枕草子 (My Favorite Things)

【第141回】 札幌紀行〜日本人口学会第51回大会にて(1999年6月7日)

今年の人口学会は北海道東海大学が会場なので,4日夕方から北海道に来た。宿は去年の人類学会に引き続きホテル・センターパークである。実は,この文章は新千歳空港から札幌へと向かう電車の中で打っているのだが,この電車の座席の方が飛行機の座席よりずっと広くて座り心地がいいのはどういうことか。日本航空とかいう会社には反省を望みたい。いくらエコノミーとはいっても,いくら4週間前事前購入割引の席といっても,あの狭さはひどいと思う。新幹線と比べようとは思わないが,仮にも飛行機であり,高い料金を取っているのだから,1040円の快速電車より座り心地が悪いのは不合理ではなかろうか(ちょっと言いがかりかもしれないが,これくらい書きたい気分なのだ)。

今回,チケットの購入を初めてWEBサイトからチケットレスで行ったのだが,これは便利だった。浜松町でクレジットカードを機械に差し込むだけでチケットが出てくるのだ。羽田空港に着いてから並ぶ必要がない。これは今後も利用しようと思う。今回の飛行機で特筆すべきことは,座席のひどさ(しつこい?)には目をつぶっても良いと思えるほどの,機内誌WINDSに載っていた大紅袍の記事のすばらしさである。そう,あの3本しかない原木から毎年800グラムしか収穫されないという,幻の岩茶である。25グラムで3万円で入手したというのは贋物っぽいけれど,カラーグラビアで原木の写真を拝めるとは思わなかった。先日のテレビ(「世界ウルルン滞在記」という番組で放映されたらしい)を見逃したのを悔やんでいただけに,これは嬉しかった。

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金曜の夜は宿に着いたら20:00を過ぎており,とりあえず食事に行くことにした。大通り公園で若者の大集団が一糸乱れぬ動きを見せて踊っており,初めは何なのか不気味だったが,9日から始まる「よさこい・そーらん祭り」という祭典の準備らしいことがわかった。ほっとするやら残念やら。さぞかし見物であろうにと思う。大通りから南に1本入って左に歩いてゆくと,東急ハンズの向かいに「魚や一丁」の本店があった。これ幸いと入ってゆくと10分待ちだったが,二人でたらふく飲んで食って8450円と満足であった。

センターパークの最大の長所は,一晩中大浴場が開いていることである。帰ってすぐはへろへろに酔っぱらっていたので,朝方起きて,誰もいない朝風呂を堪能した。すばらしい。学会の会場の北海道東海大学は地下鉄南北線で終点の真駒内まで乗り,さらにバスで20分という辺地にあるので,余裕をみて7:45にホテルを出る。真駒内から適当なバスがなかったので不本意ながらタクシーに乗ったら8:35には会場に着いてしまい,少々時間をもてあます。朝一番の発表が萩原君,次がぼくだったので聴衆は少ないだろうと思っていたのだが,あにはからんや,大勢の人が聞いてくれた(ちなみに,シミュレーション人口を使った,プリンストン研究で提案された「総合出生力指標」の評価をしたのだが,いつもの人口学会では,こういう数理的なものにはあまり聴衆がいないのである。シミュレーションと分析に使ったプログラムはこちらから入手できるので,関心のある方は試されたい。いや,いろいろなパラメータを系統的に試してくれるマンパワーが欲しいんですよ,かなり本気で)。とても嬉しかったのだが,30部しかハンドアウトを用意してこなかったので,もしかしたら不足したかもしれないのは失敗であった。いくつもの発表が同時並行で走るので,個々のセッション参加人数が読めないのが,人口学会の構造的欠点と思う。

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今年の人口学会では,少子化がらみで育児支援,雇用慣行などを調べた発表も多かったが(昨夜のNHK総合でも少子化の特集をしていたけれど,やっぱりブームなんだろう),もう一つ目に付いたのは離婚の研究であった。しかも必ずしもネガティブなイメージではなく,marital unionの再構成のチャンスでもあるという視点での研究が多かった。江戸時代末期の東北地方の農村2つの宗門人別帳からデータを抜き出し,年平均離婚率が5%を超えていて現在よりずっと高かったという研究は面白かった。まあいろいろと細かくコメントしたい発表がないことはないのだが,ここで書いてもしかたがないので,発表者に直接コメントすることにしよう。

懇親会は静かに飲んで語る会で,去年の人類学会に比べると「アトラクション」もなく,地味に進行した。この場でもいろいろな意見をもらえたのは良かった(ただ,一つショックだったことがあった。とある老先生に言われたのだが,「いやあ,あなたが誰かに似てると思ってたんだが,やっとわかりましたよ。ビル・ゲイツにそっくりですね」一瞬気を失いかけた。ほめ言葉のつもりでおっしゃったような気がするだけにつらいものがある)。その後人口情報研究委員会とかいう会合があったのだが,案の定といおうか,懇親会のあとなんかにまで参加する人はごく少数だったのだった。ぼくは常々,学会ではAAPA(アメリカ自然人類学会)のナイトセッションとか進化生物学春の学校みたいなエンドレスナイトセッションとかがあったらいいのにと思っているのだが,人口学会ではやっても参加者が少なくて破綻しそうである。テーマ次第かもしれないし,年々若い会員も増えているようなので,企画してもいいかもしれないが。

懇親会の後はホテル近くまで帰ってきて,オホーツクビールとかいう地ビールを飲んだら,なかなか美味しかった。入った店は前の晩の「魚や一丁」と同じ通りを東に1ブロックいったところの地下1階にあり,10種類以上の北海道の地ビールが揃っていて,値段も安く,よい店であった。店の名前を忘れてしまったのは観光案内としては失格であるが,札幌の町は幾何学的にわかりやすいので,たぶんこれだけの説明でも辿り着けるだろう。水曜の夜は生演奏が入るとのことであり,そういえばステージにあったスピーカーはBoseとJBLであり,生演奏でない土曜日の晩でも,流れるBGMはなかなか音が良いのであった。日曜日も北海道東海大に行って午前中のセッションをいくつか聞いてから,急いで札幌に出て昼食をとり,土産を買って新千歳空港から羽田に帰ってきて,さらに上野から長野まで帰ったので,息つく暇も無いのであった。今朝からまた遠距離通勤というのは,なかなか体力的にきついのである。一日中雨もよいであるし,気が重くさえなってくる。このあたり,新幹線車中で打っているのだが,眠いので今日はここまで。


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