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生態学第14回
「魚種交替現象」(2001年9月20日)
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最終更新:
2001年10月14日 日曜日 23時53分
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講義概要
- 後期の講義構想
- ▼生態学の基礎はだいたい前期の講義でカバーしたと思うので,今回から,主として松田裕之「環境生態学序説」(共立出版)に出ている問題を取り上げ,実際に起こっている環境問題を生態学的に考えていく。
- 問題の所在
- ▼初回に取り上げるのは,「魚種交替」という現象である。日本近海の漁業で獲れる魚にはマイワシ,マサバ,カタクチイワシがあるが,これらの漁獲高は経時的に上下動し,1980年代には豊漁だったマイワシが,現在では少ししか獲れなくなり,代わってカタクチイワシが増えている。このように,主に獲れる魚の種類が替わる現象を魚種交替という。
- ▼参考:河井智康「イワシと逢えなくなる日」角川ソフィア文庫,税別629円,ISBN4-04-348902-1,2001年8月刊(Amazon)
- 日本の浮魚類の漁獲量変動
- ▼例えば,漁業白書掲載の図などを参照。
- 魚種交替のポイント
- ▼世界中普遍的に見られる
- ▼場所によってパタンは違う
- ▼マイワシの変動幅はとくに大きい
- ▼沿岸の個体群はそれほど変化しない(浮魚類は個体数が増えてくると沖合い(日本近海太平洋岸では黒潮域)で産卵し,生まれた仔魚が索餌域(日本近海太平洋岸では親潮域)にやってきてプランクトンを食べて成長する,というサイクルをもっているが,沿岸域では魚種ごとに異なる産卵場所で産卵し,餌も豊富なので年中その場所に根付いている)
- 想定される原因の分類
- ▼見かけの変動 漁獲なので漁法や漁具,漁業者の活動変化の影響を受ける
- ▼真の変動
- 環境決定論:エルニーニョなど
- 生態学的要因:種間競争と被食捕食関係の組み合わせ,種内競争〜自己振動モデル,プランクトン食害説,三すくみ説,安定戦略モデル,餌条件モデル
- 種間競争と被食捕食の組み合わせ
- ▼二種の種間競争だけでは,前期に説明した通り,安定共存か一方が他方を駆逐するかに帰着し,振幅しない
- 種内競争,自己振動モデル
- ▼密度依存成長?
- ▼密度とは独立?
- ▼両者の交替?
- プランクトン食害説(河井)
- ▼魚食性プランクトンが大発生して,そのとき主な魚種となっている魚の幼魚を食べてしまうことが魚種交替の引き金になるという点がポイント。
- 三すくみ説(松田)
- ▼3種間の種間競争としてロトカ=ヴォルテラの競争方程式を拡張する。常に微小量の聖域(他種の影響を受けない繁殖場所)からの供給(c)があるとする。
- N1(t+1)=c1+exp[r1(t)-a11N1-a12N2-a13N3]N1(t)
- N2(t+1)=c2+exp[r2(t)-a21N1-a22N2-a23N3]N2(t)
- N3(t+1)=c3+exp[r3(t)-a31N1-a32N2-a33N3]N3(t)
- ▼上記モデルは,三すくみ説のExcelワークシート(但しrに偶然変動がない場合)を使って試すことができる。ただし,上の式ではr(t)として内的自然増加率が経時的に変動することを考慮し,松田「環境生態学序説」の図では偶然変動が考慮されているが,このワークシートは簡単のためrが魚種ごとに固定されているものとした。数値計算すると下記のような結果が得られる。
-
- ▼なお,このRのソースコードをR(オープンソースでプログラムもできる統計ソフト)から呼び出せば,増加率の偶然変動も松田のモデルの通りに考慮したシミュレーションができる。Rでプロットをうまくoverlay(重ね書き)することができなかったので,上下に3つ並べたグラフが書けるようになっている。実行させるたびに乱数の違いでパタンは変わるが,必ずピークをずらして振動するグラフになっていることに注意されたい。
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- 魚食性プランクトンってどんな生物?
- ▼プランクトンとは,自力で泳がずに水中を漂っているという生活型をもつ生物を指すので,特定の種を示すものではありません。魚食性プランクトンとは,クラゲやヤムシのように,稚魚を主な餌とする動物プランクトンをいいます。(参考サイト:国立科学博物館のヤムシ,和歌山県水産試験場の「水試だより」第203号「海洋の食物連鎖と植物プランクトン」)
- 魚種交替のようなことは他の生物にもある?
- ▼似たような現象は他の生物でもあると思いますが,これほど人間の生活に密接な関わりをもった個体数変動を長期間示してきたものはないと思います。
- 交替の主役となる魚種で,仔魚の死亡率の低い年ができる理由は?
- ▼はっきりした答えはわかっていません。海流の変化で餌となるプランクトンの供給が増えるからという説もあれば(稚魚の死亡が餌不足によると仮定した場合),たまたまその種に好適な環境であったという説もあれば,ヤムシやクラゲなど魚食性プランクトンが少なかったからという説もあります。
- 沖の方で魚種交替が起こらないのはなぜ?
- ▼理由はわかっていません。しかし,魚種交替を起こすマイワシ,マサバ,カタクチイワシ,マアジ,サンマといった浮魚のような,多量に産卵し,産卵に適した場所と餌をとって成長するのに適した場所が異なるために回遊し,同じ資源(餌と場所)を奪い合う微妙にnicheが異なる魚種が多数存在する,という状況が沖の方にはありません。
- ▼なお,説明が混乱していましたが,魚種交替する浮魚類の個体数があまり変化しないのは沖合いではなく,沿岸域の話です。
- クジラの数が増えてサンマが減っているというのは本当?
- ▼小松正之「クジラは食べていい!」(宝島社新書)によると,「ミンククジラは通常オキアミだけを捕食すると思われてきたが,日本が現在行っている北西太平洋における捕獲調査により,日本近海では,サンマ,カタクチイワシ,スケトウダラなどを大量に食べていることがわかった」とあり,ミンククジラは全世界で百万頭もいる上,その主な生息場所である南氷洋での捕鯨は禁止されているので,おそらく増えているでしょう。サンマは90年代には増加しましたが,現在は減少傾向にあるようです。
- 「安定戦略モデル」及び「餌条件モデル」について(河井,2001より)
- ▼安定戦略モデル:種間のアンバランス(非多様性)は生物全体の安定性を損なうので,多様性を回復させる機能が働くという考え方。例えばマイワシが極端に突出する(多様性を示す指数がある限界値を超えて低下する)と魚種間のバランスを失い,安定化への自然界の力が作用し交替劇が起こるとする。
- ▼餌条件モデル:動物プランクトンの生産量が年々変化することと,それへの餌としての依存度が魚種によって異なること(例えばマイワシは50%,サンマは100%,マサバは75%など)に基づき,特定魚種の資源が増えればそれだけ多くのプランクトンが消費されるので,その量が彼らの食べうる総プランクトン量を超えようとするときに交替が起こるとするモデル。
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