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「藤かおり」は印雑一三一号にやぶきたを交配した新品種だ。ほう芽期はやや早生,摘採期は中生。香気,滋味ともに既存の煎茶には見られない個性的な品種である。印雑一三一号は昭和三十年代,当時静岡県茶業試験場長だった有馬利治さんの研究によって育成された。母親がインド・アッサム地方のマニプリ一五という品種であることははっきりしているが,父親がどういう品種か,わからないという。この前後のことは先にもふれている。
私は印雑一三一号のストレート茶を喫したことがある。有馬さんが「蘭竜」と命名しただけあって強烈な蘭香が口中にズシリと残る。釜炒り茶用が本来だから,ほとんど紅茶と見紛うばかりの水色である。蘭香を添加したわけではない。独特な日乾萎凋によって茶自身にふくまれる香りが吹き出るのだ。のみつけたら止められないお茶だという。ごく普通の日本茶の概念からいうと,これはちょっと恐ろしげな鬼子のようなお茶だ。
この印雑一三一号とやぶきたの子供が「藤かおり」だ。私はその成立ちの系譜を聞いた時,印雑一三一号の強烈な香気がやぶきたを圧倒しつくすのではないか,ととっさに思った。しかし,のんでみると,やぶきたもなかなかしたたかであることが分った。
いわゆる,やぶきた臭は完全に圧倒されてかき消えている。その代わり,やぶきたのもって生れたしぶとさが程よく全体にいきわたり,いかにも自然な香味を醸しだしている。
特にちょっと「気高い」と呼んでみたいような香気,これは恐らく「藤かおり」がもつ品種の特性に加えて,摘採後の適度な萎凋,釜炒りという小柳さんのたゆまぬ工夫に負うているだろうと私は思った。
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