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生態学第13回
「人類生態学入門」(2001年7月12日)
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最終更新:
2001年10月14日 日曜日 23時53分
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講義概要
- 人類生態学のスコープ
- ・ヒト個体群に注目する。
- ・先週は人間化された生態系ということで,ヒトを含む生態系において,ヒトから物理化学的環境へ,あるいは生物への影響を考えたが,人類生態学では,その逆向きの作用(地域生態系の中での,物理化学的環境や生物からのヒトへの影響)も考える。そのために,ヒト個体群をターゲットとした研究を行う。
- ヒトの特性
- ・ヒトは環境を改変する能力がきわめて大きいので,分布域がもっとも広い生物となっている。
- ・ヒトがさまざまな物理化学的及び他の生物と相互作用するとき,それぞれ特有の言語と文化と社会組織を介している。
- ・それゆえ,ヒトがさまざまな物理化学的環境に生きるとき,他の生物と共進化を起こすパタンは,地域によって異なっている。
- 人類生態学の方法
- ・ヒト個体群(大抵の場合,1つの言語族)を含む地域生態系を対象にフィールドワークを行って,人口,文化,社会組織,行動,食事などを調べる(食物獲得のための活動にどれくらいのエネルギーを投入し,その見返りとしてどれくらいの摂取カロリーが得られるのか,そのバランスを調べることをinput-output analysisといい,人類生態学の基本的方法の1つである)
- ・同時に環境試料や生体試料(主として健康状態の評価のため)を採取し,持ち帰って実験室で分析する(必要ならメカニズムを明らかにするために動物実験も追加する)。ただし,「健康」には多くの水準があり,測定値だけで定義できるものではないことには,注意が必要である。
- ・それらの結果をもとに,そのヒトの集団の生存を,その地域生態系の特性と関連付けながら包括的に明らかにすることを目標とする。
- 研究の例
- ・パプアニューギニア低地に居住する,ギデラと呼ばれる人々の鉄栄養とマラリアと貧血の関係
- ・倹約遺伝子仮説(配布資料とビデオを参照)
フォロー
- 特定の物質のみに働く倹約遺伝子はある?
- パプアニューギニア高地の中には,一日のタンパク質摂取量が成人男性で45 g程度であるにもかかわらず激しく活動している人たちが住んでいる場所があります(日本人の栄養所要量は中等度の生活活動強度の成人男性で一日当たり70 g)。しかし彼らは筋肉質で元気に暮らしています。このことを説明するのに,空中窒素を固定する腸内細菌と共生しているとか,窒素の再利用効率が高い(尿素を再利用できるとかいった形の)遺伝的変異をもっているとかいった仮説が立てられています。もし後者が正しければ,タンパク質に特異的な倹約遺伝子といえるでしょう。
- ヒクイドリを食べた? ワラビーやヒクイドリの写真を見たい。
- フィールド調査では,村人から出されれば食べるのが当然です。ましてや,彼らにとってもご馳走なのですから,喜んで食べました。ブッシュワラビーの写真(下左)とヒクイドリの写真(下右)は,ギデラの村で撮ったものです。
- パプアニューギニアのような南国の人々はなぜイモをいっぱい食べる?
- 南国だからというわけではなく,南太平洋の根菜農耕文化圏だからという歴史的理由が大きいと思います。パプアニューギニア高地の気候と土壌がサツマイモの栽培に適していたという生態学的な理由も,もちろんあると思います。なお,パプアニューギニアでも,低地に住む人たちは,イモよりも,サゴヤシというヤシの幹につまっている澱粉を抽出して焼いたり団子にしたりしたものを主食として食べます。参考までに,サゴヤシからのデンプン抽出の仕方を下に図解しておきます。
- サゴヤシの木。湿地に半自生しています(ヒトは株分けをするが,その後は放っておくのです)。
- まず切り倒して樹皮を剥ぎます。
- このような道具で内部を叩いて細かいチップにします。
- こんなカゴにチップを溜めておきます。
- ココヤシで作った手作りの濾し器にチップをセットし,水を掛けながら絞ります。受け皿はバナナの皮です。
- 絞り込んでいる手元のアップです。相当力を込めて何度も絞ります。
- フィルターは絞っている部分の直下と,出口の部分の2ヶ所にセットされています。ココナツの繊維を編んで作るそうです。
- 濾しとれたサゴデンプンが沈殿した後,上澄みを捨てて,葉で巻いているところです。この形のまま直火で焼き,葉を剥ぎ取って香ばしい中身をガブッと食べるのがギデラと呼ばれる人々の伝統的な食べ方です。サゴデンプンと一緒に,サゴ甲虫の幼虫や,ココナツミルクを混ぜることもあります。パプアニューギニアでもセピック地方では,沸騰した湯にサゴデンプンを溶き入れ,粘りのある団子状にして食べるそうです。
- マラリアって貧血を起こすくらいで済む病気?
- マラリアは,ヒトに罹るものは4種類あって,そのうち最も重症になる熱帯熱マラリアの場合は,日本人が熱帯に行って罹った場合,まったく免疫がないので,1/4という高い死亡率になることが知られています。ギデラと呼ばれる人々は,子どもの頃から頻繁にマラリアに罹りながら成長するので,成人になってからはそれほど死にません。マラリアによって死亡に至るのは,原虫が赤血球を破裂させて血液中に漂いだすときに出る高熱のためか,マラリア原虫が脳の血管に詰まった状態になる脳性マラリアのためか,どちらかによる場合が多いのですが,そこまで重篤になる前の段階でも,赤血球を破裂させながら増えるという原虫の性質から,溶血性貧血を起こすのは普通です。
- 「環境試料」とは,具体的に何を指す?
- たとえば所沢で狭山茶の葉からダイオキシンが検出されましたが,あれは環境試料を環境中の毒物のモニタリングに利用した例になります。土壌の肥沃度は,その土地にどれくらいの作物が育つかを規定する大きな要因なので,人口支持力の大きな決定因子になります。その意味で,土壌サンプルという環境試料を分析することは役に立ちます。
- 過去の適応が現在の環境に対して過剰な反応を示している例が他にもある?
- 井上栄氏や藤田紘一郎氏がいうように,現代においてアレルギー疾患が増えているのが,寄生虫がいなくなってIgEが余っているからだとすれば,それほどまでに高いIgEレベルは,過去の寄生虫への適応として遺伝的に選択されてきた可能性があります。もしそうなら,これは過去の適応が現在の環境に対して過剰反応している例になるでしょう。
- 肥満の定義は?
- 肥満に書いたとおり,さまざまな定義がありますが,現在のところBMIで判定するのが簡便なために良く使われています。
- 太るということは遺伝なのか,環境が原因なのか? 倹約遺伝子と空腹との関係は?
- もちろん,遺伝と環境の両方が影響します。倹約遺伝子がβ3アドレナリンレセプターで,その役割が産熱を抑えるということならば,空腹になりにくいでしょう。
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