枕草子 (My Favorite Things)
【第482回】 報道責任(2001年2月2日)
- 往路あさま506号。深夜降っていた雪もすっかりあがっていて,空気もそれほど冷たくないので,今日は自転車を漕ぐのが楽だった。ミーティングの準備で論文を読みながら,人口学のレポート課題をつらつら考えている。
- ミーティングともレポートとも関係ないが,今日は報道責任について書きたい。今朝,NHKのニュースを見ていたら,立ちくらみで線路に落ちた妊婦をとっさに飛び下りて助けた人へのヒーローインタビューと,線路に落ちた大学受験生を線路に下りて助けたという話があった。どちらについても,「わが身を省みずに」という点を強調して美談風に紹介されていた。どうも,先日の酔っぱらいを助けに飛び込んで3人とも亡くなってしまった事件以来,マスコミは一貫して救助に入った人の勇気を讃える報道しかしていないような気がするが,これはまずいのではないか?
- 誤解を恐れずいえば,わが身を省みないのは無責任である。災害救助の基本は,まず第一に二次災害を起こさないことである。このままでは二次災害を起こす人が必ず出てくるだろう。マスコミがまずやるべきことは,鉄道各社や警察に取材して,転落現場に遭遇した場合に推奨されるべき行動の指針を出してもらうことだと思う。彼らは,間違っても,わが身を省みずに飛び込めなんて言わない筈である。どうすれば安全確保した上で救助につながる行動ができるのかという知識を広めてこそ,マスコミの報道責任が果たせるのではないかと思う。大声で駅員に知らせるとか,非常用停止信号を押すとか,二次災害を避ける方法はいくらでもあると思うのだ。
- その上で,なぜこうも転落事故が起こるのか,という方向へ世論を沸かせることができれば,マスコミならではの役割が果たせるように思う。例えば,人間工学的に考えて事故が起こりにくいプラットホームの構造を広めるとか(営団南北線や都営三田線のように,決して線路面がオープンにならない仕組みは既に存在する),線路に異物があったら赤外線かなにかで感知して自動的に止まるとか(新幹線はそれに類した仕組みがあったと思う),足腰が立たないほど酔っ払ったら交通事故のハイリスク者として介添え人なしで戸外に出てはいけないとか(道路交通法の改訂で行けそうな気がする),フェイルセーフなシステム作りを進めることこそが,転落事故を減らすことにつながって建設的だろう。
- 思いやりや勇気が大切なのは当然だけれど,右へ倣えでそれ一辺倒の報道しかしないのではプロフェッショナルな人間の仕事とは思えない。tit-for-tatのロボットでもできる仕事と言われたくなかったら,改善を望みたい>マスコミ各位。
- 研究室ではミーティング準備をしながらも,来週には投稿しようかという共著論文についてのディスカッションとか,ソロモン諸島調査の打ち合わせだとか,調査用具の注文とか,いくつか別の用事もこなしながらなので,おそらく今日中には終わらないだろう。
- やっぱり終わらないままに,終電で帰宅することになった。Ecological Economicsの論文は,フロリダの森林保護区で仮想評価法をやったとか,世界市場は木材需要を途上国に発信しているが環境保護需要を発信していないから熱帯雨林が伐採されるのだという仮定のもとにオーストラリアの住民相手に,パプアニューギニアやバヌアツの森林を守るためにいくら出すかというアンケートをとって,伐採による木材の売り上げとの比較からバヌアツは守れると論じた研究(流し読みなので不正確かもしれないが大意こんな感じ)とか,それなりに面白いのだが,現地の住民の立場にたった研究が少ない(ないわけではない)ことに気づいた。今回はソロモン諸島調査が含まれる未来開拓研究大塚プロジェクトの方法論を考える上で参考になりそうな,地域住民の生活と開発の関係についての新しい研究を紹介したかったので,別の雑誌も探してみることにした。すると,Environmental Conservationとか,Environmental Managementとかいった雑誌に,いくつか地域住民の生活ベースの研究が載っていることがわかった。10年以上前にHuman EcologyにTrans-Amazon Highwayの影響評価の論文を書いていたFearnside PMが,この2つの雑誌でそのフォローアップに当たる研究をたくさん報告していることがわかったが,これを月曜までに全部読んで1時間にまとめて発表するのは不可能と思われ,断念した。現在のところ,Sunderlin WDらがEnvironmental Conservationのvol. 27: 284-290に発表した,カメルーンでの経済危機が小規模農業と森林被覆の変化にもたらした影響についての論文を紹介しようと思っているが,論文検索中に見つけた去年の3月のActa Tropicaの,ソロモン諸島マライタ島での蚊帳使用など行動要因と社会経済因子がマラリア感染に与えた影響を評価する論文に逃げようかという気もしている。このActa Tropicaの論文は,An. farautiの行動特性に触れていながら,蚊帳の効果が出ない原因としてそれを論じていない(ように思われた,流し読みしたところ)のが納得行かないので,あんまり紹介したくないのだが,読むのは楽なのだ。これは逃げ道にとっておこう。たぶん,日曜日の夜に研究室へ行って徹夜をする羽目になりそうだ。
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