枕草子 (My Favorite Things)

【第111回】 科学とクリスマス(1998年12月25日)

水曜日は年明けの発表の英文要旨を半分くらいまで書いた。この日は祝日なので論文執筆時間はなく,本来なら子どもの相手をするわけであるが,木曜が締め切りのため,子どもたちが昼寝に入った時間に大学に来たのだ。書評掲示板の恥ずかしいバグの指摘があってそれを直したりということもあったのだが,まあほぼ予定通りの進捗率であった。

帰宅すると岩波書店から科学1月号が届いていた。以前,掲載受理されたと書いていた「読者からの手紙」の掲載号であった。何であれ掲載は嬉しいことであるが,この手紙の場合は,このページに書いたことがきっかけとなっての執筆だったので嬉しさもひとしおであった。自分の原稿以外でも,松田良一「”ゆとり教育”は危険な実験」が警鐘を鳴らしていることはその通りだと思ったし,嶋本伸雄・杵渕隆「DNA上のタンパク質の滑り運動」の1分子観察の話は面白かった。森山和道さんのネットサイエンスインタビューメールで木下一彦さんが語っていらした一分子生理学で感じた面白さ以上に,図4の写真があるおかげで直観的に理解できた。熱力学第二法則に基づく微視的可逆性に矛盾が生じるのではないかという疑問とそれを解決するモデルの提唱まで話が進んでいくところ,実にダイナミックである。青木健一「性比と皮膚色とダーウィン」は,面白いところも多々あるのだが,ちょっと議論の中で仮定に無理があるところがあり,何度かひっかかった。例えば,「白い肌に対する好みが,欧州諸国による植民地支配の産物ではなく,古来から存在している性向なら,」という仮定以降の推論は無意味ではなかろうか。経験的には,植民地支配に代表される,欧米文化による土着文化の乗っ取りの影響が大きいことは明らかであるように思う。パプアニューギニアでもJesus Christは白人だし,地獄は暗黒,天国は光に溢れた白い世界で,天使の肌も服も白なのだ。マイケル・ジャクソンがなぜあんなにも肌の色を白くしたかったのかといえば,世界の文化的白人支配の影響を抜きにしては考えられまい。そのことの善悪はともかく,世界中でクリスマスを祝う習慣がこれだけ普及しているところを見れば,文化伝播は間違いないところであろう。さっきからInterFMを聞いているが,クリスマスソングが如何に多いかに驚かされるのと同時に,なぜ外国で2000年も前に生まれた人の誕生日をそんなにお祝いせねばならんのか,と天邪鬼的心境に陥らずにはいられない。いや,クリスマスソングには名曲も多いことは認めるけど。

昨日,木曜日には予定通り英文要旨は完成した。論文目標達成率は50%だったけれど,Alphaマシンにegcsのリリース最新版もインストールしたし,メールでの指摘に応えて栄養学のページも久々に更新したし,まあよかろう。

その後,書評掲示板に,森博嗣さんの「すべてがFになる」を追加し,ライブコーヒー本郷店で実に良い顔をしていたグアテマラのハイローストを買って帰った。今朝いれて飲んでみたら,期待通りのうまさであったのでほくほくなのである。


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