの「科学者」は,技術開発者のことなのだろうから,そういった方が良かったのではないかと思った。宮田さんは話がうまかった(農耕が紀元前5000年から始まったという話には,パプアニューギニア高地の根菜農耕はもっと前だとつっこみたくなったが,重箱の隅なので控えた)。現代の価値観を肯定するという前提で,現状の何が悪いかを指摘し,漠然と広まっている誤解をとくのだ,というスタイルが明確で,その限りではわかりやすかった。ぼくは現代の市場原理を根底に置く価値観そのものに疑問があるので,必ずしも納得はしないのだが,たしかに科学的には正しい説明であった。もっとも,「子どもは組換え体なんです」という言明など,戦略的でありすぎるように思ったが(レトロウイルスによる形質導入があるにしてもそれは無作為なので,ヒトの意図という点で見れば,子どもを産むという営為は伝統的な交雑育種と対応するというのが素直な認知だし,そうであるなら,そもそもヒトの認知を問題にしている以上,「種はない」という科学的な正しさを言っても,新しい技術の社会による受容には意味をもたないように思うのだ)。蔦谷さんは米国やEUの長期的農業戦略という立場からの説明で,それに対して日本の戦略は遅れているというのはもっともだと思った。白幡さんは,林学の出身とのことだが,議論の建て方が直観的なのが宮田さんと対極にあって面白かった。「もっともらしいキーワードを並べ立てるほどうさんくさくなる」という名言が印象に残っているが,こういうふうに考える人が多い社会に対しては,データで説得するというやり方がそもそも無理なのではなかろうか?
- 自分の発表内容の概要はこちらに載せておくが,相変わらず発表が下手なので時間を超過してしまったことが悔やまれる。いずれこのシンポジウムの記録は出版されるらしいので,詳しくはそちらをご覧いただきたい。会場にいたすべての人の感想を聞ければ面白いのだけれど。
- 昨夜は会場だった愛知厚生年金会館に泊まって,朝一番のひかりで東京に来ようと思ったのだが,チェックアウトが6:00からということで,朝2番になってしまった。名古屋駅で天むすとほうじ茶を買い,車内で食べたが,天むすが美味であった。研究室には9:30頃到着。
- 今日は15:00から学位記伝達式に出て(といっても前で座っているだけだけど),18:30から池袋で謝恩会に出る予定。
- 学位記伝達式はほぼ全員出席で,女性は8割方着物か袴であった。一生に一度のイベントだから,気合いが入っているのだろうな。学部長の祝辞は慎重な言い方で健康科学・看護学科をパラメディカルとしてみたものだったので,学科長の祝辞はそれに対抗する意味でか,看護というか,ケアの視点を強調したものだった。健康とは何ですか?
- 戻ってきてメールを見たら,昨日のシンポジウムの参加者からのものがあって嬉しかった。
- 謝恩会は楽しかった。料理も美味だったし。ありがとう>卒業生諸氏
- 21:30上野発あさま535号に乗り,23:20長野発須坂行きの長野電鉄終電で帰宅。
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