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書評:菊池聡「超常現象の心理学」,平凡社新書

最終更新: August 18, 2005 (THU) 18:34 (書評掲示板より採録)

書誌情報

書評

現代は情報過多の時代であり,情報の取捨選択が必要になっている。とはいっても,どういう基準によって取捨選択すればよいか,どう解釈したらよいかということは,自明ではない。ぼくが思うのは,なるべく多くの視点から,論理的に考察して,包括的な判断をすべきだということである。一つの視点に固執すると,カルト宗教にはまったり,ファシズムを支持したりと,ろくなことにならないのは歴史が証明している。

そうはいっても,多くの視点から論理的に考察することは容易ではないし,思考方法を訓練しなくてはいけないから,外から与えられた一つの視点に判断を預けるという安直な道に,人は流れがちである。Japan Skepticsの会員でもある著者は,一見尤もらしくみえて納得してしまいそうな,オカルト的世界観を,明確な事例と論考によって,一つ一つ打破していく。本書で打破されるのは,空飛ぶ円盤であり,霊視であり,血液型性格判断であり,占いである。とくに第4章,第5章で展開される自称霊能者との対決は,語り口も含めて面白い。fjなんかの文化に慣れ親しんだ人なら,知っていることが多いのだが,本書に書かれている程度のことは,現代人の情報リテラシーとして必須ではないかと思う。第1章で安易なプラス思考の罠について触れられているが,フナイ本などを愛読して元気を奮い立たせているような,ビジネスマンの人にこそ,本書を是非読んでいただきたい。

客観的事実と「こころの真実」の問題,非科学としての臨床心理学の有用性についての論考も,一読の価値はあると思う。癒しのアートとしての臨床心理学が占いとどう違うのか,と論じた第9章で,臨床心理士は精神的・肉体的疾患の可能性を念頭に置いて,その場合には適切な対処ができる点が違うと書かれていたのには納得した。惜しむらくは,「現実に疎い心理学の専門家」という小見出しの下に書かれている文章のつっこみが,今ひとつ甘いことである。逃げているように思えて,不満が残る。資格と設置基準とかにも踏み込んだ考察が欲しいところであった。

【2000年1月6日記】


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