枕草子 (My Favorite Things)
【第597回】 連休明けの混雑+COP6最終合意に思う(2001年7月23日)
- 往路あさま502号。経験的に,連休明けの朝は混んでいることは知っているが,今日はまた一段と混んでいるような気がする。購入後3ヶ月の無料点検をしようと思って,先週末に持ち帰ったが,結局時間がなくて自転車屋にもっていけなかった(昨夕がチャンスだったのだが,カレーを作っている最中に大雨が降ってきて断念した),DahonのEspressoを,2号車最後尾の3人掛け席の裏側に置いているのだが,通路にまで人が溢れ返っている現状をみると,ちょっと気が咎める。上野で降りるときも他人に引っ掛けないかと不安だったが,何とか無事に降りられて良かった。
- 向山,宮山「童話物語」の下巻を読了した。まさに「はなはなみんみ」みたいな話だったというと,単純化しすぎだろうか。巽孝之がつけたらしい「ハイ・ファンタジー」というキャッチフレーズも,いま一つ意味不明だと思うが,それが何となくしっくりくるような内容の話ではあった。
- 研究室に着いてメールを見ると,来年の人口学会で「生物人口学の新展開」というテーマセッションが開かれると決まったことがわかった。趣旨文を書かねばならないのだが,応募してくる人がどれくらいいるかどうかがちょっと不安だ。本当は生殖医療の先端の人にも発表して欲しい(というか,その話をぼくが聞きたい)のだが,人口学会にはいないような気がするから,招待講演みたいなことができるかどうかも考えねばならないと思う。
- 朝,テレビ番組制作会社の人から,慌てているらしい電話があった。なんでも,ハマダラカの写真を探しているのだそうだ。「パプアニューギニアで自分の血を吸っているヤツを撮ったのはあるけど,汚いですよ。WEBとかにあるんじゃないんですか」といったら,紙焼きしたクォリティのものが欲しいという返事だったので,じゃあ本を貸しましょうという話になった(KnellのMalariaも絶版だし,パプアニューギニアの小学校の教科書は日本では買えないので)。本当は長崎大の熱帯医学研究所の高木さんとか鈴木博さんに頼めば,絶対に美しい写真が手に入るだろうし,場合によっては現物だってあるかもしれないと思うが,時間が無いらしく,それは無理なようだった。30分ほどするとバイク便がやってきて,2冊の本を運んでいった。どういう使われ方をするのか知らないが,いつ放送されるのかくらいは教えて欲しいものである。それにしても,ハマダラカがAnophelesという属名で,種にはアフリカに多いgambieとかパプアニューギニアに多いpuncturatusとかソロモン諸島に多いfarautiとか日本だったらsinensis(シナハマダラカ)とか沖縄にはminimus(コガタハマダラカ)とか数十種あることも知らないような状態で番組制作をしなくてはならないとは,気の毒だと思う。
- ボンで行われているCOP6, PART 2(昨年ハーグで行われたCOP6の続き)は雲行きが怪しかったのだが,日本時間でいえば今日の夕方になってやっと最終合意(cf. プロンク議長によるブエノスアイレス行動計画の実施についての要点)に至りそうで,まずはめでたい。
- RealPlayerによる最終本会議のライブ映像を見ていると,中国代表などの発言が英語に同時通訳されて流れたのも凄いと思ったが,それに続いて川口順子環境相がかなりいい発音で英語でコメントするのを聞いて,こういう舞台では英語をしゃべれることは対等の土俵に立つという意味で必要だなあと感じた。合意内容としては,森林吸収をかなり大きく認めたという点で日本やカナダの主張に対して大幅な譲歩がされており,どの程度実効があるのかに疑問は残るが,米国が強硬に反対したために紙くずになりそうだった京都議定書が,ぎりぎりのところで発効する目処がたったことには価値がある。こういう形で合意に達した以上,日本が京都議定書の批准を渋るのは不合理だし,国際社会に対して信頼を失うことになると思うので,一刻も早く正式に批准を表明して欲しい。
- そうは言っても,米国だけが批准しないという状態になったら,経済のグローバル化の下での市場競争力という観点からは,環境維持コストをかけない米国が最も有利になるわけで,そういう状態を好ましいと思わない勢力が各国に存在することは想像に難くない。最近,青空MLで議論されているように,その辺りが京都議定書を日本が批准しない大きな原因だとすると,安定平衡点を見出せない囚人のジレンマ状態に陥りがちな国際政治力学と,協力ゲームにすることが必須と思われる環境問題解決が,本質的に起こしがちなコンフリクトの典型例であるように思われる。もしそうなら,財界や産業界をうまく説得できないと,その辺りを支持基盤としている政府にとって,京都議定書の批准は大きな賭けとなる可能性が高いから,簡単に批准するとは言明しない可能性もある。
- もちろん,かつてCVCCエンジンの開発によってホンダが排ガス基準をクリアし,同時に燃焼効率も高めエンジンとしての能力も高めたという事例があるように,経済的効率化と二酸化炭素排出削減が両立すれば,誰もが合意するわけで,問題は少ない。
- しかし,現在の技術水準ではその両立はかなり難しいようだから,削減目標を達成するには,自家用車使用を抑制するとか,風があるときはクーラーの使用を控えるとかいった不便があってもいいといった,国民レベルの合意が必要になってくるはずで,そこで問題が出てくる。つまり,二酸化炭素排出削減の必要性は,被害を事前に防ぐことを目的にしているので,効果が出るのに時間がかかるし,しかもその効果が目に見えないから,不便と天秤に掛けてもやるべきだということを国民に納得させるのは至難の業と思われる。現在,この会議に対する世間一般の関心や議論がそれほど盛り上がっていないことを考えても,長期的予測に基づいて災害を未然に防ぐという視点を自分のものとしてもっている人がそれほど多くないことは間違いないだろう。
- そう考えてくると,まだあまり明るい未来が開けたとはいえないような気がする。個人的には削減目標を達成するための多少の不便は我慢してもいいと思うが,上述の通り万人を説得できるだけの根拠はないと思うので,問題点が一つずつ粘り強くクリアされていくことを願うのみである。
- 帰りは終電1本前。川端裕人「ペンギン、日本人と出会う」を読み始めた。例によって丹念な取材に裏付けられた読みやすい記述で,ぐいぐい引き込まれた。が,結構自分が元気であることに気づいたので,仕事をすることにして,軽井沢あたりから生態学講義の前期最終回のフォロー作りをした。終わらなかったが,かなり進んだので,久々に使えたという実感のある新幹線通勤タイムであった。
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