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2002年1月2日 水曜日 13時02分
予定の部分に関しては内容が変わることがあります。
第1回 「社会調査の意味と歴史」(2001年4月12日)
講義概要
- 社会調査とは?:英語ではsocial researchまたはsocial survey/「社会生活と関連させることを目指して」行われる社会事象のデータ収集をいう。/2つの側面=社会的プログラムを作り社会の改善を目指す実践 vs 社会の諸側面の科学的探求/具体例=センサス,世論調査,訪問調査, …
- 社会調査の意味:社会科学の方法の基本である。/社会をよりよいものにするための科学的認識を目指す=一定の問題意識をもち,作業仮説に基づいて調査を行う(例外はある)/調査を科学的に精密に実施する努力ができるだけ払われねばならない。
- 社会調査の歴史:政治的要請による実践的調査から,普遍性を目指した科学的調査へ/センサス,官庁統計に始まる全国的(広域的)統計的な調査/ジョン・ホワード(1777)の囚人調査などを先駆的業績とする地域社会(部分集団)調査/近年の量的,質的発展(統計学とコンピュータの効用)
- 全国的統計的調査:センサス/世論調査/選挙予測の事例
- 地域社会研究:ヨーロッパの流れ=ホワード,ルプレー,ブース/アメリカの流れ=ケロッグ,ハリソン,シカゴ学派/日本の流れ/周辺諸科学との関連
フォロー
- 社会調査についてどんなものかわからなかったが講義を聴いてだいたい分かった→それはよかったです
- 実習を希望→フィールドには出ませんが,調査票づくりとか面接調査は実習予定です
- 大統領選の話で標本調査の威力に感心→標本抽出法の話を1時間かけてします。
第2回 「社会研究の素材と調査の順序」(2001年4月19日)
講義概要
- 何を調べるか
- 社会の調査研究の対象は,社会生活に関わるいろいろな現象だが,対象をそれに決めるには,何らかのきっかけがあるはず
- 問題意識の源泉としては,だいたい5つのパタン:研究者本人の経験から,研究者本人の観察から,他人の経験から,他人の観察から,他の研究から(メタレベルの視点,メタアナリシス)
- 調べるための道具立て〜データ収集のためのいろいろな方法論
- 研究者が自分で観察して記録:観察(observation),参与観察(participatory observation)
- 事実に直接関係ある人から情報や意見を得る:生活史記録,面接(free interview),調査票と質問紙(schedule and questionnaire)〜面接調査法と質問紙法
- どうやって調べるか(手順)
- 実証されるものが何なのかを明確にする
- 調査の計画を立て,準備する(プリテストを含む)
- 現地調査
- 結果の整理と分析
- 普遍化して法則的理論をうちたてる
- 何のために調べるか〜問題発見型研究と仮説検証型研究
- 問題発見型研究とは,その名の通り,問題を発見するための研究。長期間かかり,無駄が多く,デザインを途中で変更する必要がある場合も多い。
- 仮説検証型研究は,既に指摘されている問題についてなんらかの作業仮説を立てて,それを検証するためにデザインされる。実行途中ではデザインは基本的に変えない。
フォロー
- 素材選定の問題意識の源の分類・事例
- 大学での科目選びは他人の経験や観察を参考にするが自分で経験や観察しないとわからない
→素材として大学での科目選びは身近なのかもしれませんが,対象社会がその大学に限定されてしまって,社会の研究として一般的な理論を導くような研究にはなりにくいと思います。もっとも,教育社会学のテーマにはなるかもしれませんが。
- 「スポーツテストの結果,児童生徒の体力や運動能力の低下が見られるらしい:原因は家庭環境の変化,車などの普及,親の過保護など本人周囲の環境によるものと思われる」「最近は株価や物価が安くなっているように感じた:デフレ社会到来か?」など多数
→素材はいいと思います。ただ,それぞれが経験(原則として主観的,つまり測定者の特性によって結果が異なる可能性があり,質的なデータが多い)か観察(原則として客観的,つまり誰が測っても同じ結果が得られると期待され,量的なデータが多い)か,自分のものか他人のものかという区別をできるだけ明確にするよう心がけてみてください。
- 他人の経験としてマスコミや政府はIT時代というが,他人の観察として携帯電話加入者数が5000万を超えている(2001年2月で携帯電話加入数が59,455,484件,PHS加入数が5,822,898件で,新潟や長野ではそのうち約4割がインターネット接続サービスを利用している)。
→IT革命と呼ばれるものの実態はどうなっているのか?/加入数で言えば国民の半数に達した(重複して登録されている人がいるので利用者数はもっと少ないにせよ)移動体通信が,社会にどのようなインパクトを与えているのか,また今後与えていくのか? など,面白いテーマにつなげられそうだと思います。概して,イメージ先行でデータが伴っていないけれども重大な問題だと感じられれば,そこには社会調査のニーズがあるといえます。
- 他のQ&A
- 経験と観察の区別がしにくい場合がある
→確かにそうですね。例えば,「自転車通学をしていて女性ドライバーの多さに気づいた」ことは,「高崎の主な交通手段は車か」という問題設定に対して,ドライバーの数を数えたわけではないので,経験になりそうな気がしますが,大雑把にでも数を数えていれば観察になると思います。「テレビの視聴率」はサンプル調査結果として数値で示されるので,他人の観察と考えていいと思います。
- 自分と他人の経験,観察が矛盾したらどうする?
→矛盾があるから面白いと考えることもできます。きちんとデザインして調査計画を立て,調査をし,どちらが調査結果と矛盾しないかを検討すればいいのです。
- 試験はどのように?
→1回目に言いましたが,少なくとも前期は定期試験は行わず,講義時間中に小テストを2回くらいする予定です。出席(感想・質問)も評価にプラス方向で加味します。
- 問題発見型研究にデザインはあるか?
→3回目の講義で説明しますが,あります。
- RRAとPRAについて詳しい説明を希望。
→RRA (Rapid Rural Appraisal),PRA (Participatory Rural Appraisal)ともに,現代の農村地域における調査法の主流ですが,観察,参与観察,インタビュー,質問紙などを総合的に組み合わせて行います。PRAはRRAがあまりに迅速に概要をつかむことを目指したために理解が浅くなりがちだったことへの反省として生まれ,参与観察を重視します。詳しくは3回目の講義で説明します。
- 実習は個人でやるのかみんなでやるのか?
→実習と言っても調査票の作り方やインタビューの仕方の練習で,実際にフィールドに出るわけではありませんから,個人で興味のもてるテーマでやってもいいのですが,あまりにバラバラだと全員を個人指導する必要が出てきて,それは時間の関係で不可能ですから,ある程度テーマを絞らせてもらうかもしれません。
- 作業仮説って何?
→英語ではworking hypothesisといい,大きな仮説を検証することを最終目的とした研究において,具体的な個々の調査項目で検証可能な仮説を指します。例えば,「自然環境の悪化は子どもの成長に悪影響を与える」というのが大きな仮説だとすると,複数の地域あるいは時点での大気中NOx濃度とその地域での青少年数1人当たりの犯罪発生率を測って,それらの間に統計的に関連があったら(正確に言えば,関連がない確率が極めて低かったら),「NOx濃度と青少年犯罪発生率には関係がある」という作業仮説が検証されたことになります。作業仮説は大きな仮説に比べて具体的で限定的なものになります。
- 標本調査の意味は?
→対象集団に属する全員を調べること(全数調査,または悉皆調査ともいいます)をしなくても,代表性を持つように適当に選んだその一部(標本)を調べれば,対象集団全体に通用する結果が得られるという思想です。例えば新聞社の世論調査のように,長野県民の田中知事支持率を知りたいときに,長野県民全員に聞かずに住民基本台帳などからランダムに(地域的偏りがあるような場合は単純無作為抽出ではランダムにならないので工夫が必要ですが)選んだ何千人かに聞いた結果から,「長野県民の田中知事支持率は84%」などと推論するわけです。全数調査に比べると低コストで,調査拒否による偏りを避けやすいことから,全数調査より却って正しく対象集団の性質を把握することができる場合もあります。
第3回 「さまざまな研究における調査のデザイン」(2001年4月26日)
講義概要
- 実験研究のデザイン:
●2群を必要とする(処理群と対照群)
●個人は2群のどちらかにランダムに割り付けられる(層別にランダム割付することも)
●2群は1つか複数の従属変数について測定される(プレテスト)
●介入(独立変数)の実施
●プレテストで測定した従属変数を再び測定
- 実験研究の場
- 実験室
- 例えば,LataneとDarleyが煙を使ってやった社会心理学的な研究など
- フィールド
- 例えば,Millimanがレストランでテンポの違う音楽を使って従業員と客の行動への影響を調べた研究など
- 準実験研究:
●例えば小学校3年生のクラスを2つ選んで,一方には新しい教育プログラムをして,もう一方にはしないでおいて,成績が上がったかどうか調べて比べる,といった,ランダム割付を含まない2群間での介入効果の比較による,その介入手段の有効性の評価。
●社会調査には多いのだが,2つのクラス間でもともと社会経済状態などに差がある可能性があり,それがバイアスとなる可能性を排除できないのが問題。
- 自然の実験:実験研究や準実験研究では,介入後に結果が評価されるが,自然の実験では,研究者は介入をしないで,評価するだけ。
●4つの例:ある村で,都市に移住することを選んだ人と村に残った人がいる/同じ地域でもある村には電力が供給されていて別の村には供給されていない/同じ社会経済階層でも大学に行く人もいれば行かない人もいる/文化的規制によって女の子殺しを経験した社会もあれば,しなかった社会もある。
- 自然的実験:自然条件で実験研究データ(バイアスの少ない比較が可能な)を集めようと工夫するもの(例:Milgramがやった「実際,世界はどれくらい狭いのか?」の研究)
- デザインで注意する点
●内的妥当性(デザインした介入以外に結果に影響する要素は入らないか),外的妥当性(測定で測りたいと思ったものが正しく測れているか)があるか?
●攪乱要因を排除できているか?
●実際に調査をする前に思考実験をしてみること
●実施するにあたっては,(1)研究法の選択,(2)調査費,(3)時間,(4)既存資料の調査と具体的デザイン,(5)研究スタッフの編成,(6)調査対象の選定とコンタクト,(7)予備調査,(8)計画の練り直し,(9)本調査,といった手順を踏むことが必要。かなり面倒。
- 研究デザインの別の見方
●断面的研究と縦断的研究
●ケースコントロール研究とフォローアップ研究
●事例研究(実態調査,問題発見型であることが多い)と統計的研究(全数調査または標本調査,仮説検証型であることが多い)
フォロー
- いくつかの語句説明を希望
- バイアス(bias):偏り,つまり系統的な誤差のことです。
- 処理群と対照群:効果を見るために調査者が何かの要因を設定する,つまり介入を伴う研究の場合,効果を見たい要因を経験する被験者は処理群,経験しない被験者は対照群となります。対照群は,処理群と,その効果を見たい要因を経験したかどうかだけが異なり,年齢,性別などの属性は一致しているのが理想的です。例えば,社会保障制度で使えるカードの試行による効果推定という実験デザインの場合,処理群がカードを貰った人,対照群がカードを貰っていない人となります。
- 従属変数,独立変数,撹乱要因:調査研究において一群の変数間の関係を定量したいとき,変数のいくつかが原因あるいは決定的な意味をもつもの,別のいくつかが結果的な意味をもつものと考えられます。このとき,私たちが説明したいと思う結果の変数を従属変数と呼び,原因と考えられる変数でを独立変数と呼びます。注目している関係外の変数で,結果に影響を与える可能性がある変数を,撹乱要因と呼びます。
- メタ(meta):上位の,という意味です。例えば,メタ分析とは分析を分析することです。
- 外的妥当性を欠く例として挙がったもののうち適切な例
- 携帯電話の重複登録による保持者の不正確さのため,登録件数は使用者数の尺度としては外的妥当性を欠く
- 少年犯罪やマナーの悪い一部の若者を見て「近頃の若いもん」云々すること,つまり,マスコミ報道などで取り上げられるような「目に付く」若者の行動は,突出しているので,若者の行動一般を示す尺度としては外的妥当性を欠く
- 予備調査で問題点があれば練り直しが必要,では問題点がなかったら本調査の結果に加える?
- いい質問です。ケースバイケースですが,加えない方がバイアスが入る可能性は減ります。
5月3日は国民の祝日なので講義はありません
第4回「標本抽出(サンプリング)の方法」(2001年5月10日)
講義概要
- 何故標本抽出を行うのか?
●完全に全数が測れて,コスト的にも問題なく,対象者にも調査者にも負担がないならば,標本調査をする必要はない
●ほぼ完全に均質な対象なら1例でよい
●上記どちらにも当てはまらない場合は「標本(サンプル)」という「代表性をもった部分」を全体から抽出する作業が必要
- 上野駅中央改札風景(写真=166,067 bytes, jpeg形式)
- どんな種類のサンプルがあるか?
●時間的にも空間的にも母集団を代表する性質をもつ=確率サンプル
●確率サンプルの代表性を高めるには,サンプルとして選ばれる確率が均等だったことを確かにする方向性と,サンプル数を増やす方向性がある
- サンプル数の計算
●適当なサンプルサイズは,母集団の均質性,サブグループ数,母集団のパラメータ推定に求めたい正確さ,注目している現象の出現頻度,予算などで変わる。
●変数が1つなら,信頼区間5%(標本統計量の誤差の幅)で95%の確率サンプルをする(標本統計量が正しくないリスクが5%)には,最大384でよい。
●サンプル数を求める式は,χ2NP(1-P)/{C2(N-1)+χ2P(1-P)}。Pは最悪の場合でも0.5(先行研究を参照して得る)。Nは母集団の人数。Cは信頼区間(5%なら0.05)。χ2はカイ二乗分布の95%点(3.84)または99%点(6.64)。
- サンプルされる確率を均等に
●まず母集団の人数を調べる(電話帳,住民登録,あるいは自分でセンサス)
●確率サンプリング
- 単純無作為抽出
- 系統無作為抽出
- 電話帳からのサンプリング
- 層化抽出法
- 不均衡層化抽出法と重み付け
- クラスターサンプリングなど多段抽出法
●非確率サンプリング
- 割り当てサンプリング=全体を代表するであろう部分集団を勝手に決める
- 目的サンプリング=求めたい情報をもっている人からとる
- 偶然サンプリング=行き当たりばったり
- 雪玉サンプリング=キーインフォーマントに適当な人を挙げて貰う
- 単純無作為抽出
●乱数表,さいころ,コンピュータなどを使って全員に順番に乱数を与えていき,必要なサンプル数の値より小さい順位だった人を対象とする。例えば,
●(0,1)の一様乱数を与える
●小さい順に並べ替える
●小さい方から必要なところまで対象とする
- 層化抽出法
●年齢別,性別,人種別など階層毎に単純無作為抽出する
●サンプリング以前に,階層の情報がわかっていなければならない(が,予備的にその集団について階層を調べたりすると,それ自体が本調査に影響するかもしれない)
●階層の出現頻度が事前にはわからない
●時間と金がかかる
●総サンプル数が決まっている場合,階層毎のサンプル数が減ってしまう
- クラスターサンプリング
●多段抽出の1つ
●複数の村を含む州の調査などで,村をランダムに選んで,選ばれた村は全数調べる
●集落抽出法とも呼ばれる
- サイズ比例確率サンプリング(PPS)
●多段抽出の1つ
●全体が不均質な場合,ほぼ均質と考えられる複数のブロックに分ける
●ブロック毎の人口規模に比例してサンプル数を割り当てる
●ブロック内は単純無作為抽出と同じ
●費用が莫大。
- 問題
●上野駅中央改札の水曜朝の1分間の映像から
- 上野駅を利用する男性のうちネクタイをしている割合を推定したい場合,
- 中央改札の一日利用者数を推定したい場合,
の各々について,どういう標本抽出をしたことになるのか説明してください
●成人男性人口500人のメキシコ人の村で,USでの不法就労経験者割合を推定したいとき,信頼区間5%で95%確率サンプルを単純無作為抽出するには,何人にインタビューしたらよいか?
フォロー(問題の解説)
- 上野駅映像はどういうサンプリングか?
- ●サンプリングとは,母集団から,それを代表するような部分を選ぶ過程ですから,まず母集団を特定する必要があります。
- ●「上野駅を利用する男性のうちネクタイをしている割合を推定したい場合」の母集団は「上野駅を利用する男性」です。あの映像に映った男性を観察すれば,「男性のうちネクタイをしている割合」を計算できますから,問題は,「上野駅を利用する男性」に対して,「映像に映った男性」がどういう部分集団になっているかということになります。ネクタイの着用の有無に関して,公園口と中央口と浅草口では,出口の外にある施設が違うので服装が異なっていても不思議はないので,中央口の空間的代表性には疑問がもたれます。時間的にも,通勤ラッシュの時刻と昼下がりではネクタイ着用率には差があって当然ですから,朝の1分間だけというサンプルの代表性は疑問です。他の出口のデータと,昼下がりのデータが補足されれば「層化抽出法」の一部にはなりえますが,あれだけでは行き当たりばったりの「偶然サンプリング」です。正解者はありませんでした。
- ●「中央改札の一日利用者数を推定したい場合」の母集団は「中央改札の一日利用者数」なので,朝の1分間という時間的代表性と改札の一部しか映っていないという空間的代表性が問題となります。このうち空間的代表性に関しては,たぶん上野駅くらい利用者が多ければゲート間の偏りは無視していいかもしれませんが,時間帯や日による差があることは明らかです。ただ,一日利用者数といった場合は平日と休日の数を混ぜてはいけないと考えると,平日の朝を代表していると考えてもそれほど無理はないでしょう上野駅の時間帯別利用者割合を既存資料から得て逆比例配分すれば,一日利用者数は推定できると考えられます。「朝の1分間」はランダムサンプルされたものではないので,割り当てサンプリングといえるでしょう。
- メキシコ人村落でのUS不法就労経験者割合を推定するために必要なサンプルサイズ
- ●式に値を代入すれば,3.84x500x0.25/(0.05x0.05x499+3.84x0.25)=217(人)
- ●カイ二乗分布の95パーセント点が3.84なのに,それをさらに二乗するという誤りが多かったので注意してください。
第5回「文献資料の収集と整理」(2001年5月17日)
講義概要
- 文献資料収集方法のいろいろ
- ●人に聞く:いいKey Informantを見つければ芋蔓式に情報が得られることもある。
- ●レビュー論文を読む:定評のあるレビュージャーナル(Annual Reviews of Anthropologyなど)に掲載されている論文なら,その分野の研究に対して専門家が与えている評価がわかる点が他では得難い利点。
- ●文献検索をする〜データベース検索
- ●新聞記事
- ●インターネット検索:かつてはWEBに限らず,gopherやWAISでのみ提供される情報もあったが,最近はほぼどんな情報でもWEB経由で得られるようになってきたので,ここではWEBのみ扱う。
- 資料整理の方法
- ●切抜き
- ●コピー
- ●テキストデータベース:お薦め。データベースソフトを使わなくても,テキストエディタで十分。ただし,テキストあるいは画像とともに,キーワード,情報源情報,日付を入力しておく必要がある。こうしておくと,研究計画の立案段階でも,結果を分析し考察するときでも,常に簡単に参照することが可能である。
- (補足)テキストデータベース的な使い方をするなら,「知子の情報」というソフトも優れていると思う。出力形式の統一などまで含めて考えるなら,文献データベース専用のソフトを使う方法もある。MacintoshではEnd Note Plusという優れたソフトがあるが,Windows版はあまり使い勝手がよくないようである。Windows環境のソフトとしては,Ref for Windowsというものがある(以前はフリーソフトだったが,現在はシェアウェア)。報告書をTeXで作成するなら,多少スキルは必要だがBiBTeXを使うと便利である。
- 本を探す
- ●図書館〜文献目録,リファレンスサービス
- ●NACSIS WebCat:国立情報学研究所の国内文献所在情報データベース
- ●オンライン書店・和書
- ●オンライン書店・洋書
- データベース検索の例(Social Science Citation Indexでカラオケに関連する研究を検索する場合,講義では画像を表示)
- ●データベース,年次,検索タイプを選ぶ(SSCI,全年次,一般検索)
- ●検索語(または著者,文献名,著者の所属機関)を入力する前の画面
- ●TOPIC欄にkaraokeと入力してSEARCHボタンをクリックする
- ●karaokeを含む文献の一覧が表示される
- ●文献の1つの詳細情報が表示される
- 参考になるWEBサイト
- ●「市民のための情報収集法」宮内泰介さん(北海道大学)
フォロー
- 小テストはいつか?
- WEBページで予告してある通り,第8回(6月7日)の後半に質問項目を作る小テスト,第11回(6月28日)の後半に調査計画書を書く小テストを実施する予定です。
- ディレクトリ型検索エンジンとロボット型検索エンジンの違いがわからない
- ディレクトリ型はまず階層構造を決め,検索対象となるサイトをその階層構造のどこかに位置付けていくことで検索のデータベースを構築したもの。その代表がYahoo!です。ロボット型は階層構造というよりもロボットが集めてきた全文からキーワードを抽出し,分類することで検索のデータベースを構築したもので,gooやGoogleなどが代表例です。完璧なロボットを作って階層構造に位置付けながら勝手に分類してくれるようにすれば両者の区分に意味はなくなるのですが,現状ではディレクトリ型の方が良く整理されゴミ情報が少なく,ロボット型の方が新しい情報までカバーされ頻繁にアップデートされている傾向があります。最近はエージェント型の検索エンジンが開発され,データベースは独自に持たず,複数の他のロボット型あるいはディレクトリ型のデータベースにエージェント(と呼ばれるプログラム)が検索コマンドを送ることによって返ってくる情報をまとめて表示するものもあります。
- 自分でデータベースを作るときの注意点は?
- 授業でも触れましたが,データと一緒に情報源とキーワードと日付を必ず登録しておくことです。よほど大規模なデータベースでない限り,使うソフトウェアはテキストエディタで十分です。Windowsなら市販品ではWzエディタ,フリーソフトではK2Editorあるいは,xyzzyがお薦めです。
第6回「参与観察」(2001年5月24日)
講義概要
- 参与観察とは何か?
- ●対象社会の一員として生活しながら観察すること
- ●「ネイティブになること」「その社会における現象の1つになること」を目指す研究者もいるが,ある程度の距離と客観性を保つことを重視する研究者が多い。
- 参与観察とフィールドワーク
- ●すべての参与観察はフィールドワークであるが,参与観察でないフィールドワークもある。
- ●漁師のフィールドワークで一緒になって漁をするのではなく,漁に出るときに一緒についていって空気のように観察する。
- どれくらいの時間がかかるのか?
- ●1年以上のフィールドワークをする研究は多いが,参与観察そのものは数週間の場合が多い。
- ●異文化ではコトバを覚えるだけでも1年以上かかる場合もある。祭りなど内容次第では2,3日でできる参与観察もある。
- ●珍しい風習など,それに出会うまでの待ち時間が長い場合もある。相当親しくならないと見せてもらえないものもある。
- 参与観察の妥当性〜少なくとも5つの理由〜
- 異なる多種類のデータを収集できる
- 対象者の無反応を避けられる
- 微妙な質問を現地の適切な言葉でできる
- 直観的理解を助ける
- 参与観察なしではわからない問題がある
- フィールドに入るには
- 入りにくいところを選ぶ理由はない
- 自分自身と研究プロジェクトについて(現地の重要人物が読める言語で)書いたものをもって入ること。
- 伝手を作って入ること(但しトップダウンがベストとは限らない)
- 対象社会の人々からの質問を予想しておく
- 歩き回って地図を作り,なんとなく現地の人と話したり,家系図を作ったりすることで存在を認知してもらう
- 参与観察者に必要な技術
- ●言語
- 覚えるコツは,数語でも完璧に発音できるようになって,口に出して言ってみる。
- 事前にその言語の集中講座を受けるのも可(但し日本ではあまりコースがない)。
- 方言などの場合は,必ずしも現地の人の言葉を真似るのはうまくない(馬鹿にしていると受け取られたら終わり)。
- ●明示的な「気づき」を与えること
- ●記憶と記録(目的のために十分な方法を工夫して考えておく)
- ●いつまでも初心を忘れずに調査する
- 客観性と中立性
- ●同義ではない。
- ●例えばWWFの調査者が自然認識の調査をする場合,調査者が保全側なのは自明なので中立ではない。しかし,適切な手順で調査すれば,客観性を保つことはできる。
- ●大事なのは客観性。
- 性別等による制約
- ●調査者の年齢や性別,社会経済的状態が調査の足枷となる場合もある。
- ●例えば,男性は出産の場への参与が禁止されている社会が多い。
- ●また例えば,パプアニューギニアのギデラと呼ばれる人々の社会では,ワニの解体作業は既婚男性しか参加を許されない。たとえ外国人研究者といえども,未婚だったり女性だったりすると,ワニの解体は見ることさえ許されない。
- フィールドを生き抜くために
- ●怪我や病気に備える
- ●人々の忠告には従う
- 参与観察の段階
- 最初のコンタクト
- ショック
- 発見
- 休息。落ち着いて問題を捉えなおしてみる
- 焦点を定める
- 徹底的にデータをとる
- 2回目の休息
- 取り忘れたデータがないかを確認してフィールドを離れる
フォロー
- 第1回などバックナンバーのプリントは貰える?
- 何部か用意していくので,必要な人は言ってください。
- 参与観察の重要性と大変さがわかった(同意見多数)。
- 伝わって良かったです。
- (とくに,いわゆる発展途上国の村落における)参与観察の前段階で,
- Q1.家系図を作ることに何の意味があるのか?
●系譜人口学的な意味の他に,人間関係を把握することに大きく役立ちます。世間話をするにも,村から外に出ていった人の存在を知っている人と,そうでない人に対しては,言及される話題の幅が変わってきます。
- Q2.作る地図とはどういうものか?
●歩測あるいは平板測量で1軒1軒の家や,小さなキッチン,豚小屋に至るまで,かなり正確な位置と地名を書いた地図を作れば,村の中の様子がわかるだけでなく,行動距離や活動パタンなどいろいろな情報が得られます。また,調査者というヨソモノが,何か変わったことをしそうだけれど害にはならなそうだし,面白いものを見せてくれるかもしれない(この種の正確な地図を寄付すると,通常,非常に歓迎されます)というアピールになります。もっとも,時間がないときは,測量をせずに,簡単な自然地形と家や畑の位置関係だけを書き込んだ略図でも,意外に役に立ちます。(例1,例2)
- 対象社会に受け入れられながらも,完全にその一員とはならないとはどういうことか?
- 漁業の調査でずっと一緒に魚を獲っていては観察や記録ができません。女性研究者が調査に入った場合,いくらその村では女性は農作業と煮炊きで丸一日働くモノだとされていても,ずっとそればかりやっていては,他の村人が何をしているのか,という肝心な点のデータが取れません。もちろん,数回経験することは,データを解釈する上でプラスになるでしょう。フィールドワークの大きなポイントは,違う文化的バックグラウンドをもった調査者だからこそ気づくことを抽出できる点にあるので,完全に一員となってその社会のインサイダーとなってしまってはいけないのです(という意見が多数だと思います)。
- 何気なく使った方言の意味を尋ねられることがあるが,その言葉を説明できる言葉も方言だったりして,意味を伝えられないことがある。参与観察中に現地の言語の意味を聞いたときに現地の言葉でしか説明できないと言われたらどうするか?
- それがわかるようになるまで現地で生活するしかないと思います。ここで勝手に外からの解釈のフレームを当てはめてしまったというのが,レヴィ=ストロースに代表される構造主義人類学への最大の批判です。
- 海外のフィールドでは調査以前の安全管理や基礎も重要だと感じたが,国内ではどうか?
- 感染症が少ないこと,銃や刃物に出会う危険が少ないことを除けば,相手の言うことによく耳を傾けるとか,相手の社会慣習を尊重するとかいったことは,国内でも基本的に同じです。
- TVなどのドキュメンタリーを見ていても疑問だが,どうやってコンタクトする?
- これは難しいです。ケースバイケースですが,何らかのつてを辿って(個人的なつてが何もなければ,国の担当者,州政府の担当者,という具合に上から順番に紹介して貰って)対象社会の有力者に連絡をとり,その有力者を通して対象社会に紹介して貰うのが常道でしょう。有力者(多くは村長とかパラマウントチーフとか学校の先生,組合の参事など)から紹介して貰うとスムーズに入り込める場合は多いのですが,その社会の底辺とされる部分に辿り着くのは困難な場合があります。そういう場合は,有力者には一言断るにしても,敢えて公式には紹介されないままに入り込んでしまった方がいいこともあります。
- 蚊の吸血活動が活発な夕方歩いてマラリアにならなかった?
- 暑くても靴下と長袖長ズボンで完全防備していたので大丈夫でした。自分の身を守ることは,調査を完遂するためには絶対に必要な条件です。
- テレビ番組でアフリカやアジアの知らない土地に住んでそこの住民たちと暮らすのを見る。ある番組でモンゴルの遊牧民と一緒に行動し,彼らの健康状態をみていた。ああいうのが参与観察か?
- 明確な目的をもって,異なる社会に入っているアウトサイダーとしての自分を意識しながら,相手になるべく影響を与えないように観察していれば,テレビ番組のドキュメンタリーで行われることも参与観察といえるでしょう。残念なことに見映えのする映像をとるための演出という名のヤラセが多いようですが(半ば無意識かもしれません)。なお,番組自体は編集結果なので観察そのものではありません。
- どうやったら空気や壁のようになれるのか?
- 風景の一要素として馴染むことでしょう。そうはいっても人間だから難しいですが。この人に見られても何も日常生活に関係のある変化は起きないという絶対的な信頼関係を作ることが有効な場合もあります。
- 隠しカメラや小型カメラでの観察はどうか?
- 実際に調査で使われることもあります。しかし,ビデオテープを起こすのは,観察そのものと同じか,それ以上の時間がかかるので,あまり効率的ではありません。
- 客観性が大事なことはわかったが中立性の有無も返って来る答えには影響するのでは?
- たしかにWWFの調査者の前で木を伐ろうという人は少ないでしょう。中立性がないと見られるデータが偏るという可能性はあります。
第7回「インタビュー」(2001年5月31日)
講義概要
- インタビューとは?
- ●日本語で言えば面接聞き取り調査。
- ●人間は常に他の人々と会話をしている。日常の経験として他人から情報を得ているし,協力的な応答を得るために,(意識しているかいないかによらず)多くの有効な技巧を使っている。インタビューとは,それを一層専門化して,求めようとしている特別なデータを,会話を通じて効果的に獲得しようとする技術である。
- インタビューの種類
- ●自由なインタビュー:主に実態調査に用いられる
- ●指示的インタビュー,あるいは質問紙インタビュー:主に統計調査に用いられる
- ●集団インタビューと個人インタビュー
- インタビューの本質
- ●面接者と被面接者の間に社会的状況が作られ,社会関係が形成される。「らせん形の相互作用」が必要。
- ●自由面接では,予め質問の順序を追い,イエス・ノーを問うようなのはダメ面接者と被面接者は,ある意味で共同研究者となる
- ●ラポール(rapport=被面接者との友好的な人間関係)の形成が重要:スプラドレー(Spradley, 1979)によれば,(1)面接者が何に興味をもっているかを面接開始時に,あるいは面接中,おりに触れて,また面接の終わり頃に繰り返し相手に伝える,(2)被面接者が言ったことをもう一度繰り返すことで,相手の話をちゃんと理解していること,相手の話が面接者にとって価値があることを伝えること(価値判断抜きに繰り返すことが大事),(3)意味を聞かずに,コトバの使用例を聞くこと,が,良好なラポールを築くためのい3つのコツと言われている。
- インタビューの技術
- ●面接への準備:企画=時間とテーマ,下調べ=テーマについて+インフォーマント(情報提供者=被面接者)について
- ●最初の接触:挨拶+目的(相手に合わせて)
- ●面接の前半:相手に喋らせる
- ●面接の後半:質問・検討・確認(この際,数と固有名詞についてはメモが必須と思う)
- ●面接の終結:友好的に
- ●面接の記録:1時間くらいの面接なら,直後にメモすれば大丈夫。面接中にはなるべくノートしないで済むことはしない方が良い。
フォロー
- 自由面接でイエス・ノーを問うのは何故ダメか? いったんイエス・ノーを聞いて,そこをまた詳しく聞くという技法はありでは?
- ありだと思います。予め決めた項目について機械的にイエス・ノーを聞き取っていくのではダメだということです。
- いつか講義時間中にインタビュー練習をする?
- 講義時間中には無理だと思うので,友人や家族に頼んで練習させてもらってください。
- 「らせん形の相互作用」について,より詳しく説明希望
- 聞き取りをしながら,互いに相手の言葉を手がかりにして段階的に理解が深まっていくことを「らせん形」と表現したものです。
- 集団インタビューについてフォロー希望
- 1人の面接者が複数の被面接者と同時に会い,相互に話し合いながら情報を得る場合も,集団インタビューといいます。複数の被面接者同士を話し合わせながら,議論の流れに適切に介入することで情報を得ることもあります。単独で行われるよりも,個人インタビューと相互補完的に行われることが多いです。
- インタビュー中,あまりに相手の意見に反対のときは反論して良いか?
- インタビューの相手(インフォーマント,情報提供者という意味)が何を考えているのかを聞き出したいのが目的で,相手を論破するとか説得するとかいった目的ではないので,議論としての反論はすべきではありません。
- 面接中にはなるべくノートしないで済むことはしない方が良いのはなぜ?
- ノートをとることによって会話の流れが中断してしまうことがあるからです。ただし,相手の発言を反復することと同様の効果(ちゃんと聞いているということをわかってもらう)が得られる場合もあるので,一概に悪いとばかりはいえません。
- ノートがダメだとするとテープレコーダーによる記録はどうか?
- とくに集団インタビューの場合など,複数の回答が同時に発せられる場合があり,聞き漏らす危険があれば,テープレコーダーで補強することは意味があります。ただ,それに頼って聞き取りがずさんになってしまってはいけません。また,一般にテープ起こしには聞き取りそのものよりも長い時間がかかりますから,効率が良いとはいえません。さらに,テープにとられることで,被調査者が「発言がすべて記録される」と意識してしまい,自然の会話でなくなって虚飾や合理化や遠慮や抑制がどうしても生じるという欠点もあります。もっともICレコーダーのように動作音も何もしないものなら,完全に隠して録音できるので,最後に挙げた欠点はなくせるかもしれません。
- インタビューの真の目的を敢えて言わないのが合理的なのはどんな場合?
- 真の目的が聞きたい情報に影響を与える危険があるような場合です。しかし,相互の信頼関係という点からすれば,必ずしも言わない方がいいとは言い切れないのが難しいところです。
- ソロモン諸島の調査で実際にどういうインタビューをした?
- 数年前のガダルカナル島でのマラリア調査では,対象者全員に,蚊帳の利用状況について,また蚊から身を守るために何に気をつけているかについて聞き取りました。これは質問項目を予め概ね決めておき,それに沿って質問を進めたので,指示的インタビューにあたります。それでも,1人あたり10分程度かかりました。今回は時間がなかったので,ほとんどインタビューはしませんでしたが,共同研究者(山内太郎氏)は,村のリーダー的な立場にある人々を集めて,村の現状認識についての聞き取りをしました。集団インタビューに当たると思います。
第8回「調査票の設計〜質問項目の作り方」(2001年6月7日)
講義概要
- 調査票とは?
- 調査票とは,調査をするときに得たい情報をリストアップしておくものをいう。項目だけをあげたものを狭義の調査票といい,実際の文章として質問文を形にしたものを質問紙という。もちろん区分は明確ではない。
- 調査票は,面接(インタビュー)調査で使われる場合もあるし,電話調査で使われる場合もあるし,配票(留置),郵送,一堂に集めるなどの方法で被調査者自身が記入したものを回収する場合もあるなど,さまざまな使われ方をされる。面接調査と電話調査で使われる場合は調査員が回答を記入するので他計式,それ以外の場合は被調査者自身が記入するので自記式または自計式と呼ばれる。
- 面接(インタビュー)調査で使われる場合(Pは長所,Cは短所)
- (P1) 直接に被調査者に面接することにより,標本として指定された本人の応答を確実に捉えることができる
- (P2) 調査票の回収率が高くなる
- (P3) 他の調査法よりも調査票が長くなっても良い
- (P4) 質問をよく被調査者に理解させることができる
- (P5) 必要なら他の関連質問によって回答の真偽を確認することができる
- (C1) 一般に多数の調査員が必要で(一人で調査できるサンプル数には限界がある),交通費など費用も多くかかる
- (C2) 追求訪問(一度で聞き取りきれなかった場合など,何度も繰り返して調査すること)が必要
- (C3) 調査員によって応答が異なることがある
- (C4) 調査員による不正(捏造)が生じ得る
- (C5) 特殊な階層の人たちには面接できないこともある
- 配票調査(留置法)で使われる場合
- (P1) 面接に比べると追求訪問が少なくて済む
- (P2) 面接より回収率がやや高いことが多い
- (P3) 面接より費用が少なくて済む
- (C1) 被調査者自身が記入したかどうか確認できない
- (C2) 本人が記入したとしても周囲の意見が影響することが多い。相談したり,他人の意見を聞いて記入される可能性もある
- (C3) 自計式共通の欠点(調査項目が誤解されやすい,記入が不正確になりやすい,記入漏れが生じやすい)がある
- 集合調査で使われる場合
- (P1) 調査の説明や条件を被調査者の全部に対して一定にできる
- (P2) 費用は安くて済む
- (P3) 簡便に調査できる
- (P4) 調査員も少数でよい
- (P5) 無記名にできる
- (C1) 学生を教師が集めるような特別の場合を除いて用いにくい
- (C2) 出席率は一般にあまり良くない
- (C3) 自計式共通の欠点がある
- (C4) 被調査者の差を無視することになる
- (C5) 被調査者中の何人かの発言が大きな歪みを引き起こす可能性がある
- (C6) 出席者の日当や交通費を出さねばならない場合は,かえって費用がかさむ
- 郵送調査で使われる場合
- (P1) 一般には費用は安くて済む
- (P2) 広い地域に調査票を配布することができる
- (P3) 無記名にできる
- (P4) 面接と違って調査員による偏りは生じない
- (P5) 面接しにくいような特殊階層の人にも調査票を届けられる
- (P6) 返送率や返送速度が,被調査者の性格の一面を表す情報として利用できる
- (C1) 協力要請の方法に工夫が要る。手紙の書きかたによって記入し返送する意欲が左右され,切手を貼り宛名を書いた返送用の封筒も同封するなど,回収の仕方にも工夫を要する。発送の時期や催促状の書きかたも大事。
- (C2) 調査票の回収率は低い
- (C3) 正しく本人に渡るかどうかわからない
- (C4) 自計式共通の欠点がある
- (C5) 回収が難しいので催促状を何度も出さねばならないし回収に時間がかかる
- (C6) 調査項目が長すぎると記入が忌避されるので調査票の長さが制限される(一般に面接の半分以下)
- 電話調査で使われる場合
- (P1) 簡単で迅速に調査できる
- (P2) 面接調査より安上がり
- (P3) 電話帳を使って無作為標本をとりやすい(携帯電話のメールではランダム・ディジット法が使えたが,一般にSPAMとして迷惑な場合があるため,最近不可能になった)
- (P4) 面接しにくい人にも調査できる
- (C1) 電話を持っている人だけに対象が限られる(現代の日本ではほとんど問題にならないが,20年前には大きな問題だった)
- (C2) 遠隔地を対象にした場合は費用がかさむ
- (C3) 1人あたりの調査時間は短くならざるをえないので,簡単な調査しかできない
- 調査項目の選択に当たって注意すべき点
- ●調査目的に関連した,あるいは作業仮説に関連した,必要十分な調査項目を含ませねばならない
- ●一般には,調査目的になっている大きい主題をまずいくつかの次元に分解し,次にその各々をさらに細かいいくつかの次元に分解し,といった手続きを繰り返し,最終的に細分されたものが調査項目となり,見出し語あるいは質問の形で調査票に取り入れられる
- ●何か興味があり価値がありそうに思われると何でも入れたくなるが,吟味が必要:(1)その項目でデータが得られるか?(2)データが得られるとしても分析に使えるか?(3)全体のバランスからみて重要度が低くないか?(4)被調査者に抵抗や反感や困惑を起こさせないか?
- ↑(2)の確認には,ダミーテーブルの活用が有効。
- ●必要最小限+聞きにくいことを聞くための導入的な質問,他の質問の応答を確認するための限られた無駄な質問
- 用語上の注意
- ●簡単明瞭かつ正確に被調査者が理解できること。例:年齢でも,ただ「おいくつですか?」という問いでは,満年齢か数え年かわからないし,年まででいいのか何ヶ月まで必要なのかという精度もわからない。被調査者の最低理解水準を基準にしても「わかる」ようにする
- ●単純な日常会話的用語,副詞や代名詞に注意する。例:「どんな洋服を着ますか?」「それは何故ですか?」
- ●一般名詞と固有名詞に注意する。例:「新聞を何部とっていますか?」では新聞の種類がわからないし,部数を聞くときに客商売の接客用をふくめるかどうかも曖昧。
- ●被調査者の階層や環境の違いによるイメージの違いに注意する。例:「風呂」といっても下宿している学生などでは銭湯をイメージするかもしれない
- ●難しい用語や専門用語は避ける。やむを得ず使う場合は明瞭な定義を与える。例:USの調査で,まったく架空のMetallic Metals法について尋ねた結果,70%の被調査者が「それは連邦か州で調査すべきだ」と答えたという報告がある。被調査者は「ことばがわからない」とは言いたがらない。
- ●ステレオタイプ的な単語は避ける。例:「左翼」というコトバでイメージするものは,被調査者によって大きく異なる
- 文章上の注意
- ●過度な形容詞の使用は避ける
- ●被調査者が質問について肯定する傾向にある("yes" tendency)ことに配慮して文章を工夫する
- ●とくに複文で誘導的な前置き(威光暗示効果など)にならないよう注意する。例:「世間では○×といわれていますが,あなたは……」という問いは,世間の威光を借りて回答を歪める
- ●単位によって限定されるような聞き方は避ける。例:「1ヶ月に何冊くらい本を読みますか?」という質問では,年に2〜3冊の人は0か1に無理に分類される可能性が大きい
- ●文章の意味内容が2つ以上の論点を含んでいる質問(Double-barreled question,日本語でもそのまま「ダブルバーレル」と呼ばれる)は,各論点について1つずつの質問群に分解する。
- ●過去の細かい記憶をもとにした質問はしない。
- ●否定的語法の質問は曖昧なので避ける。例:「市営動物園の缶詰会社への払い下げは,阻止すべきでしょうか,それともすべきではないと思いますか?」という問いで「すべきではないと思う」という回答は,「払い下げすべきではない」のか「阻止すべきではない」のか曖昧。
- ●あまりにも突飛な質問はしない。例:唐突に「もし火星に住むとしたら…」というような問いは,調査全体への信頼性を失わせかねない。
- 質問の仕方のタイプ
- (1) 個人的質問と一般的質問。
- (2) 意識を聞くのか実態をきくのか。
- (3) 意見を聞くのか知識を問うのか。知識を問う質問を濾過質問として使うことも。
- (4) 平常の行動をきくのか,特定日時の行動をきくのか。
- (5) 単一の質問で聞くか,質問群で捉えるか。
- (6) 特定質問にyesまたはnoと答えた者に対して,その判定を覆させるような第2の誘導的な質問を発して,第1の質問のyesまたはnoの強さを測る。この第2の質問をbiased questionという。例:「今度の総選挙には投票に行きますか? それとも行きませんか?」で「行く」と答えた人に対して,「投票日に雨が降っていたら/投票日に何か用事ができたら/どうしますか?」,「行かない」と答えた人に対して,「知人に誘われたらどうしますか?」と尋ねてみる。言い回しの効果が大きいので難しい。
- 回答形式のタイプ
- (1) 自由回答質問
- (2) プリコーディッド自由回答質問
- (3) 回答選択式質問(賛否的=2項選択,品等的=rating,質的多肢選択,量的多肢選択)
- (4) 序列質問
- (5) 複数選択
- 質問票の流れとレイアウト
- ●質問の順序の原則
- 答えやすい質問は前
- 関連する事柄や似ているものは集める
- 対象者を限定する枝分かれ質問(サブクエスチョン)で間違いにくい順番を工夫する
- ●タイトル:反発を起こすものは避ける
- ●調査主体や連絡先の明記
- ●挨拶
- ●記入上の注意
- ●調査票についての処理の記録欄:コーディングで使う
- ●小見出しや説明:対象者に調査の順序をわかってもらうための説明
- ●質問番号:論理的階層性が明確な方がよい
- ●回答上の指示:【】に入れるとか書体を変えるなど,質問との区別がはっきりするように。
- ●お礼の挨拶
- ●調査員判定
- ●最終レイアウトとページ数:最後のページがだいたい一杯におさまるようなレイアウトにし,通しのページ番号を振る。
小テスト
- (1)一般の成人を対象とした世論調査での質問項目として,以下にあげる5つを評価してください。問題がないならば問題なしと書き,問題があるなら,それが講義で触れたどの点で問題なのかを明確に指摘し,改善した質問を作ってください。
- (A) 小泉内閣の支持率の高さには田中真紀子外相の人気が大きな役割を果たしているという意見がありますが,もしそうだとすると内閣支持率とは何を意味するものだと考えられますか?(自由回答で)
- (B) サマータイム法にはワークシェアリング以上の省エネ効果があると思いますか?(強くそう思う,どちらかと言えばそう思う,どちらともいえない,どちらかといえばそう思わない,全くそう思わない,わからない,から1つ選択)
- (C) あなたは,家庭教育や学校教育の質の低さが,少年非行の原因だと思いますか,それともそうは思いませんか?(強くそう思う,どちらかといえばそう思う,どちらともいえない,どちらかといえばそう思わない,まったくそう思わない,わからない,から1つ選択)
- (D) 日本人は討論が苦手なので組織を民主主義的に運営する能力に欠けるという意見がありますが,あなたはこの意見に賛成ですか,反対ですか?(賛成,反対,どちらでもない,わからない,から1つ選択)
- (E) あなたは,あなたの住んでいる地域に愛着をもっていますか? それとももっていませんか?(強くもっている,どちらかといえばもっている,どちらともいえない,どちらかといえばもっていない,まったくもっていない,わからない,から1つ選択)
- (2)以下の質問に答えてください。さらに,この質問項目には問題があるかないか,問題がある場合は何が問題なのかを評価してください(学生にはパタンAとパタンBがランダムに配られる)。
- (パタンA)子どもは3歳までは主に母親が育てるべきだという意見がありますが,あなたはどう思いますか?(賛成,反対,どちらともいえない,わからない,から1つ選択)
- (パタンB)あなたはいわゆる3歳児神話に賛成ですか?(はい/いいえ,に丸をつける)
フォロー
- ダブルバーレルの意味がよくわからない
元々は,2つの樽という意味です。文章の意味内容が2つ以上の論点を含んでいることを,樽が2つ重なっていることに喩えて,こういいます。(2002年1月2日訂正)群馬大学の青木繁伸先生から「二連発銃の意味では?」とご指摘を受け,調べてみたところ,確かにそちらの意味でした。何かで2つの樽から来ているという記載を見たような気がするのですが,そういう説の存在は確認できませんでした。申し訳ありません。石川淳志,佐藤健二,山田一成(1998)「見えないものを見る力【社会調査という認識】」八千代出版の,p.284に,「ちなみにダブル・バーレルとは双胴銃のことで,一度に二つの弾丸が飛び出すしかけになっている」とありました。
- プリコーディッド自由回答質問について補足説明を希望
- 質問形式はまったく自由回答で,被調査者は自由に答えるのですが,調査者側で予め予想される回答としていくつかのカテゴリを用意しておいて(このことを「プリコーディッド」といいます),聞き取ったときの判断でそのカテゴリの回答ボックスのどれかにチェックします。
- 集合調査(C4)の被調査者の差を無視するといった場合の「差」とは?
- 全員を一堂に集めて説明しても,背景も違えば能力も違うので,説明をどの程度理解度できたかということには一人一人差があります。面接調査ならば,被調査者の反応を見ながら一人ずつわかってもらうまで手を変え品を変え説明できますが,集合調査ではそこを無視せざるをえません。
- 小テスト2番の回答について(質問の仕方によって結果が変わる実例として)
質問パタン | 支持 | 反対 | どちらでもない | わからない | 無回答 |
パタンA | 2 | 5 | 11 | 1 | 3 |
パタンB | 3 | 10 | 0 | 0 | 3 |
χ2=13.206,d.f.=3,p=0.0042(無回答を除く)
- (注)このクロス集計表には度数ゼロのセルがいくつもあるので,厳密に言えば,ここでカイ二乗検定をした結果は正しくない可能性があります。フィッシャーの直接確率を求めるか,カテゴリの併合をすべきです(社会統計学第6回を参照してください)。
- ●聞き方によって回答が異なることが示唆されました。
- ●パタンAの聞き方だったら「どちらでもない」または「わからない」と答えたであろう人が,パタンBではその選択肢がないために無理やり「はい」か「いいえ」と答えた可能性があります。
- ●パタンBでは"yes" tendencyの危険と,「3歳児神話」という用語を説明なく使っているという2点で回答が偏る可能性があります。
- 小テスト回答例(1−A)
- 「大きな役割」は強い形容詞ですし,「もしそうだとすると」で,それに同意する対象者を限定するので,サブクエスチョンを作るべきです。改善例としては,「QA.小泉内閣の支持率の高さと田中真紀子外相の人気は関係があると思いますか,それともないと思いますか?(強く関係していると思う,多少関係があると思う,どちらともいえない,あまり関係ないと思う,まったく関係ないと思う,わからない,から1つ選択)」「QA−S.QA.で「強く関係していると思う」または「多少関係があると思う」と答えた方にお聞きします。内閣支持率とは何を意味するものだと思いますか?(自由回答で)」といった聞き方が考えられます。
- 小テスト回答例(1−B)
- 「サマータイム法」「ワークシェアリング」は,「難しい用語あるいは専門用語」に該当するので,明確な定義を与えて使わなくてはなりません。回答の選択肢にある「わからない」は,判断できないものだけに該当するべきで,用語の意味がわからないのではいけません。また,「あると思いますか?」だけで質問が終わっているので,"yes" tendencyが出るかもしれません。さらに,ワークシェアリング単独では省エネルギー効果とは無関係なので(フレックスタイム勤務制度の拡大に伴ってワークシェアリングすれば雇用を維持しつつ省エネルギーが可能になるかもしれないと考えれば,まったく無関係だとはいえませんが),そもそも問いの立て方が良くないといえます(「突飛な質問」にあたります)。改善例としては,「省エネルギーのために有効な対策の1つの可能性として,政府はサマータイム法(日の出時刻が早まる時期に,夕方の明るい時間を増やし日の出から1日の活動開始までの時間を減らすことを目的として,時計の針を1時間進めるという法律)の制定を検討しています。一方,時計の針を進めなくても,フレックスタイム勤務制度の拡大(始業時刻と終業時刻を日の出時刻の変化に応じて変えるなど,就業時刻に弾力性をもたせる)でも同様の効果が得られるという意見もあります。サマータイム法にはフレックスタイム勤務制度の拡大よりも大きな省エネルギー効果が期待できると思いますか,それとも期待できないと思いますか?(期待できると思う,どちらともいえない,期待できないと思う,わからない,から選択)」といった聞き方が考えられます。
- ●なお,サマータイム法を推進する根拠として,平成10年の総理府世論調査で賛成が過半数を超えたことが使われていますが,この世論調査にも実は「サマータイム法」という用語の説明が不十分だとか(無回答や「わからない」がかなりあるので),「OECD諸国の中で導入していないのは日本と韓国とアイスランドだけですが,我が国でも…」と威光効果を使って回答を偏らせているという問題点があります。
- 小テスト回答例(1−C)
- ダブル・バーレルになっています。家庭教育と学校教育は論点が違います。改善例としては質問を2つに分けて,「あなたは,家庭教育の質の低さが少年非行の原因だと思いますか? それともそうは思いませんか?」「あなたは,学校教育の質の低さが少年非行の原因だと思いますか? それともそうは思いませんか?」ともに,(強くそう思う,どちらかといえばそう思う,どちらともいえない,どちらかといえばそう思わない,まったくそう思わない,わからない,から1つ選択)とすればいいと思います。
- 小テスト回答例(1−D)
- これもダブル・バーレルになっています。「日本人は討論が苦手」「日本人は組織を民主主義的に運営する能力に欠ける」は別々の意見ですから,分けねばなりません。細かく言えば,「なので」で繋がれているので,その論理関係も「意見」に含まれるかもしれません。改善例は,「あなたは,日本人は討論が苦手だと思いますか? それとも得意だと思いますか? (苦手,どちらかといえば苦手,どちらともいえない,どちらかといえば得意,得意,わからない,から1つ選択)」「あなたは,日本人は組織を民主主義的に運営する能力が十分にあると思いますか,不足していると思いますか? (十分にある,どちらかといえばある,どちらともいえない,どちらかといえば不足している,不足している,わからない,から1つ選択)」「あなたは,討論の能力と組織を民主主義的に運営する能力には関係があると思いますか? それともないと思いますか? (関係あると思う,どちらかといえば関係あると思う,どちらともいえない,どちらかといえば関係ないと思う,関係ないと思う,わからない,から1つ選択)」の3つに分けることが考えられます。
- 小テスト回答例(1−E)
- 「地域」という言葉は,階層や環境によってイメージするものが違います。改善例は,「あなたは,あなたの住んでいる都道府県に愛着をもっていますか? それとももっていませんか?(強くもっている,どちらかといえばもっている,どちらともいえない,どちらかといえばもっていない,まったくもっていない,わからない,から1つ選択)」などとなります。
- 小テスト回答例(2)
- パタンAは問題ないです。パタンBは上記の通り,用語に問題があって,"yes" tendencyが出そうな問題があります。
第9回「尺度,信頼性,妥当性」(2001年6月14日)
講義概要
- 尺度
- ●尺度とは,測定に用いられるモノサシである。
- 尺度の種類
- ●狭義の尺度(scale):調査の各項目の値の一次式(合計得点のような場合が多い)
- ●指数(index):一次式以外の代数式(比など)
- ●指標:例えば,文化程度が砂糖消費量で測られるというとき,砂糖消費量は文化の指標である。
- ●どの尺度についても,信頼性(reliability)と妥当性(validity)を備えていなくてはいけない。
- 信頼性:その尺度によって特定対象から同じ結果が繰り返しえられること。test-retest reliabilityでは,折半法でスピアマン・ブラウンの公式(α=2r/(1+r),rは相関係数)を使って信頼性係数(クロンバックのα係数,α=
(K-1)/K(1-Σsi2/st2)K/(K-1)(1-Σsi2/st2),Kは項目数)を求めることが多い。(2001年6月28日注記:森岡清志「ガイドブック社会調査」日本評論社,1998のp.192の式が間違っているのをそのまま写していたので,間違っていた。実際には統計パッケージの出力を使うことが普通で,手計算などしないので,誰も「ガイドブック社会調査」の誤りを指摘していないのだと思われる)
- 妥当性:その尺度が測定したい事柄を正しく測定できていること。内容的妥当性(測定したい概念が含む下位概念を,その尺度が全て包摂している場合に内容的妥当性が高いという),基準関連妥当性(その尺度と構成概念または理論的に関連する概念を測定している,信頼性と妥当性が確立している他の尺度を基準とし,その尺度と基準との関連が高いときに基準関連妥当性が高いという),構成概念妥当性(設定した構成概念を本当に測れているかどうかについての妥当性。ただし,簡単なチェック方法はない)がある。
- 狭義の尺度のいろいろ
- 任意尺度:社会経済的地位尺度(チェイビン,1928年),ポイント尺度,序列尺度,評定(品等)尺度,文章尺度
- 判定尺度:等現間隔尺度を含む
- 内的一貫性尺度(項目分析,尺度分析,因子分析などにより得られる)
- 予測的尺度
- 第二種尺度:評定法,序列法,一対比較法,社会的距離尺度など
- 測定の水準による尺度のいろいろ
- 名義尺度(nominal scale):たんに対象の異同のみ示す
- 順序(順位)尺度(ordinal scale):異同に加え,その測定値が大小,上下等の順序関係を示す
- 間隔尺度(interval scale):測定値間の差が対象間の違いに1対1対応(摂氏温度など)
- 比(比率)尺度(ratio scale):絶対的な原点が存在し,何倍という比を考えることに意味がある(収入,耕地面積など)
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- 小テストについて
- ●採点基準は? → ○,△,×の3段階を予定しています。
- ●そのものは返って来ない? → 採点が終わってから返します。
- ●挽回可能? → もちろんです。
- ●(2)でカイ二乗検定をしたときの期待度数の計算方法 → 質問パタンと回答が独立(無関係)なら,例えば,質問パタンAで支持と答える人の人数は,質問パタンAに答えた人の人数に,両質問合計で支持と答えた人の割合を掛けた値になることが期待されます。
- 「どちらともいえない」の影響はない?
- 入れないと本当にどちらともいえない人を無理やりどちらかに分けてしまうことでバイアスが生じますし,入れると,本当はどちらかに偏った意見をもっている人の判断を「どちらともいえない」に取り込んでしまうことでバイアスが生じる可能性があります。一長一短です。入れるべきかどうかは質問項目次第です。
- 折半法と信頼性の計算が難しかったので例示希望。
- 多くの概念は直接聞き取ることができないので,複数の質問を組み合わせることによって対象者の差異をより細かく把握しようと試みることになります。例えば,自然への親近感を聞き取りたい場合,(1)あなたは自然が好きですか? 嫌いですか? (好き,どちらかといえば好き,どちらかといえば嫌い,嫌い)だけでは対象者は4群にしか分かれません(順序尺度として数値化すると,好きを4点,嫌いを1点として1点から4点の4段階になります)。しかし,(2)休日に海や山で過ごすのと映画館や遊園地で遊ぶのとどちらが好きですか? (海や山,どちらかといえば海や山,どちらかといえば映画館や遊園地,映画館や遊園地)を加えて,これも「海や山」を4点,「映画館や遊園地」を1点とする順序尺度として扱うことにすれば,(1)と(2)の回答の合計点を計算すると,2点から8点までの7群に回答者が類別される可能性があり,より細かい把握が可能になるわけです。さらに(3)無人のジャングルで野生生物の観察をする仕事に魅力を感じますか? それとも感じませんか? (感じる,どちらかといえば感じる,どちらかといえば感じない,感じない)の4点を加えると,3点から12点までの10段階になります。
- これらは同じ「自然への親近感」という概念を構成する項目(下位概念)として聞き取られているので,互いに回答が同じ傾向になることが期待されます。つまり(1)で好きと答えた人なら,(2)では海や山と答える人が多いだろうし,(3)では感じないと答えるよりも感じると答える人が多いだろうと思われるわけです。同じ概念を構成する質問に対して同じ傾向の回答が得られれば,その質問群は信頼性が高いと考えられます。
- 複数の変数(項目)の関連をみる指標の1つに,相関係数というものがあります。変数xと変数yの相関係数rxyは,i番目の人のxに対する回答をxi,yに対する回答をyi,xについての回答の平均値をX,yについての回答の平均値をY,総回答者数をnと書くことにすれば(^は累乗を表す記号で,^2と書けば二乗,^(1/2)と書けば平方根という意味になります),rxy=sxy^2/(sx sy),但しsx=(Σ(xi-X)^2/(n-1))^(1/2),sy=(Σ(yi-Y)^2/(n-1))^(1/2),sxy^2=Σ(xi-X)(yi-Y)/(n-1)として定義されます。相関係数は-1から1までの値をとり,まったく無関係なとき0となり,(xi,yi)をxy平面にプロットしたときに完全に傾きがプラスの直線に乗るとき1となります。
- 上記3つの質問に対して一貫した答えが得られたかどうかを調べる方法の1つに折半法があります。例えば質問(1)と(2)の合計点の変数xと質問(3)の点の変数yという具合に,同じ概念を構成する全質問を2つにわけて,xとyの相関係数をrとすれば,これらの質問の信頼性係数αは,α=2r/(1+r)となるというのがスピアマン・ブラウンの公式です(ふつうは,奇数番目の項目と偶数番目の項目に二分します)。
- しかし,(1)の点と(2)と(3)の合計点という分け方もあるわけで,下位概念が3つ以上ある質問だったら,これらの回答に一貫して同じ傾向があるかどうかをスピアマン・ブラウンの公式で出そうと思うと,αの値はいくつも(n項目だったらn項目を2つに分ける組み合わせの数だけ)計算されます。それをまとめてしまおうというのがクロンバックのαで,仮に(1)(2)(3)の合計得点が「自然への親近感」を表す変数xtだとして,(1)(2)(3)の得点をそれぞれ変数x1,x2,x3とすれば,クロンバックのαは,α=
(3-1)/3 (1-(sx1^2+sx2^2+sx3^2/sxt^2)3/(3-1) (1-(sx1^2+sx2^2+sx3^2/sxt^2)として計算されます。クロンバックのαが0.8以上なら十分な,0.7でもまあまあの,内的一貫性(信頼性)がその項目群にはあるとみなされます。なお,クロンバックのαは,考えられるすべての組み合わせについてスピアマン・ブラウンの公式で計算されるαを求め,その平均値をとった場合と,同じ値を示すものと考えられます。
- 構成概念妥当性の説明を詳しく希望。
- 上の例でいえば,自然の中で遊ぶことは好きでも観察が嫌いな人はいるはずで,(3)の回答は「自然への親近感」という概念を構成するものとして適当でないかもしれません。その場合に,(1)から(3)の得点の和を「自然への親近感」という尺度として用いることは,構成概念妥当性が低いといいます。つまり,ある概念の構成概念を理論的に明確に定義し,その定義と測定されている内容が異なる場合に,構成概念妥当性が低くなります。しかし,これを簡単にチェックする方法はありません。
- 予測的尺度の説明希望。
- 社会調査における予測とは,歴史的文化的条件が変化しないという仮定のもとに,既知の特性から未知の特性を推測することをいいます。その職業に適応して成功するかどうかの予測,結婚生活がうまくいくかどうかの予測,仮釈放すべき囚人が釈放後再犯するかどうかの予測といったものがあります。例えば仮釈放の予測の場合,既に仮釈放されてから数年たった集団をテストグループとして考えると,その中には再犯した者と再犯していない者が混ざっているはずです。このとき,過去の記録を調べて関連を分析すれば,再犯に関連している変数を見つけ出すことができます。例えば,性別,過去の犯罪が単独犯か集団犯かということ,前科の数,身寄りの人数などが関連していることがわかったとします。こうして関連がわかった多くの因子に適当な重みをつけて合計することで,再犯可能性スコアのようなものが得られます。テストグループでは,再犯した者で再犯可能性スコアが高くなっているわけですが,同じスコアをこれから釈放しようとしている囚人に適用すれば,スコアが高いものは再犯可能性が高いので仮釈放しないという判断を取ることもできます。この例でいう再犯可能性スコアのようなものが,予測的尺度です。
第10回「非数値データの扱い方」(2001年6月21日)
講義概要
- 家系図
- 人類学ではとくにそうだが,社会がどのように構造化されているのか,それが経済的,政治的,儀礼的にどのように機能しているのかを知るには,ユニットとしての家族の把握と,親族関係の把握は基本。
- 図示の方法は,W.H.R.リヴァーズ「系図法」1910年初版に始まる。最小限の関係の組み合わせで聞き取り。
- 今日の親族図の基本:血族と姻族,擬制的親族(養子など)を含む。男が△,女が○。死者は斜線を入れる。記載の中心(EGO)を塗りつぶし。結婚は=。離婚はそこに斜線を入れる。定位核家族と生殖核家族は実線と点線の○で囲んで区別。目的によって名前や生年月日を入れる。
- 社会的地図
- 調査で得られた複数の情報を集約して図示するもの。
- (例1)集落の各戸を示す地図の上に,同族,隣組,葬式組などを書き込んでいく
- (例2)地域社会の地図上に非行の頻度を書き入れ,関連施設との関係をみる
- (例3)農地改革前の耕地所有面積と現在の経営耕地面積をそれぞれカテゴリ化してクロス表をつくり,そこに戸数ではなく,各世帯番号を組合加入とか本家筋といった情報とともに書き込む
フォロー
- 折半法と信頼性の例示としては3つの質問があったが,増やせば信頼性は上がるか?
- もちろんそういう場合もあります。ただ,一般に項目を増やせば信頼性が上がるとは限りません(研究分野によっては,項目を増やすと信頼性が上がるのが普通な分野もあります。例えば,池田央「調査と測定」(新曜社),1980を参照)。
- 前回の例では,むしろ,回答を4段階でなく10段階のスケールにすれば,多少信頼性が上がったかもしれません。
- 「自然への親近感を聞き取りたい場合の信頼性が高いと思われる尺度は?」という質問もありましたが,これだという決定版はわかっていないと思います。
- クロンバックとスピアマンが一致しないときは?
- 計算が間違っているので計算をし直してみましょう。前回の説明で使った数値計算を含むPDFファイルを作ってみましたので,参照してください。なお,クロンバックのαの数値計算結果が小さくなりすぎていたのは,森岡清志「ガイドブック社会調査」(日本評論社)に掲載されている式が間違っていたからであることがわかりました(上記PDFファイルでは直っています)。間違った式であることに気づかずに説明して申し訳ありませんでした。通常は統計パッケージの結果を使い,手計算などしないので,式の間違いに気づかなかったのです。
- 家系図だと思っていたのが実は親族図だったことがわかった。家系図って?
- 親族図の方が多少概念が広いのですが,ほぼ同じものです
- 他の講義で地図のことをやったので,GISは自分でも有効利用できそうだと思った。
- 誤解があると困るので言っておくと,社会的地図はGISだけではありません。もちろん,GISソフトは社会的地図を作るのに利用できますが,空間配置情報をまったく含まない社会的地図もあります。
- 社会的地図を作るのに参考になるWEBサイトは?
- とてつもなく高価な世界標準のGISソフトでArcInfoというものがありますが,その機能のごく一部を無料で使えるようにしたArcExplorer Jというソフトがパスコ社のサイトから入手できます。緯度経度ごとに複数の情報をもった正確な地図が見られます。
第11回「調査の計画と準備・立案・現実化」(2001年6月28日)
講義概要
- 調査計画の準備,立案,現実化
- これまでの講義で概ね話したので,今回はそれを復習するつもりで小テスト。素材選定から立案までは第2回と第3回でかなり話したし,目的の設定,サンプリングの方法,調査方法の選択,質問紙の作成など,これまでの講義で話したことを踏まえて考えればできるはず。
- 小テスト問題
- WHOが推進している「たばこ対策枠組み条約」を,もし日本が批准することになったとすると,実生活の上でさまざまな問題が起こると予想されます。
- あなたが人口24万のT市職員で,「枠組み条約」に関連した条例を制定するための基礎資料として,喫煙に関する意識調査を命じられたとします。実際に調査をするには,その計画書を作って認可を受けねばなりません。
- そこで,参考資料(川端裕人「タバコ問題を考え直す」,望星2001年5月号〜7月号)を見ながら,調査目的,サンプリング,期待される結果,質問紙の質問項目を含めた調査計画書を作成してください(まだ批准前の段階での調査とします。予算は十分に使えて,時間は市から指定されているけれども必要十分な時間があるものと考えてください)。
フォロー(解答例)
- 目的:
- 枠組み条約が受け入れ可能かどうか知るために,それがもたらす3つの大きな変化について,市民の意識を明らかにする
- サンプリング:
- 成年かどうかで層別し,住民基本台帳から大きめにランダムサンプリングし,さらに喫煙の有無をきいて,喫煙群と非喫煙群別々に第2段階のランダムサンプリングをする
- 質問項目:
- 以下の各項目について受け入れられますか,それとも受け入れられませんか?(すべて回答は,例えば3段階または5段階の評定尺度で)
- タバコ税の引き上げについて
- タバコ広告の禁止について
- タバコ自動販売機の設置禁止について
第12回「統計的研究資料のデータ化」(2001年7月5日)
講義概要
- 統計的研究資料をデータ化するための3つのステップ
- エディティング
→とったデータ(質問紙の回答など)のエラーチェックをしてコーディングできる状態にする
- コーディング
→コード表(調査票上の回答カテゴリーと入力すべきデータとの項目ごとの対応表)をつくる。データ形式も記載することが多い
→コード表に基づいて調査票にコードを振る:最初の項目はIDとし,それ以降の項目は調査票どおりの順序にするのがよい
- データエントリー
→振られたコードをデータとしてコンピュータに入力する。エラーチェックが必要(理想は2回入力して比較)。
- エディティング
- 記入漏れや不完全,不明な回答項目がないかチェックし,誤記を訂正する作業をエディティングと呼ぶ。
- エディティングは2回(調査中と調査完了後)行うのが望ましい
- 必要に応じて再調査し,判読不可能な記載や誤記があれば調査員に確認(自分で調査した場合はフィールドノートやテープ記録などを参照)して,訂正,明確化するなどの処理を行う
- 論理エラーチェックはデータエントリー段階でもするが,ここでもしておいた方がよい。
- 実際に練習(配布資料の右半分で)
- コーディング
- 項目順に回答カテゴリーとそれに対応したコードを示すコード表を作る。
- 調査票の上で回答になんらかのカテゴリー化がされていれば,単純にそれに対応したコードでよい(プリコード質問なら省略可)
- カテゴリー化されていない場合は,すべての調査票をみて,どのようにカテゴリーを設定するかを決定する(いったん,文字情報をそのままコードとして入力し,コンピュータにコードを振らせる方法もある)。
- 欠損値(NA,DK,非該当)には,回答カテゴリー外のコードを与える。枝分かれ質問の場合に欠損値の中身の区分も重要になる
- 複数回答の項目については,複数の項目に分解して,各々を2値データとしてコードを振るのが普通。
- コード表のサンプルを提示して,実際に練習(配布資料右半分で)
- データエントリーの方法
- ●表計算ソフト(Excelなど)
- 簡便,見通しが良いが範囲チェックなし
- 表形式にならないデータは入れにくい
- ●テキストエディタ(Wz,xyzzyなど)
- 入力しにくい
- データ形式(固定長またはCSV,タブ区切り)には汎用性が高い。
- 途中でコンピュータがハングアップするなどしても,部分的に救い出せることが多い。
- メールでデータを送ったりするのが容易。
- ●データベースソフト(Accessなど)
- フォームを作るのが多少面倒
- 調査票と同じく対象者1人分を1画面に入れて入力できるので紛れが少ない
- 範囲チェックも入力時に可能
- Accessだとデータ形式が専用なので,パソコンがハングアップした場合などに救い出しにくい。
- ●HTML+CGI
- HTMLやCGIを書くのにスキルが必要(ただし使い回しが効く)
- HTMLで1人分のデータを1画面に収めるようにデザインすれば,入力はしやすい
- データ形式はCGIの設定次第
- 範囲チェックもCGIで可能
- Apache for Win32やActive Perlなどを使えば比較的非力なパソコンでも動作が軽快。サーバに設定すれば,離れた場所からでも入力できる
- お薦め。
フォロー
- エディティングの作業を行うとき,人によって誤記の訂正が異なることが起きたらどうする? すべて調査員が訂正した通りになる? 例えば調査員1人と他の人4人がエディティングをしていて,調査員が(1)だと思っても他の4人が(2)だと言った場合はどちらの意見が通るか? 再調査か?
- 丸の位置が微妙だったりする場合は再調査か,NAにします。もっと質的なエディティングだったら,そもそも調査員以外の人にはできません。
- エディティングは「調査中と調査完了後の2回行うのが望ましい」というときの,「調査中」とは,調査がすべて完了する前ということ?
- そうです。普通は,毎日帰ってきたら夜なべ仕事でエディティングをしてしまうのがいいとされています。
- ダブルエントリーで2人とも間違ったら?
- 2人が同じところを同じように間違える可能性は低いので,データファイルには両方の違いがでます。
- 提示されたコード表において,Q2,Q6のDK,NAは,なぜ9?
- 欠損は全てマイナス1でもいいのですが,回答が2値とわかっていれば9にすると入力が1桁で済むので便利だというだけの意味です。
- カラムは今は必要ないとの話だったが,以前は何のために使っていた?
- 以前は統計ソフトが固定長データしか読めなかったので,カラム単位で入力する必要があったのです。パンチカードという記録手段と,それを読み書きしていたFORTRANというプログラム言語の特性のためだったと思います。
- テキストエディタのエディタとはどういう意味?
- 編集する道具という意味です。
- 後期でも統計をするそうだが,統計って何?
- 複数の値を見やすくまとめたり(記述統計),値の間の関係をしらべたりする(仮説検定)技法です。
- エディティングは見直しと似ていない?
- そう,要するに,回答者の回答を見直して,不適切な回答を訂正するということです。
- エディティングはよくわかった。コンピュータの上でデータ化した時以外にもすることはある?
- コンピュータがなかった頃は集計表というものを作って手計算していました。今では手計算で統計処理をすることは,まずありえません。
- エディティングで誤記を再確認するとあるが,欠損値に入れてはいけない? 欠損値はなくした方がいい?
- デザインのとおりに聞けないということなので,欠損値が多いのはよくないです。どうしても再調査が不可能なときは欠損扱いするしかありませんが。
- エコポイントチェックで1時間毎に自動集計というのは,結果はどう見える? また1日に何人くらいの人が回答してくれる?
- 1時間毎の集計というのは,Cで書いた集計プログラムをcronで自動的に実行させているだけです。結果は,WEB上でクリックすれば見えます
- コーディングのときの欠損値は結局後から外すとはどういうこと?
- 欠損値として入力しておかないと,入力し忘れている場合と区別できないからです。
- エクセルだとたしか表から円グラフとか作れると思うが,それも見たい。エクセルの使い方もできれば教えてほしい。
- 次週,報告書作成のときにやります。
第13回「調査結果の分析と報告書の発表」(2001年7月12日)
講義概要
- 分析の基本
- ・目的を明確にする
- ・記述統計を実施
- ・作業仮説を明示する
- ・仮説検定または区間推定を行う
- 記述統計
- ・単純集計(平均,分散,中央値,最頻値など代表値の計算)
- ・図示(視覚化=Power PointやGnuplotを使うとよい)
- 仮説検定または区間推定(SAS,SPSS,JMP,EPIINFO,Rなど統計ソフトを使う)
- ・変数間の関連の分析(クロス集計と相関係数)
- ・二群間あるいは多群間での,平均値の差の検定,比率の差の検定など。
- ・多変量解析
- 報告書の作成
- ・公表するという行為の意味
- ・一般的な構成(調査の目的・方法・実施体制,調査結果の概要,主要な傾向の分析,要約や結論,調査票,記述統計結果など資料提示)
- 報告書公開の方法
- ・紙媒体での関係者への配布
- ・出版(本あるいは論文として)
- ・WEBでの公開(データベースを含む)
- ・学会発表やマスコミへの発表
フォロー
- Power PointやGnuplotとはどんなもの?
- この講義でスクリーンに文字や図を表示するためにずっと使ってきたプレゼンテーションソフトがPower Pointです。Gnuplotは,数式やデータを手軽にきれいな図にでき,その図をさまざまな書式で保存できるフリーソフトです(GNUPLOT日本語化・機能拡張 (PLUS-enhanced) パッチ公式サイト)。
- 報告書は完成する前に書いた方がいい?
- 完成に時間がかかるようなら中間報告も必要ですが,普通は完成した報告書を発表すればいいと思います。
- SAS,JMPなどの統計ソフトを実際に使用してみたかった。
- JMPはライセンスの関係から,たぶんデモすることしかできませんが,後期の社会統計学ではRという統計のフリーソフトを実際に使ってもらうつもりです。
- マスコミ公開された報告書が一番正当性があるんですか?
- そんなことはありません。内容について,学問としての正当性を保証する公開手段としては,学会誌掲載の論文にするのが一番です。次が本としての出版でしょう。ただ,多くの人の目に触れるという意味で,マスコミ公開することは,公開性は最も高いといえます。
- 他でも役に立って良かった。
- 社会調査について知っておくことは,社会人として生活していく上でのメディア・リテラシーとして万人に必要だと思うので,そう考えて貰えれば本望です。
- 社会調査,社会統計学というものは,私たち一般国民にとって何が,なぜ,どのように,役に立つ(生活,政治,経済,国際関係等)のか? 抽象的でなく,誰でも分かる具体例で答えて欲しい。
- 上述の通り,これからの社会生活では,メディアや情報に騙されないための見識が必要になると思います。例えば,内閣支持率が80%とかいうマスコミ発表を鵜呑みにせず,それが「支持する」と「どちらかといえば支持する」を合せた値だったことに注意できることは,情報に流されないために重要です。これからの世の中は,いろいろな問題が複雑化するので,自分で情報の価値を判断できる能力がますます重要になってくると思います。