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書評:本間 龍『ブラックボランティア』(角川新書)

更新:2018年7月29日

書誌情報

書評

ロス五輪以降,アマチュアスポーツの祭典というよりは多くのスポンサーから資金を集めた巨大商業イベントと化してしまったオリンピックで,数千億のカネを既に集めている組織委員会が,上層部役員やイベントを仕切る電通は給料を貰っている一方で,11万人もの無償ボランティアを募集し,やり甲斐搾取を目論んでいる点や,全国紙や系列テレビ局さえもスポンサーなど運営側に入ってしまっているせいで批判記事が出ないことを鋭く批判し(東京新聞,信濃毎日新聞,西日本新聞など,スポンサーになっていないところは本質的批判記事を書くことがある),ボランティアとはそもそも自由意志で行うという意味であって無償でなくても良いことを,世間どころか組織委員会広報さえ理解していないことを指摘し,さまざまなデータや文献を示しながら,若者よ,タダボラに応じるな,と極めて明快な主旨を展開している本。

ぼくも以前から東京オリンピックは反対だし(東京オリンピックは秋開催に!参照),本間さんが書かれていることには概ね賛成だし,本書にはいろいろなデータや推定値が載っていて参考になる。

ただし結論部分だけは同意できない。p.192に「最後に結論を言おう。組織委は,真夏の酷暑下でも責任感と誇りをもって働いてくれるボランティアを集めるために,全員を有償とし,交通費と宿泊費を支給すべきである……(中略)……どうしても有償化しないのなら,もう一般からのボランティア募集などやめて,スポンサー企業やマーケティング専任代理店として巨額の収益をあげる電通などから,社員をボランティアとして派遣してもらう形にすべき」とあって,これはもちろん組織委員会の核心的利益として本間さんが挙げている2点の後の方に牴触するから,どうせできないだろうというレトリックかもしれないのだが,ぼくの視点では,有償でも真夏の開催は認められない。

責任感と誇りをもって働いてくれる人は,たとえ有償でも酷暑の環境下で無理をして熱中症になる危険がきわめて高い。有償にするとか社員を派遣してもらうとかでは,救急がパンクするリスクはまったく解決しない。救急がパンクしたらオリンピックとまったく関係なく他の急病や大怪我をした人も必要な医療を利用できなくなるわけで,人道的にそんなことは許されない。

ぼくの結論としては9月末~10月に延期するか,さもなくば返上するしかない。組織委員会から正式に「招致の時は嘘をつきましたが酷暑でスポーツ大会を運営できる環境ではなく,強行すると多数の熱中症等の被害者が出る可能性が高く,そうなったらオリンピックの長い歴史に泥を塗ることになり,致命的なイメージダウンになるため,強行できません。賠償金が必要なら払いますから9月末~10月に延期させてください」とIOCにお詫びして延期を許してもらうしかないと思う。IOCやスポンサー企業(世界に13社しかないワールドパートナーの中にはコカコーラも入っているし,パナソニック,トヨタ自動車,ブリジストンと日本企業も3社入っている)にまともな理解力と判断力をもった人がいれば理解されるはずと思うが,如何だろうか。

【2018年7月29日,2018年7月26-27日の鵯記より採録し再構成】


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