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母子保健(テキスト第8章)

最新の更新: July 7, 2010 (WED) .

2010年6月7日,13:00-14:00,中澤 港(nminato[atmark]med.gunma-u.ac.jp)

pdf版

参考資料

厚生労働省少子化対策ページ
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/seisaku/syousika/index.html
厚生労働省母子保健関係webサイト
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken.html
総務省統計局>統計データ>日本の長期統計系列
第2章 人口・世帯
文献
・杉立義一『お産の歴史−縄文時代から現代まで』集英社新書,2002年
・家坂清子『娘たちの性@思春期外来』NHK生活人新書,2007年
・"Maternal and Child Health." Encyclopedia of Public Health. Ed. Lester Breslow. Gale Cengage, 2002. eNotes.com. 2006. 3 Jun, 2010 <http://www.enotes.com/public-health-encyclopedia/maternal-child-health>

母子保健とは?

母子保健対象の人口構成上の位置

母子保健の水準

集団レベル(国や自治体)での母子保健の水準を示す指標
・出生(母)
・乳児死亡(子)
・新生児死亡(母子)及び早期新生児死亡(母子)
・周産期死亡(母子)
・幼児死亡(子)
・妊産婦死亡(母)
データソース
・厚生労働省統計表データベースシステム:http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/youran/indexyk_1_2.html
・厚生労働統計のあらまし:http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/youran/index-kourou.html

出生の指標

粗出生率(crude birth rate)
普通出生率ともいう。年央人口1000人当たりの1年間の出生数。日本の統計では,年央人口は10月1日現在推計人口が用いられている。
合計出生率(または合計特殊出生率)
英語でTotal Fertility Rate(TFR)。年齢(または年齢5歳階級)別の女子人口で,その年齢(または年齢5歳階級)の女子による出生数を割った値(これをASFR=age specific fertility rateという)を,全年齢について合計したもの(年齢5歳階級の場合は合計して5倍したもの)。

※"Fertility Rate"は,分母が再生産年齢にある女性の人口であることから,かつては一般に「特殊出生率」と訳されていたが(分母が総人口であるbirth rateが「普通」なのに対して「特殊」なため),近年ではどちらもたんに出生率と訳される(国際人口学会[編][日本人口学会 訳](1994)『人口学用語辞典』,厚生統計協会に,TFRの訳は「合計出生率」とする,と書かれているし,最近出版された,人口学研究会[編](2010)『現代人口辞典』原書房でも,TFRの日本語は「合計出生率」が採用されている)。この指標は,子を産むのが女性であるため,総人口当たりよりも女性人口当たりの出生率を計算する方が,出生だけの水準をみるには適しているという観点から考案された。さらに年齢別の特殊出生率を求めて合計し,それが時間が経っても一定であるという仮想的条件の下で女性が一生の間に産む仮想的な子供数となる,TFRが提案されたのである。

GRR(gross reproductive rate: 総再生産率)
ある仮設女子出生コホートについて,再生産完了まで死亡がゼロであるという仮定の下で,そのASFRが現在のものに従った場合の平均女児数。TFRに女児出生性比をかけたものと同値。
NRR(net reproductive rate: 純再生産率)
ある仮設女子出生コホートが現行のASFRと年齢別死亡率に従う場合の,母親がその女児を産んだ年齢まで生存する平均女児数。1.0が人口の置き換え水準を示す。生命表を使って計算する。

日本の合計出生率の変化

Changes of TFR in Japan

2005年に1.26で最低。2006年,2007年は1.32,1.34(当初1.33と発表されたが修正)。2008年は1.37,2009年も1.37(典拠:2010年6月2日に発表された平成21年人口動態統計月報年計(概数)の概況

日本の少子化の現状

日本の合計出生率(T)は低下しているが,図の通り,合計有配偶出生率(M)は近年まで低下していなかった。つまりTFR低下の主因は晩婚化・非婚化だったが,最近は年齢別有配偶出生率も低下し始めた。

合計有配偶出生率は晩婚化が進むと有配偶率が低く出生力が大きい低年齢層の寄与が大きくなって過大な値になりやすい。20歳以上の合計(2)をみるとほぼ不変。

都道府県別に見ると格差が大きい。北海道や東京で低く,沖縄や九州で高い

国際的な出生水準の比較

(出典:CIA: The World Factbook収載の2010年推定値

乳児死亡

周産期死亡

幼児死亡

妊産婦死亡

小児の発育と発達

経過
・胎児期から幼児期前半までの急増期
・幼児期後半から学童期前半までの比較的安定した時期
・思春期の急増がみられる時期
・ゆるやかに発育が停止する時期
◆上記4つに分かれる。臓器別に発育パタンは異なる。発達は運動発達,知能の発達,社会性の発達,情緒の発達などの領域に分けて考える。
年次推移
幼児期後半以降は身長,体重ともずっと増加傾向。乳児期,幼児期前半は1975年以降横ばい。近年は小児肥満が問題化。

母子保健行政

母子保健対策

(1)健診事業・検診事業
妊婦健康診査,乳児健康診査に加え,母子保健法第12条により1歳6ヶ月〜2歳,3歳〜4歳で市町村が健診を行うこととされている。1歳半健診では,身体発育状況・栄養状態・脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無・皮膚の疾病の有無・歯及び口腔の疾病及び異常の有無・四肢運動障害の有無・精神発達の状況・言語障害の有無・予防接種の実施状況・育児上問題となる事項・その他の疾病及び異常の有無を調べる。3歳児健診では1歳半の各項に加え,眼の疾病及び異常の有無・耳、鼻及び咽頭の疾病及び異常の有無の2項目も調べる
新生児に対して,足底動脈から採取した血液試料を用いて,先天性代謝異常等検査(フェニルケトン尿症,楓糖尿症,ホモシスチン尿症,ガラクトース血症,クレチン症,先天性副腎過形成症の検査)が行われている。【参考:「スクリーニング」の講義枠でもう一度触れる】
1984年から生後6〜7ヶ月児を対象に尿検査によって実施されてきた神経芽細胞腫のスクリーニングは2004年までで国の集検事業としては中止になった(札幌市と京都府は独自に1歳6ヶ月児健診で継続)。
(2)保健指導
母子保健法第10条で,市町村の義務として妊産婦や配偶者等に対して保健指導を行い医師等の指導を受けることを勧奨することとされている
母子保健法第15条に妊娠届出義務

第十五条*  妊娠した者は、厚生労働省令で定める事項につき、速やかに、保健所を設置する市又は特別区においては保健所長を経て市長又は区長に、その他の市町村においては市町村長に妊娠の届出をするようにしなければならない

妊娠の届け出に対して市町村が母子健康手帳を交付(母子保健法第16条)

*第十六条*  市町村は、妊娠の届出をした者に対して、母子健康手帳を交付しなければならない。*2 *  妊産婦は、医師、歯科医師、助産師又は保健師について、健康診査又は保健指導を受けたときは、その都度、母子健康手帳に必要な事項の記載を受けなければならない。乳児又は幼児の健康診査又は保健指導を受けた当該乳児又は幼児の保護者についても、同様とする。*3 *  母子健康手帳の様式は、厚生労働省令で定める。*4 *  前項の厚生労働省令は、健康診査等指針と調和が保たれたものでなければならない。

母子健康手帳について:
訪問指導は,母子保健法11条で新生児(市町村長),17条で妊産婦(市町村長),19条で未熟児(都道府県または保健所を設置する市や特別区の長)について規定されている
(3)食育指導・栄養指導
◆「授乳・離乳の支援ガイド」2007年3月策定(参照
「改訂 離乳の基本」1995年策定(2007年廃止)で離乳については凡そ生後5ヶ月から(早くても4カ月,遅くとも6ヶ月)というガイドラインがあったが,授乳については日本ではそれまでなかった。保健医療従事者が授乳支援・母乳育児支援をするためのポイントが謳われている。山口県光市「おっぱい都市宣言」が自治体ぐるみの支援例として掲載
離乳については5,6ヶ月頃開始,12〜18ヶ月頃完了とされた
WHOの"Global strategy for infant and young child feeding"(2003年)(参照)では6ヶ月まで母乳のみで育てるべきと強く推奨されているなどの世界の動き(WHOは,"Planning guide for national implementation of the global strategy for infant and young child feeding"という文書(参照)も2007年に発表していて,各国の事情に応じてどのように2003年の戦略を実施したらいいのかのガイドもしている)や,平成17年度乳幼児栄養調査(厚生労働省)などの新しいデータを反映。
◆「楽しく食べる子どもに 食から★はじまる★健やかガイド」2004年策定(全文pdf)。厚生労働省が設置した「食を通じた子どもの健全育成(−いわゆる「食育」の視点から−)のあり方に関する検討会」の報告書に示された啓発・普及活動の一環として作成されたリーフレットである。「食べる力」を育む狙い。
授乳期・離乳期
安心と安らぎの中で食べる意欲の基礎づくり
  • 安心と安らぎの中で母乳(ミルク)を飲む心地よさを味わう
  • いろいろな食べ物を見て,触って,味わって,自分で進んで食べようとする
幼児期
食べる意欲を大切に,食の体験を広げよう
  • おなかがすくリズムがもてる
  • 食べたいもの,好きなものが増える
  • 家族や仲間と一緒に食べる楽しさを味わう
  • 栽培,収穫,調理を通して,食べ物に触れはじめる
  • 食べ物や身体のことを話題にする
(4)医療援護
低体重児(出生時体重が2500g未満)が出生した時は速やかに保護者が保健所に届け出なければならない(母子保健法第18条)。
母子保健法による養育医療(第20条),児童福祉法による育成医療,小児慢性特定疾患への医療費援助なども行われている
(5)基盤整備
市町村の活動拠点としての母子保健センターなど(母子保健法第22条)→1978年から市町村保健センター(法制化は平成6年地域保健法から)に役割移行(但し助産機能は脱落)

*第二十二条 *  市町村は、必要に応じ、母子健康センターを設置するように努めなければならない。*2 *  母子健康センターは、母子保健に関する各種の相談に応ずるとともに、母性並びに乳児及び幼児の保健指導を行ない、又はこれらの事業にあわせて助産を行なうことを目的とする施設とする。

(6)予防接種
◆厚生労働省:*予防接種対策に関する情報*(http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1.html)を参照。
◆予防接種法(http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/hourei/1.htmlに全文掲載されている)に基づき,一類疾病及び二類疾病のうち政令で定めるものについて,保健所長(特別区と政令市では都道府県知事)の指示を受け市町村長が定期接種を実施することとされている。臨時接種は厚生労働大臣の指示により都道府県知事が実施する(か,または市町村長に実施指示を出す)。
第一条
この法律は、伝染のおそれがある疾病の発生及びまん延を予防するために、予防接種を行い、公衆衛生の向上及び増進に寄与するとともに、予防接種による健康被害の迅速な救済を図ることを目的とする。
第二条
この法律において「予防接種」とは、疾病に対して免疫の効果を得させるため、疾病の予防に有効であることが確認されているワクチンを、人体に注射し、又は接種することをいう。
2 その発生及びまん延を予防することを目的として、この法律の定めるところにより予防接種を行う疾病(以下「一類疾病」という。)は、次に掲げるものとする。
  • 一 ジフテリア
  • 二 百日せき
  • 三 急性灰白髄炎
  • 四 麻しん
  • 五 風しん
  • 六 日本脳炎
  • 七 破傷風
  • 八 前各号に掲げる疾病のほか、その発生及びまん延を予防するため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病として政令で定める疾病
3 個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の予防に資することを目的として、この法律の定めるところにより予防接種を行う疾病(以下「二類疾病」という。)は、インフルエンザとする。
4 この法律において「保護者」とは、親権を行う者又は後見人をいう。
◆厚生労働省から「定期(一類疾病)の予防接種実施要領」として公開されている文書(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/teiki-yobou/07.html)に,細かく記載されている。母子保健関係の事項を以下取り上げる。また,多種類の予防接種を受けるので,個人の接種状況を管理する必要があり,そのために母子健康手帳が活用されている。

少子化と育児支援

子ども・子育て応援プラン

児童虐待

子どもの心の診療医

(2006年検討会最終報告書,2007年から研修開始)

参照先
田中英高「子どもの心の診療医養成事業の現状について」(日本小児心身医学会のサイト内)
子どもの心の診療医の養成に関する検討会平成17年度報告書について同報告書(厚生労働省のサイト内の報告書)
「子どもの心の診療医」テキスト(厚生労働省のサイト内)
概要
背景:「心の問題をもつ子ども」が社会問題としてクローズアップされたが,専門的な診療を行うことができる医師や医療機関は限られている。
対策として,子ども・子育て応援プランに従い,厚労省雇用均等・児童家庭局が『「子どもの心の診療医」の養成に関する検討会』を設置。「子どもの心の診療のための教育・研修到達目標」が作成された。同時に『子どもの心の診療に携わる専門的人材の育成に関する研究』(主任研究者 柳澤正義)が開始され,需要と供給の実態把握や今後の診療医養成の手法等について調査研究が進められた。
検討会報告書によれば,子どもの心の診療に従事する医師は,(1)卒後臨床研修を終了後,小児科や精神科の一般的な研修を終了し,一般的な診療に携わる一般の小児科医・精神科医【レベル1】,(2)これを経て,さらに子どもの心の診療に関する一定の研修を受け,子どもの心の診療に定期的に携わる小児科医・精神科医【レベル2】,(3)これらを経て,子どもの心の診療に関する専門的研修を受け,専ら子どもの心の診療に携わる医師【レベル3】の3種類に分類される。平成17年からそれぞれのレベルにおいて作業部会が結成された。レベル別に研修テキスト作成や研修会開催が必要であり,厚生労働省は日本小児心身医学会,日本小児科学会などに協力を要請した。
レベル1向け事業は小児科,精神科関連の多くの学会が実施した。2006年度に一般小児科医向けテキストが完成し,2008年4月に日本小児科学会会員に配布された。
レベル2向け事業は「子どもの心の診療関連6医学会連絡会議」が中心となって行われている。研修テキストは2006年度に完成し,厚生労働省webサイトに掲載されている。研修会は,6医学会連絡会が共同で行う「子どもの心の診療医専門研修会」(期間は1日のみ)と,6学会それぞれの学会年次大会や研修会の中の教育講演などを「子どもの心の診療関連医学会連絡会議 共同開催研修会」と指定しそれを受講してもらうものとの2本立てで行われている。
レベル3向け事業は,日本小児心身医学会の年次大会イブニングセミナーで研修会が行われている。2010年度から日本小児心身医学会認定医制度が始まるが,その目的はレベル2及びレベル3診療医の養成であると位置づけられている。

リプリダクティブヘルス&ライツ

若年層の性感染症

⇒学校保健の問題でもあるが,母性の健康にも関連するのでここで挙げる。


リンクと引用について