枕草子 (My Favorite Things)
【第628回】 R.P.G.(2001年8月23日)
- 昨日の復路では,杉本賢司『「千年住宅」を建てる』(ベスト新書)を読み進めた。池内了「わが家の新築奮闘記」(晶文社)の射程がヒトのライフスパン程度の時間だったのに対して,この本は文明としての建築の時間を射程としている。千年持続学が提唱する,千年持続する技術は適応的だという考え方を,建築物として具現化するためのアイディア満載である。温故知新というか,これまで世界で長く残ってきている建築物にはどういうものがあって,それがどういう技術に支えられてきたのか,というレビューとしての側面もあり,それがまた面白い。
- 昨日書いたように長野駅から家まで歩かねばならなかったのだが,途中飲み物を買おうと入ったコンビニで,宮部みゆきの文庫書き下ろし「R.P.G.」(集英社文庫)を見つけたのが運の尽きで,暗い夜道を歩きながら読み進め,家に着いてスイカを頬張りながらも読み進め,読了してしまった。それくらい面白かったということだ。清水義範の解説が優れているので,まずは本屋でそれを立ち読みしてもらえばいいのだが,表題が二重の意味でうまいという点には同感だ。著者自身は,あとがきでミステリとしては反則をやったと言っているが,これくらいの仕掛けはアリだと思う(クリスティも似たようなことをやってるし)。それよりも,前半の事件記述部分がちょっとこなれていない感じがしたのが気になった。
- 今日の往路は,寝坊したので,あさま510号。にもかかわらず,長野駅のKioskで目に付いた,西澤保彦「瞬間移動死体」(講談社文庫)を衝動買いしてしまい,読破したのは逃避行動だろうか。相変わらずSFとミステリの融合というか,現実にはない仮定を置いた上で厳密なロジックを推し進めるという,唯一無二の道を驀進している西澤保彦ならではの作品と感じた。面白かった。
- 今日は論文書きを進めた。進捗度はまあまあ。夕方,誕生祝ということで,大変美味なアイスクリームをいただいた。ありがたいことだ。後やったことは,半端な時間に書評掲示板に何冊か追加したことくらいか。
- 偶然見つけた役に立つサイト。国土地理院の地形図閲覧システム(試験公開)。モノクロではあるが,全国各地の2万5千分の1地形図がオンラインで無料で入手できるなんて,いい世の中になったものだ。
- 帰りは終電1本前にしようと思っていて,予定通りそうした。大宮まで空席がなくて,立ったまま『「千年住宅」を建てる』を読了した。プリオン病対策として他種のプリオンを過剰投与することで拮抗阻害のように発病を防ぐことが可能かもしれない,というシミュレーションの論文を読もうと思いながら大宮で座ったのだが,ちと予定が変わった。隣にほろ酔い加減のおっちゃんがいて,「痛みを伴う改革」について,中小企業潰しになるから大勢の労働者が経営上の都合で路頭に迷うといった話をしてくれたのだ。知識として知ってはいるのだが,想像以上に経営者への合理化圧力は強いようである。合理化=経済的最適化=労働生産性の向上という誤解が諸悪の根源だと思うが,さすがにそういうリアクションは返せなかった。ぼくもまだ弱いなあ。
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