「最初は偶然,お客として来たのよ」
由里子さんは,僕が運んでいったブレンドを一口飲んだ。
「三年ほど前だったかな。そしたらなんと,奇跡みたいにおいしいコーヒーじゃない? それで,いれてる人に訊いたの。『豆はどこから仕入れてるんですか』って」
「嘘をつけ」と,マスターが口をはさんだ。「君はいきなり言ったんだ。『これよりもっとおいしい豆を仕入れる気はありませんか』ってな」
(中略)
「私ね,ついこの間まで,小さい貿易会社に勤めてたの。コーヒー豆や紅茶や,ジャムやチョコレートやお砂糖や……とにかく原料とか素材にきちんとこだわって作られた,本当にいいものだけを扱う会社。ねえ,ちょっと自慢してもいい? 今このお店に卸しているコーヒー豆も紅茶の葉も,最初は私がケニアで見つけてきたのよ」