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生態学第18回
「増えすぎた動物をどう扱う?」(2001年10月18日)

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最終更新: 2001年10月25日 木曜日 05時39分

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講義概要

エゾシカとは
▼参考URL道東地域エゾシカ保護管理計画(北海道環境生活部環境室自然環境課)pdf形式で詳細な文書をダウンロードできるようになっている。
▼明治時代には食肉(一部は缶詰として輸出),角,毛皮に商品価値があり,乱獲された。
▼豪雪もあり(20年に1度の割合で起こり,成獣が半減) ,明治・大正年間にかけて捕獲数は激減。
▼1884年から1901年と,1921年から1950年代半ばまでは禁猟。
▼戦後は等比級数的に激増。肉の流通経路もなく,商品価値も消滅。
▼畑や牧草を食い荒らし,カラマツ樹皮を剥ぐ害獣に。1995年被害額は40億円を超えた。
シカの個体数変化
▼ニホンジカは2歳で成熟し,毎年1頭ずつ仔を産む。
▼ほとんどあらゆる草を食いつくし,「環境容量」を超えて増え,やがて集団で飢え死にし,低い密度で貧しい植物相のもとで,小さな角をつけたシカが細々と生きる。
▼洞爺湖中島に1957年から1968年に3個体放されたシカは年15%増加し,1983年秋には299頭に達し,それから半年で67頭が自然死,95頭間引き。いまだに植生は回復せず。
増えすぎた動物にはどう対処すればいいのか?
▼致死的な病原体や,フィステリア[Pfiesteria piscicidaP. shumwayaeの2種が知られる](渦鞭毛藻類に含まれる生物できわめて危険。最近の分類学では,マラリア原虫などと近縁の生物であることがわかってきた。「腐海」という小説を参照)なら,根絶を目指しても悪くない(もちろん接触を絶てればベスト)。ドーキンスが言う通り,ヒトには予測能力があるから,共存し得ない危険な生物は叩くのが合理的。
▼アオコ(藍藻の一種)とか,日光などのニホンザルとか,このエゾシカのように,増えすぎると他の生物の負担になるが,かといって根絶すると生物多様性を低下させることになる生物の扱いが問題の焦点。増えすぎるのもヒトの活動の影響であることが多いので(例えば,生活廃水などによる湖の富栄養化がアオコ大発生の最大の原因),ヒトには責任がある。
北海道道東地区エゾシカ保護管理政策
▼1998年策定。保護政策を見直し,かつ乱獲も避ける,エゾシカを人間にとって適正な数に保つ「保護管理」を原則とする。
▼ヘリコプターからの目視で8万〜16万頭(1993年)と見積もり。出産率,生存率,成熟年齢は洞爺湖中島の調査から推定。これらの値に20%程度の不確実性を加味し,放置した場合の増加率を年12%から18%と推定し,5年後に適正水準になるよう,適正捕獲頭数を決定。
適正捕獲頭数の推定原理
▼毎年秋の目視調査で個体数推定。6月が出産期で目視調査は秋なので0.5歳と1.5歳以上の個体数がわかる。1.5歳以上の年齢構成は別のデータから推定。
▼管理計画の原則は「フィードバック制御」。常に監視して減ってきたら守り,増えたら獲る。
エゾシカ管理計画の方策
▼管理目標:
  1. IUCNの絶滅の恐れのある野生動物の基準に引っかからないよう,1000個体以上に保つ。
  2. 数理模型に基づき,不確実性を見込んで,100年後までに1度でも1000個体を下回る恐れを1%以下にする(「リスクアセスメントして,リスクマネージメントをする」という考え方)。
他の動物でフィードバック管理が検討されている例
▼商業捕鯨の改訂管理方式。ただし,イデオロギー的な反対によってモラトリアムが継続している。
▼1999年の鳥獣保護法(「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」)改正。増えすぎたシカやカモシカなどは,有害鳥獣駆除ではなく,特定鳥獣保護管理計画に基づいて管理されるようになった。
▼ヒグマやカラスにも考えるべき。

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エゾシカには天敵がいない? エゾシカの寿命は?
▼以前はエゾオオカミが天敵でしたが,絶滅してしまいました。現在,敢えてエゾシカの天敵を探せば,それは人間ということになるでしょう。野生動物の寿命を推定するのは難しいのですが,地域産業研究会というサイトの情報によれば,エゾシカの寿命は14歳くらいだそうです。
もしかして増えすぎた動物を殺すということもある?
▼駆除というのは,ヒトがその動物を殺すことです。
ヒグマやカラスも,エゾシカのように植物を大規模に食い荒らしたりして大きな被害を出している?
▼エゾシカと違って,ヒトへの被害が中心です。また,クマは全国的に数が減少傾向にあります。
エゾシカが減りすぎたらどうなる? 被食される植物すべてが基本的には増えていく? それとも特別な動植物の数が変化?
▼わかりません。しかし,普通に遷移が起こるとすれば,おそらくは最初は繁殖力が強い一年草が増え,その後に多年草,木本という順番で増えていくと思われます。
日本にはフィステリアのような根絶を目指しても悪くないような生物は存在する?
▼致死的な病原体とは共存不可能なので,根絶を目指してもしかたないと思います。たとえば,HIVとか,狂牛病のプリオンとかいったものです(もっとも,ウイルスやプリオンは,半生物みたいなものですが)。
フィステリアの分布は?
▼メリーランド州チェサピーク湾など,北米東海岸に分布しているようです。米国農務省のリンク集から米国環境保護庁のフィステリアのページノースカロライナ州立大学のフィステリアのページを見ると,ノースカロライナ川河口域から中部大西洋と書かれているので,それほど分布域は広くなさそうです。
オーストラリアやニュージーランドは現在の鯨がどういう状況にあるのかを知った上で捕鯨を禁止している?
▼知っていても日本などが出したデータを信じられないという人と,データが正しいとしてもイデオロギーとして捕鯨は許せないという人がいるそうです。
最近カラスの被害が増えているが,カラスの数も昔と比べてそれだけ増えているということ?
▼樋口広芳・森下英美子「カラス、どこが悪い!?」(小学館文庫)によれば,明治神宮のねぐらでは1996年から2000年までの5年間で,約4000羽増加しているという観察結果があります。一方,東京湾中央防波堤の埋め立て処分場では,生ゴミの焼却処分が進んで,完全に灰だけを埋め立てるようになった1997年からはカラスの姿は激減したそうです。その他いろいろな情報を併せて考えると,著者の推定では,「東京のカラスは全体として増加していると判断して間違いないだろう」とのことです。
カラスが仮に絶滅すると何か困ることがある?
▼カラスに捕食されている小鳥などが異常に増えるかもしれませんが,カラスを餌にする生き物はほとんどいないので,生態系にどれほどの影響があるかは未知数です。しかし,仮に生態系への影響が小さいとしても,病原体でもないし数が増えすぎなければ人間の生活にほとんど害がないような野生生物を(しかも数が増えすぎたのは,明らかに生ゴミを出しすぎる都市の生活のせいなのですから),人間の都合で絶滅に追いやることはおかしいと思います。
人間も増えすぎている動物といえそうだが,この問題はどうすればいい?
▼人間については難しいです。リスクアセスメントはできても,リスクマネージメントをするための合意を得るのが困難でしょうし,それ以前に倫理的に許されるかという問題があります。
家で植物いろいろ扱っているのですが,絶対に日本(または群馬)では育てられないような植物もある?
▼温室を使えばかなりの種が育てられるでしょう。が,万能ではないと思います。絶対に,といわれると難しいのですが。
鳥獣保護法によって実際に管理されている鳥類にはどんな種類がある?
▼実際に保護管理すべき種は,環境大臣または都道府県知事が定めることができるとされていて,ヤマドリやキジやガンカモ類の多くは狩猟による捕獲数量が制限されているという意味では管理されているといえます。しかし,科学的なリスクアセスメントとリスクマネージメントが的確になされているとはいえない状況だと思います。本来が狩猟を規制する法律だったこともあって,野生生物の保護という観点からすると疑問が残る点もあり,WWF-Japanなどは現在の法律に反対しています。二次的な生態影響(エゾシカ管理のために鉛の銃弾で狩猟をした場合,死体を食べたオオワシが鉛中毒になるといった事例があります)を考慮していないことや,管理計画の策定が地方自治体に任されたことに対して,当初無理だと答えた自治体もあったことなどが,反対理由の中心です。しかし,管理計画の実施にはきめ細かく迅速な対応が必要なので,地方自治体が実施主体になること自体は悪くないと思います。問題は,法律の条文に具体的な規定や数学的な根拠が書かれていないために,実施が完全に自治体任せになってしまうと,きちんと管理される保証がなくなってしまう点にあります。

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