枕草子 (My Favorite Things)
【第422回】 サテライトシンポジウム(2000年11月5日)
- 昨日は娘を保育園に迎えに行った足で久々に城山動物園へ行って来た。ふれあい動物園というコーナーでモルモットを抱くことに熱中している姿に娘の成長を感じた。帰りに大型スーパーで煮豚とほうれん草ともやしを買い,ラーメンを作ったら,息子がおかわりするほど好評だった。今日は妻が5:00に勤務先の短大に出かけてしまったので,こういうときいつも子どもたちをみていただいている妻の前任の教授だった方と8:30に交替するまで洗濯をしたり靴を洗ったり,息子の宿題の監督をしたり。往路は9:02発あさま508号。長野駅で衝動買いしてしまった,恩田陸「Puzzle」を30分足らずで読了。舞台設定は軍艦島(竹川大介によるこのページは迫力あるので,廃墟の雰囲気を味わいたい方は是非見られよ)を髣髴とさせる廃墟の島である。妙なコピーをもった3人がこの島の別々の場所で,ほぼ同時に,別々の死因で死んでいたというのが主な謎となる探偵小説である。伏線が見え見えなので,展開は冒頭から読めていたような気もするが,探偵役の検事が,ペダンティックかつ天然な雰囲気といい,謎解きの語り口の鮮やかさといい,いい味を出していて楽しめた。面白かったけれど,フォントが大きくて薄いので,1冊の本ではあるけれど中編くらいの長さと思う。無人島をテーマにした競作として,他には西澤保彦が書いたものもあるらしい。税込み400円なので妥当なような気はするし,長い本は読めないという人も多いようだから,祥伝社文庫のこのシリーズの戦略は当たりかもしれない。
- 安中榛名から,昨日届いていたメールをセーブしておいたものを見る。American Journal of Clinical Nutritionの最新号目次がTOCサービスで届いていたのをみると,面白そうな論文が多い。
- Do adaptive changes in metabolic rate favor weight regain in weight-reduced individuals? An examination of the set-point theory. Roland L Weinsier, Tim R Nagy, Gary R Hunter, Betty E Darnell, Donald D Hensrud, and Heidi L Weiss, Am J Clin Nutr 2000;72 1088-1094. (http://www.ajcn.org/cgi/content/abstract/72/5/1088)は,肥満のセットポイント説を検証しようという論文のようだ。
- Heavy coffee consumption and plasma homocysteine: a randomized controlled trial in healthy volunteers. Rob Urgert, Trinette van Vliet, Peter L Zock, and Martijn B Katan, Am J Clin Nutr 2000;72 1107-1110. (http://www.ajcn.org/cgi/content/abstract/72/5/1107)は,コーヒーの大量消費と血漿ホモシスチンの関係をみた実験。健康なボランティアによっている。
- Editorialの,Human milk, fatty acids, and the immune response: a new glimpse. Michael P Sherman, Am J Clin Nutr 2000;72 1071-1072. (http://www.ajcn.org/cgi/content/full/72/5/1071)はヒトの母乳と脂肪酸と免疫反応というタイトルに興味を引かれるのだが,どの論文に触れたEditorialなのか,本文を読んでみないとわからない。
- 肥満と過体重の基準値についてのSpecial Article,Criteria for definition of overweight in transition: background and recommendations for the United States. Robert J Kuczmarski and Katherine M Flegal, Am J Clin Nutr 2000;72 1074-1081. (http://www.ajcn.org/cgi/content/abstract/72/5/1074)も読んでみなければならないだろう。
- アクセスログを見たら,今日のサテライトシンポジウム要旨のpdfファイルへのアクセスが凄い数だ。これは来場者数も期待できるのではないかなあ。
- 人口学研究に新刊短評を書くという目的もあって,若林敬子「東京湾の環境問題史」という分厚い本を持ち歩いているのだが,なかなか読了しない。そろそろ締め切り(短評の)が近づいてきたので,今日から気合いを入れて読もうと思うが,まあサテライトシンポジウムが終わってからだな。
- シンポジウム前にちょっとメールを見たら,AlphaマシンにTru64をインストールできないのは,やはりSCSIカードの問題らしいと教えてくれた人がいた。ありがたい情報である。明日にでも純正サポート品を注文してみようと思う。
- サテライトシンポジウムは数百人の入り(記録によると310人だったとのこと)。ディスカッションは前の方に座った熱心な2人の方に集中した(というか,他の方が挙手されなかった)こともあって,やや盛り上がりに欠けたけれど,それなりに面白かったのではないだろうか。オーガナイザの一員としては自分で発言するわけにもいかなかったので,ここで簡単に感想を書いておく。小山さんは発表も質疑応答もいつもの調子だった。五十嵐さんは,方法論の説明は丁寧で,何をやった研究なのかということは一般の方にもわかったのではないかと思う。その点に関しては他の誰よりも良かった。が,考察の部分は,良く言えば大胆,悪く言えば乱暴な論理展開で,フロアからの指摘通り,発掘された残存している試料だけで生存率曲線をいうのはまずいだろうというのは,大方の意見の一致するところだった(発掘といえば宮城と北海道の石器ねつ造事件が騒がれているが,考古学でのデータねつ造はピルトダウン原人事件など昔から多々あることだ。科学的知見の経験的価値は反証可能性にあるわけで,追試できないことには経験的価値はゼロと言って良いが,遺跡の場合は,まったく無関係な研究グループが勝手に追試に入ることはできないために,曖昧さが残るのだろうか。もっとも,遺物自体の年代測定をC14などでやったらばれるだろうに,とも思うが)。ぼくが聞いてみたいと思ったのは,仮に発掘されない割合がどの遺跡でも同じくらいだったと仮定できて,五十嵐さんのいう,北方や東方は比較的多産多子,西南方は少産少子という考察が正しかったとしても,死亡の地理的勾配の原因として感染症の多寡をあげるのには飛躍があるのではないかということ。なるほど,インフルエンザなんかは冬に流行することから寒冷地の方が流行りそうだが,下痢なんかは暖かいところの方がリスクが高そうである。地理的勾配があるとしたら,むしろ寒冷な気候によって食物生産量が少なく低栄養のリスクがいつもあったという方が尤もらしいのではないだろうか。その意味で,鈴木さんには是非,骨からわかる古病理プロファイルに地域差はあったのかという点を聞いてみたかった。鬼頭さんの歴史人口学の説明と4つの波というポイントはわかりやすかったと思うが,現在と同じ停滞期として参考になるという理由で江戸期を取り上げるとするならば,今後再び文明の大変革が起こって(何十年か前のユートピアSFでは宇宙進出とか)人口成長が始まるというような印象を与える話になっていた。それはそれで面白いのだが,最後の金子さんが強調された,到達点としての少子高齢社会というパースペクティヴとは矛盾するだろう。金子さんのいう「到達点」は,つまり,誰もが健康で長生きする豊かな暮らしを求めたら,少子高齢社会は必然的帰結だということで,資源が有限だという条件の下で個人を単位として考える限りにおいては論理的に正しいと思う。あまりメディアなどでは流れない見解で,ちゃんと聞いていれば目から鱗という人は何人もいると思うのだが,果たしてそれが伝わったかどうかは謎だ。発表の焦点の絞り方がいまひとつだったかもしれない。
- 終了後,教授が金子さんを集会室にひっぱってきて,人口学会の東日本部会を開催するための打ち合わせ。いまのところ1月開催が有力だが,さてどうなることか。
- 帰り道,上野駅で時間が余ったので,久々にフローラ上野ブックガーデンに寄った。最近はヨドバシカメラ前に自転車を停めることが多く,ブックガーデンの方は通らないでいたのだ。気が付いてみたら「9冊ですね」と言われ1万円札を出している自分がいた。なんてこったい。
- 20:14発あさま569号に乗って,9冊中の1冊,武森斎市「ラクトバチルス・メデューサ」(ハルキ文庫)を読み始めたら止まらなくなり,家に着いても読み続けてしまい,23:50読了。面白かった。オビで大森望絶賛バカSF発想とあったから,「BH85」みたいな話かと思ったら,案に相違してきわめて上質の医学サスペンスだった。遺伝子工学で作られた「ラクトバチルス・メデューサ」による遺伝子拡散という着想そのものは似ていなくもないが,こちらはメカニズムもかなり詰めて考えられているので生物系のハードSFとしても高く評価できるし(ProNASのナノバクテリアの論文は,ぼくもかつて読んで衝撃を受けたのだが,あのネタをこういう風に料理されるとは凄いと思う。冠動脈にまで行ってしまう感染経路とかベクター・ファージのメカニズムとかの詰めには甘さもあるが),今の衛生行政と薬事行政のいい加減さと危機対策の危うさを強く訴える点,篠田節子の「夏の災厄」にも感じられた的確な現状批判となっており,著者自身が医師であるだけに強い力を感じた。さらにさらに,沖坂医師の視点に填って読んでみると,青春冒険小説としても優れている。ところどころドキっとする発言が出てきて,研究室の臨場感についても優れていると思う。骨粗鬆症予防にカルシウムという短絡的な臨床栄養学への批判を読みとるのは深読みしすぎか。基準値と母集団の意味をわかっていそうな著者ではある。今年読んだSFの中では最高傑作といってよい。まあ,そんなに何冊も読んだわけではないけどね。
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