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老人保健

最新の更新: June 15, 2009 (MON) .

高齢者を対象として定められた法制を概観し,高齢者ならではの保健における諸問題を考える。

参考文献

老人とは

老化

加齢と老化(aging)
加齢はすべての生物に見られる,時間の経過とともに起こるすべての変化を指す。
老化は時間の経過とともに強まっていく,不可逆的な退行性・有害性の変化を指す。
老化の特徴は,(1)心身に有害性,(2)進行性,(3)内因性,(4)普遍性である。
老化のプロセス
形態的変化:老化に伴い,脳,胃,肺,筋肉など,ほとんどの臓器や組織が退縮(ただし脂肪組織や膠原線維は増加)。白髪,はげ,皮膚のしわなども形態的変化である。
機能的変化:各種生理機能(基礎代謝,核酸の新生や修復,反応速度,眼調節能力,聴力,呼吸機能)低下,運動機能(筋力,バランス能など)低下,認知機能(アフォーダンスの知覚を含む)低下等。バランス能の低下やアフォーダンスの知覚の実際の運動機能とのズレは高齢者に転倒事故が多いことと関係していると言われている。
*どちらの変化も進行には個人差が大きく(それゆえ,人格を尊重することがとくに重要であって,低能力者扱いをしてはならない),なるべく機能低下を起こさないような老化の仕方がサクセスフル・エイジングであるとされている。アンチエイジングにも通じる(cf.『NPO法人アンチエイジングネットワーク』の掲げる五ヶ条,(1)いくつになって男と女,(2)肌の若返りは心の若返り,(3)バランスのよい食事と適度な運動,(4)よく笑い,よく話し,そしてよく噛む,(5)長生きこそ最大の誇り; 小林2004)(cf2. 文藝春秋臨時増刊号『長寿と健康 いのち大切に』に寄稿した多くの人が貝原益軒『養生訓』などを挙げ,老化が進行しないような加齢の仕方を主張している)
*生物学的な老化に加え,社会経済的変化もあるので,それを含めたフレームワークがSeemanとCrimminsによって提案されている。
老化のフレームワーク
老年症候群と廃用
老年症候群とは,体力低下,虚弱,運動機能低下,転倒,骨関節痛,頻尿,尿失禁,低体重,低栄養,めまい,聴力低下,視力低下,認知機能低下,うつ,不眠,誤嚥など,加齢に伴って生じる,相互に関連しあっている症状であるが,予防も治療も可能なので,高齢者一人一人を全人間的な視点からケアすることが重要とされる。
廃用とは,加齢に伴って心身の活動性が低下し(生活が不活発になる),心身の機能がさらに低下することを指す(p.280,表11-1を参照)。寝たきりの主要因となるので,介護予防は老化と廃用のスパイラルを断つことが目的である。

高齢化の人口学的実態

老人の健康

有訴者率でみた健康状態
●国民生活基礎調査で調べられている,病気やけが等で自覚症状のある者の割合を有訴者率という。通常,人口千対の数値で表す。
●2004年の年齢階級別集計でみると,15〜24歳では男性171.4,女性236.1であるのに対して,65〜74歳では男性427.0,女性493.1となり,75〜84歳では男性514.0,女性552.9,85歳以上では男性538.4,女性525.3と,ほぼ半数が何らかの自覚症状をもっているといえる。
●自覚症状の内訳は,全年齢では,多い順に腰痛,肩凝り,手足の関節痛,せき・たん,身体がだるい,であったが,65歳以上に限ってみると,腰痛が1位なのは共通しているが,手足の関節痛が2位に入り,3位の肩凝りに続いて,物忘れや目のかすみといった老人特有の症状が上がってきた。
8020運動
●80歳で20本以上の歯を保つことを目標とした運動。

「8020(ハチ・マル・二イ・マル)運動」は、「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という運動です。愛知県で行われた疫学調査の結果などを踏まえ、平成元年(1989 年)、厚生省(当時)と日本歯科医師会が提唱して開始されました。

「8020」のうち、「80」は男女を合わせた平均寿命のことで「生涯」を意味します。

一方、「20」は「自分の歯で食べられる」ために必要な歯の数を意味します。今までに行われた歯の本数と食品を噛む(咀嚼)能力に関する調査によれば、だいたい20本以上の歯が残っていれば、硬い食品でもほぼ満足に噛めることが科学的に明らかになっています。

出典:http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-01-003.html

●平成12年12月1日に(財)8020推進財団[http://www.8020zaidan.or.jp/]が設立され,8020運動の推進,口腔と全身との関係に関する情報の収集・提供・調査研究などを主な柱として活動している。
●歯を失うと,義歯が必要になったり咀嚼機能が低下したり会話が不自由になったりして,栄養状態や全身の健康状態にも悪影響を及ぼす(口角炎,帯状疱疹,口腔カンジダ症を起こしやすくなる)ため,歯周疾患やむし歯によって歯が失われることを避けるべきと考えられ,精力的にこの運動が続けられている。
●現状として,80〜84歳で一人平均残存歯数は,2005年に8.9で,そのうち健全歯は2.7に過ぎない。8020達成者は全体の21.1%。
要介護者
●日常生活動作(Activities of Daily Living; ADLと略される:移動,食事,排泄,入浴,着替え,整容を含む)に支障を来たした高齢者は,介護を要する。介護保険法で,医師の診察結果を参考にして要介護度が認定されるようになり,2006年度末で介護保険認定者は全国で440万人である。
●要介護となった原因は脳血管疾患(2004年国民生活基礎調査によると全体の25.7%),高齢による衰弱(同16.3%),骨折・転倒(同10.8%),認知症(同10.7%),関節疾患(同10.6%)などである。脳血管疾患は男性に多い。
●認知症(pp.283,図11-3参照):後天的な脳の器質障害による知能の持続的低下。社会生活や日常生活に支障をきたす。要介護認定者中の認知症の人は2002年に149万人。加齢とともに有病割合が増え,85歳以上では4人に1人以上。2020年推定人数は289万人。
●ひとたび介護を要するようになると社会への負荷が大きいので,その予防(介護予防:既に要介護となった人の重症化を防ぐことも含む)が重要といわれている。
健康寿命(Healthy Life Expectancy)
●あるレベル以上の健康状態での期待生存年数を健康余命という。ゼロ歳におけるそれを健康寿命(Healthy Life Expectancy at Birth)という。
●一般にはADL遂行に支障のない平均余命を生命表から計算する。
●「あと何年,自立して健康に生きられるか」の指標。
●寿命≒健康で自立した生存期間(健康寿命)+疾病や障害をかかえての生存期間(DALYs)なので,現代医学の目標は前者を伸ばし後者を短くすること。健康日本21の目標も健康寿命の延伸。
※DALYs (Disability adjusted life years):障害調整生存年と訳される。WHOによると,DALYsとは,未熟な死亡により失われる生存年数(YLL)と健康状態への疾病発生により生じた障害のために失われた生存年数(YLD)の和である。DALYは未熟な死亡により失われる可能性がある潜在的年数(PYLL)という概念を完全な健康より少ない状態(広義の障害)において失われる「健康な」生存と等価な年数を含むように拡張することができる,健康格差の尺度である。1 DALYは,完全な健康状態での1年間の生存と等価な損失を意味する。

DALYs for a disease are the sum of the years of life lost due to premature mortality (YLL) in the population and the years lost due to disability (YLD) for incident cases of the health condition. The DALY is a health gap measure that extends the concept of potential years of life lost due to premature death (PYLL) to include equivalent years of 'healthy' life lost in states of less than full health, broadly termed disability. One DALY represents the loss of one year of equivalent full health.

その他の側面
社会生活、家庭生活、ソーシャル・ネットワーク
性生活
老人の受療状況
患者調査による受療率(人口10万あたりの受療患者数)では,2005年に全年齢で入院1145,外来5551だが,65歳以上だけみると入院3679,外来11948。入院の6割,外来の4割が65歳以上である。
65歳以上で多い疾患は,入院では脳血管疾患,悪性新生物,骨折,統合失調症,心疾患,外来では高血圧性疾患,糖尿病,心疾患,脳血管疾患,白内障である。
終末期医療と緩和ケア
●当初は回復の見込みがなくなった患者に対し,終末期の苦痛をやわらげるための医療という意味で,終末期医療と緩和ケアは類似概念であったが,近年は,終末期でなくても,苦痛を和らげる緩和ケアは医療の当初から考慮されるべきであるとされるようになった。

高齢者医療確保法(旧老人保健法)

ポイント(1)
医療費適正化について「基本方針」と「適正化計画」の策定・評価
ポイント(2)
特定健診(いわゆるメタボ健診)と特定保健指導の規定
ポイント(3)
後期高齢者医療制度を巡る諸問題(75歳以上をそれまでの医療保険から離脱させて新たに広域単位で独立した医療保険を運用させる。姥捨て論。「後期」という呼称のまずさ→見直し中「長寿医療制度」と福田元首相が言ってから審議会名などは変更。法律条文では変わらず)*終末期指導2000円は2008.7.1凍結

高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年8月17日制定,最終改正平成20年5月28日)の全文[http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S57/S57HO080.html]は,大変に長いので,通読するのは大変だが,非常にたくさんの内容が盛り込まれている。平成20年4月1日,後期高齢者医療制度施行に伴って現名称となり,それまでは「老人保健法」だった。以下,第1条から第3条だけ全文を引用しておく。

第1条(目的)
この法律は、国民の高齢期における適切な医療の確保を図るため、医療費の適正化を推進するための計画の作成及び保険者による健康診査等の実施に関する措置を講ずるとともに、高齢者の医療について、国民の共同連帯の理念等に基づき、前期高齢者に係る保険者間の費用負担の調整、後期高齢者に対する適切な医療の給付等を行うために必要な制度を設け、もつて国民保健の向上及び高齢者の福祉の増進を図ることを目的とする。
第2条(基本的理念)
国民は、自助と連帯の精神に基づき、自ら加齢に伴つて生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、高齢者の医療に要する費用を公平に負担するものとする。
2 国民は、年齢、心身の状況等に応じ、職域若しくは地域又は家庭において、高齢期における健康の保持を図るための適切な保健サービスを受ける機会を与えられるものとする。
第3条(国の責務)
国は、国民の高齢期における医療に要する費用の適正化を図るための取組が円滑に実施され、高齢者医療制度(第3章に規定する前期高齢者に係る保険者間の費用負担の調整及び第4章に規定する後期高齢者医療制度をいう。以下同じ。)の運営が健全に行われるよう必要な各般の措置を講ずるとともに、第1条に規定する目的の達成に資するため、医療、公衆衛生、社会福祉その他の関連施策を積極的に推進しなければならない。

リンクと引用について