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書評:新井紀子『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社)

最終更新:2011年1月17日

書誌情報

書評

名著『生き抜くための数学入門』を書かれた数学者の新井紀子さんの新作なので,そこらのビジネス書とは一線を画するものであろうと思って,本屋で見かけて衝動買いしたわけだが,これも名著であった。

書かれた意図については,とりあえず,著者による紹介文を読んでいただくとして,「はじめに」は,中学生以上くらいなら,世の中の全ての人にとって読んでおくべき内容だと思う。当然,我が子らにも読ませるつもりだ。

途中まで読んだ印象では,この本は,坂村健『痛快! コンピュータ学』やAlan W. Biermann(和田英一訳)『やさしいコンピュータ科学』で書かれていた,コンピュータが動作する仕組みや,コンピュータができることとできないことを,噛み砕いて,かつ今日的な発展も踏まえて説明した上で,そのことの社会へのインパクトに思いを巡らせ論じたものといえると思った(最後まで読んだら,さらにプラスアルファがあった)。噛み砕き方のクリアさも流石だ。

中盤,言葉が技術の限界を決めてしまうことがあるという主張は,故鈴木継美先生が『人類生態学の方法』で書かれていた「生態学的複合」における,「言語」の役割の一歩先を行っていると感じた。そして,確かに現代社会を考えれば,その主張には一理あると思う。つくづく凄い本だと思う。気になったところを折り曲げながら読んでいるのだけれども,いま読んでいる中盤は,すべてのページが折り曲げられていて,折り曲げる意味がなくなってしまうほどだ。

終盤,絶対に解かなくてはいけないとき,数独を選ぶ人とクロスワードパズルを選ぶ人には,論理が得意か暗記が得意かという違いがあるのではないかという推論をし,歴史や地理,高校までの生物を,暗記科目として触れている点は,間違ってはいないが現状追認であり,科目としての可能性はもっとあるのではないかと感じた。歴史や地理だって,丸暗記しようと思うから難しいので,論理的に歴史の流れを解釈したストーリーを理解することができれば,数学者にもわかる科目になりうると思うが,どうだろうか。そういう教えられ方をした記憶はないが,人文地理と自然地理を統合することもできるような気がする。

後は,折り曲げたところについて,細かく触れたいのだけれども,時間が無いので,とりあえずここまででアップロードする。ともかく,最初に書いたとおり名著なので,是非多くの人に読んでほしいと思う。

【以上,2011年1月17日,最近のメモから収録し加筆修正】


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