枕草子 (My Favorite Things)
【第391回】 休日散歩の翌朝,指の痛みをこらえつつ縄文農耕を思う(2000年9月25日;26日ちょっと追記)
- 秋分の日の土曜日は雨降りだったので,一日中家でたらたらと過ごした。オリンピック中継を見て落胆したり。日曜日は朝から女子マラソンの高橋尚子選手を応援しつつテレビ観戦をしていたら,予想通りオリンピック新記録で金メダルをとったのには興奮した。あの凄い集中力は質の高い練習が生み出した自信からくるのだろう。サングラスを投げたとき,知り合いがいたので拾ってもらおうと思ったという談話からすると,周りが見えていたということだが(ゴールした後監督から貰っていたから,ちゃんとその知り合いが受け取ったのだろう),その冷静さも自信がもたらしたものだと思う。このマラソンでは,山口衛里選手が,15 kmあたりで水を取り損ねた高橋選手に水を手渡してあげ,高橋選手はそれをさらに市橋選手に回したという話も印象に残った。確かに日本女子マラソン史上最強メンバーだったのではないか。
- その後は,小雨にもかかわらず子どもたちは外へ友達と遊びに行ってしまったので暇になってしまい,昼過ぎまではvaio505rxを取り出し,久々にMission Hill EstateのDarjeeling SFTGFOP I(とはいっても去年の茶葉だが)を淹れ,ゴマかりんとうをぼりぼりとつまみつつ,論文を書いた。
- 午後は晴れてきたので,身体を動かさないのは勿体ないような気になり(東京に住んでいた頃はなかったことだが,外の空気が呼ぶような気がするのだ),雨上がりの澄んだ空気を吸いながら娘と辰巳公園(巽公園という表示もあるので,どちらが正式なのかはわからない)まで散歩した。ここは公園といっても辰巳池の周りに申し訳ばかりの緑地と水鳥観察小屋があるだけなのだが,岸近くにはカモの仲間が群れて泳いでおり,遠くの小島の辺りには一群のサギの類が羽を休めていて,のんびりするには良い場所である。娘がカモに近づきたがるので岸辺まで行くのだが,ほとんど逃げようともしないから,ここを訪れる人はマナーが良いのだろう。暫くすると大きなタッパウェアに一杯に詰めた何か薄灰色のものを桟橋の上に開けたおじさんがいた。カモたちは競ってこの薄灰色のものを啄むのだが,遠目では何なのかちとわからない。娘がおじさんに「鳥さんに何あげたの〜?」と聞くと,「おそばだよ。鳥さんおそば好きなんだよ」という返事だったので,近寄ってみると確かにそばの塊であった。さすがにそばどころだなあと感心する。しばらく眺めてから,娘に「帰ろうか」というと,もっと遊びたいという。運動遊具のある公園に行きたいというので,じゃあ長野運動公園という大きな公園があるから行ってみようかと足を伸ばしたが,長野運動公園はだだっ広い陸上競技場や野球場,体育館,アクアウィングという水泳競技場はあるのだが,子どもが遊ぶような運動遊具はないのだ。アクアウィングと体育館の間に徒渉を楽しめる池があって,夏の昼間なら水遊びに良さそうだったが,もはや風が冷たいので触ろうという気にさえならない。何かないだろうかと散策すると,野球場を挟んでアクアウィングの反対側に小さな神社があって,古ぼけた滑り台,ブランコと鉄棒があり,娘としてはそこで遊べたので満足したようだったのでほっとしたのも束の間,疲れた娘が眠ってしまったので,娘を抱いて約1時間とぼとぼ歩いて腕が痛くなった。夜,息子が家の中でキャッチボールをしたがるのでつきあっていたら,高い球を飛び上がって捕った拍子に指を天井に強く打ち付けてしまい,大変痛いのである。その後,子どもたちと風呂に入っていたら,プロ野球セリーグの優勝が決まったとかいって妻がはしゃぐ声が聞こえてきた。まあギャラードが打たれたのでは仕方が無いが,それにしても本当にシーズン当初誰かが言っていたようにミレニアムON対決の日本シリーズになってしまうとしたら,出来レースみたいで厭なので,同じOでも大島監督率いる日本ハムに頑張って欲しいと思うのはぼくだけだろうか?
- それらが原因とも思わないが寝坊。目が覚めたら6:45だった。急いで洗い物をしてカボチャと油揚げで味噌汁を作り,冷凍しておいた刻みネギを散らす。炊き立ての白いご飯と一緒に食べると,実にうまいのである。7:40に家を出たので,当然あさま2号には乗れず,あさま504号に乗っている。佐藤洋一郎「縄文農耕の世界 DNA分析で何がわかったか」(PHP新書)を読了。三内丸山遺跡で出土した栗から抽出したDNAと,現在青森や北海道南部に自生している栗のDNAで遺伝子の多様性を比較して,三内丸山の多様性が低いから縄文時代に栗は栽培されていた(選択的植え付けをされていた)のではないかと推論する前半も,農耕と自然の関係をいろいろと生態学的に考察する後半も面白いが,編集者が3人も関わったせいかどうかしらないがその前後のつながりが弱く,かつ栽培化そのものに関する考察は薄いのがやや残念である。ヒトの研究者ではないから,松井健「セミ・ドメスティケーション」(海鳴社)ほどのダイナミックさはもとより求めるべくもないが,それなら後半のような展開よりも,前半をもっと厚くして欲しかったと思う。縄文の栗には系譜上2種類あったかもしれないと推論した後,p.80で「将来のDNA分析の結果を待ちたい」と書かれてしまうとちょっと脱力するのである。どうせなら,そのDNA分析が終わってから,前半だけの論旨で1冊の本にまとめた方が良かったのではないだろうか? 後半は後半で生態学の思想をわかりやすく書いた本として,高校の生物学で生態学を教えるときの参考書として推薦したいくらいの内容だが,タイトルからは離れてしまっているように思った。むしろ,例えば松井健さんとの対談にして,佐藤さんの発言に対して松井さんがつっこむという形にしたら,すごく面白い本になりそうだと思うのだが,誰か企画しないだろうか? それでも,前半部分で,三内丸山の栗が1本の木から採られた実だから多様度が低い可能性があるという批判に答えて,栗は他殖性だから1本の木でも繁殖集団全部を見ても多様性には差がない筈だと反論し,現在自生している栗の木から1本に生った実を集めてDNA分析をして,それを実証したくだりなど,大変エキサイティングで面白かったから,読んで損はない本だと思う。
- 今日はミーティング中,何度もネットワーク工事の打ち合わせが入ったので,発表の中身が今ひとつわからなかった。それにしても壁のソケットが100Baseを通さないなんてひどい話は聞いてなかったぞ。まあ,ケーブルさえ使えれば比較的短時間の停止で済みそうだが,近日中に人類生態学教室のネットワークがunreachableになったら,そういうことだと思われたい。最悪でも1日あれば復旧するはず。帰りは21:30発あさま535号に間に合うかどうか。
- 結局最終のあさま537号になってしまった。例によって月曜日は空いていて,上野から座れた。DIMEの最新号に載っている山根一眞氏の新築住宅が面白い。小島貞男さんのハニカム浄水槽を知らないらしいのは勿体ないことだが,井戸とPP製貯水ブロックはすばらしい。後は古代稲を使った酒の記事とSONYの新しい携帯電話機と無糖飲料カタログに目を惹かれた。メモリースティックをつけてMP3プレイヤーとしても使える折り畳み式携帯電話,まあ出そうなものではあったけれど,時計につけるより向いてると思う。個人的にはメモリースティックよりコンパクトフラッシュの方が好きなんだが,SONYはメモリースティックを本気で情報家電の共通デバイスとして使おうと思っているらしい。この携帯電話,非接触式の充電クレードルでもつければパームみたいな携帯情報端末とも共用できて便利だろう,などと考えると,将来はCLIEと合体するんではないだろうか? その時はVAIOデザインになるんだろうなあ。とすればそれまでは待ちか。ああ,物欲。ぼくも駄目だなあ。
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