枕草子 (My Favorite Things)

【第735回】 追試の監督(2001年12月14日)

往路あさま504号。今日から長野県北部は雪が続くらしいのだが,朝は冷たい雨だったので,長野電鉄を使った。今日は10:40から追試の監督をするのだが,受験生が1人しかいないので,前に座って論文の原稿でも考えることにしようと思っている。それくらいは許されるだろう。そう考えると,なまじ数人の受験生がいるくらいなら,1人の方がいいかもしれない。

今週のNatureには感染症モデルの論文が3つも掲載されていたので,打ち出して,試験監督をしながら目を通してみた。麻疹の流行パタンをウェーブレット解析したという論文はArticleの扱いであった。webサイトでは動画ファイルまで提供されていることからわかるように,視覚的に訴えることに気をつかっていて,これはミーティング向きだと思った。過去の天然痘の流行データを再解析して基本増殖率の推定範囲を狭めたという論文は,SEIRモデルの応用で,わかりやすかった。不完全なワクチンを使うと病原性の進化にはどういう影響が出るかという論文は,第二著者がMargaret Mackinnonというマラリアモデルの研究者であったことから想像した通り,マラリアワクチンを念頭において議論が構築されていて興味深かった。定性的には自明かとも思ったのだが,ホストの体内での病原体の増殖を阻害するワクチンは,病原性を強くする方向に淘汰をかけるので,効果が不完全だと却って集団レベルの死亡率をあげてしまうのである。と,ちょうど3つの論文に目を通し終わったところで試験監督が終わった。なんて充実した試験監督だったことか。こういう時間の過ごし方ができるなら,追試の監督は負担にならないなあ。

帰りは終電1本前。日経サイエンス2002年1月号を読んだ。異常プリオン凝集体の新しい検出法として紹介されていたSIFTというのは,なかなか有望そうではあるが,false negativeが多いというのが問題だと思った。ポストゲノム研究の特集も面白かった。とくに美宅成樹「タンパク質分子の姿をあぶりだす新手法」は目からウロコであった。NK4によるガン休眠療法の話も面白かったが,フォークマンの血管新生阻害因子とNK4の関係が気になった。本文中でもフォークマンの研究には触れていたから,違うものなのだろうが,同じ作用を示すということは,構造も似ているのではないかと思うのだが。それ以外に印象に残ったのは,「新生する脳細胞」という記事の中でのエリザベス・グールドの言葉「実験動物はきわめて特殊。餌は食べ放題,水は飲み放題だし,興味をそそるような認識経験をまるでしていない。こうした環境に動物を閉じ込めておくと,大半の新生ニューロンは数週間で死んでしまう」である。少なくとも神経系がらみを焦点にした動物実験は,彼女のいう通り,野生に近い環境で飼育する必要があるかもしれないと思った。ポピュレーション・ケージは1つの解だったかもしれない。


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