書評:野尻抱介『天使は結果オーライ』

最終更新: March 12, 2010 (FRI) 10:19 (旧書評掲示板ファイルから再現)

書名出版社名
天使は結果オーライ富士見ファンタジア文庫
著者名出版年
野尻抱介1996

書評

やっと入手できた(なかなか売っている本屋がなかった)。「ロケットガール」の続編である。簡単に言うと,女子高生が日本が開発した小型ロケットに乗って宇宙に行って米露の鼻をあかす,というストーリーである。ロケットや宇宙の話は綿密な検証に基づいて書かれており,作者の熱意を感じる。物語としてのサスペンスの盛り上げもうまいので,手に汗を握りながらどんどん読めてしまう。

でも,きっと作者が本当に描きたいのは宇宙に憧れる心である。冥王星探査機オルフェウス救出ミッションでの茜の「すごいよ,ゆかり。後ろ──」という言葉から始まる描写など,素朴に感動する。

(以下,本質とは違う部分での批判のため改行)























それにしても,物理系の詰めの綿密さに比べ,生物系の無茶苦茶さはひどすぎる。なんでソロモン諸島にオランウータンがいるのか。ウォーレス線ってものを知らないのだろうか? リスがいるなんて話は聞いたこと無いぞ。低地フタバガキ林の描写などから察するに,インドネシアと混同しているのだろうが,それなら舞台をインドネシアにしてくれれば良かった。前にも書いたがヒトの栄養生理学もほとんど無視しているのは大変不満である。

……っていうか,そこらをきちんと書いたところで,この物語の美点はいささかも傷つくことはないのだから,詰めないのは作者の手抜きに他ならないと思うのだ。まあ,書きたくないものは書かないというのが作者のポリシーらしいので文句をつけても仕方ないのだが,ソロモン諸島を舞台にするならソロモン諸島への愛も少しはもって欲しい。ソロモン諸島を愛するぼくの言いたいことは,そこに尽きるのである。

【Jan 02 (sat), 1999, 14:16記】


リンクと引用について